発達心理的なアイデンティティの話
文字数 4,096文字
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今日のテーマは、「外伝:叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼」の2章橋屋家撲殺事件にあわせて『ストークする人々』と最終話にむけて『同一性』について書いてみようかなと。実は前に刑法的なところでは諸事情あって一度調べたことがあるんだよ。でもそれだけだと無味乾燥でつまらないから、色々取り混ぜていこうかなと。
現実的な問題としては「相手が嫌がるのに続ける」というところに集約されると思うんだよね。嫌がるのに続けるってことは、あるストークする人自身の行動とか動機のなかに【他人がどう思うか】という視点を欠いている状況で、ストーカーの中で相手というのはどういうものなのかなというのが気になるアレ。
警察関係の文章でよく引かれているのが福島章っていう人の論考で、それは精神病(本当に病)、パラノイド(勘助系)、ナルシスト(自己肯定目的)、サイコ(自己目的を自覚)、ボダ(自他の区別がつかない)にわけてる。なお、()内はTemppの独自注釈なので間違ってるかも。
でも他にも分類方法自体は色々あってさ、外形から見て有名人にストーキングするファン型(ジョン・レノンを銃殺したマーク・チャップマンとか)とかエロトマニア(強固に好かれていると思い込まれる)とか色々ある。
基本的に病気なら治療だし、ただの勘助なら勘違いと告げる、ナルなら相手を持ち上げればなんとかなるしサイコは諦めるしかない、ということでボダとストークの話で進めようかなと。
どちらかというと境界性人格障害の過去の扱われ方メインという誰得な話。
ストーカーの心理というよりはもう少し限定的な話を展開してみる。
この人はエロとか肛門とかやたらエロ方面で印象深い人ではあるが、このひとの1番の功績は「無意識」という概念を打ち立てたことだと思う。
フロイトは圧倒的無意識で快楽を求めるエスと後天的に植え付けられた超自我(まあ、道徳とか理性)というのがあって、それを調整する自我(玄関)ってのがあるけど、オートプレイモードだから人間には制御できないというのが「無意識」でその骨子。これまでデカルトさんとかが「自我」があるんだとワチャワチャしてたのを「無意識」っていう概念でぶっ飛ばした人。あーデカルトさんは5章で重要なキーポイントで出てくる。思い起こすとアレだな。自分の哲学の話はこま切れすぎる気がしてきた。
で、フロイトさんは超自我というのはその属する文化のなかで一定の規範を自己の中に確立することを目的としている。で名前だけはよく知られている幼児から大人になる過程、口唇期とか肛門期とか男根期とかそういうのを通じてこれらの要素が形成されていくわけで、そういう人間の心理的な成長過程のモデルを「心理性的発達段階説」っていうんだわ。フロイトさんはもう少しソフトなネーミングにしたほうが受けたよな。まあ生まれたばかりはエスしかないけど教師的な役割として超自我を形成しつつイドと超自我のバランスをとるためのアウトプット窓口の自我というか。
さてそれで「同一性」という概念が出てくる。ようはアイデンティティだ。
これはエリクソンっていう人がフロイトの心理性的発達段階説ってのを発展させたもので、いわゆる青年期という時期に明確に自己が自己であるという確信を得られるとその後の人生が精神的にはイージーモードになれるという代物だ。
それで境界性人格障害は1950年代からずっと研究されてきたんだけど、そのころは「同一性の不確実性」が根幹にある病だと認識されていた。DSMっていう診断マニュアルがあってだな、境界性人格障害は昔は人格障害に分類されていたんだけど、1980年頃に分離して、その時「同一性の不確実性」っていうのが診断項目の1つになった(なお、4では必須項目ではなくなったが)。だから以下の話は現在の臨床とは結構違う話だ(注意)。
でさっきのエリクソンに戻る。エリクソンは同一性ってのは簡単にいうと、「自分は何者か、自分は何を成すのか、それから自己に対する社会の位置付けを肯定的かつ確信的に回答できる」状態にあること。
まじか? こんなん回答できる人間なんているのかな。これが提唱されたのはアメリカの黄金期でみんな自信に満ち溢れていたからだと思う。コミュニティ感も現代とは大分違うような気もするし。
具体的に言うと、
①俺は紛れもなく独自で固有な俺で、どんな状況でも俺が俺であることを俺が認めているし他人からも認められる。
②以前の俺も今の俺も一貫して全部俺と自覚してる。
③俺は集団に属していることに肯定的で、同じ集団の構成員からも俺が俺であることを認められている。
ってことだ。
よく考えたらナナオさんは満たしてるな。坂崎さんは③が論外だな。
それでエリクソンは境界性人格障害の中核を「同一性の不確実性」、さっきの3つの要素の不確実性に置いたんだけど、その起源はフロイトさんの言うところの口唇期後期の両親との関係の喪失とか欠落にもとめている。ようは本来子供のころに得るべき「同一性」の欠損、愛情不足。フロイトさん一派なので考え方はいつもと同じだ。
それで青年期にアイデンティティが統合されていくわけだが、その基底に欠損があるからうまく再構成されず同一性が確立されない、というのがエリクソンがいうところの帰結のような気がする。
だいたいのフロイト派が乳幼児期だけに原因を盛っていくのは無茶じゃないかなとは思っているんだがどうなのかな。
で、結局エリクソンは境界性人格障害ってどういう病状なのかっていうと、「同一性が不確実」な状態に陥ると、「突発的に虚脱状態に陥ることによって乳幼児のころの混乱と退行が生じて最初からやり直そうとする絶望的な願望に襲われる」のだそうな。つまり悪くなった関係性を全部なかったことにして良い関係性を再構築させようとするんだな。
この点についてバリントさんっていうお医者さんは、境界性人格障害の患者から聞き取ったことによると、自分の中に欠落を感じていて、それが他原因と感じた上でそこに大きな不安感を感じていて、再統合を望んでいる、そうだ。
まあ、家で出てくるあの人の心理だ。別に境界性人格障害の設定ではないのだけど欠落を埋めようとする行為がアレで。
無理やりストーカーに結びつけようとすると、ストーカー行為によって再構築させようとしているときには相手のことなんか見ていない。エスしかない幼児だからっていう帰結になるのかな。
・見捨てられること(実際のものまたは想像上のもの)を避けるため必死で努力する
・不安定で激しい人間関係をもち,相手の理想化と低評価との間を揺れ動く
・不安定な自己像または自己感覚
・自らに害を及ぼしうる2領域以上での衝動性(例,安全ではない性行為,過食,向こう見ずな運転)
・反復的な自殺行動,自殺演技,もしくは自殺の脅しまたは自傷行為
・気分の急激な変化(通常は数時間しか続かず,数日以上続くことはまれ)
・持続的な空虚感
・不適切な強い怒りまたは怒りのコントロールに関する問題
・ストレスにより引き起こされる一時的な妄想性思考または重度の解離症状
これは根本原因からのアプローチではなくて現象面からのアプローチのような気もするけど。
貝田さんは呪いの影響だから別に境界性人格障害じゃないんだけどね。どっちかっていうと呪いという病気系なのかも。
さて、臨床的なストーカーの研究というのは結構されてはいるんだが、HowTo的なものは難しい。恋愛感情すら多種多様なんだから振られた後の心理状態なんて機序が判明できるわけないだろとは思う。
前述の福島章の分類みたいに分類はできて傾向と対策はよめる部分もあるけど、そっからさきはパーソナリティの問題なので結局個別対応のネゴになるからそれ以上に踏み込めない。方向性からして好きでやってるのと嫌いでやってるのがきっぱり分かれるしな。だから対策の話をしようか。
でも仕事の関係で離れられない時はもう完全防御するしかないのかなぁ。所轄警察で「文書警告の申出」をしてそれでもやまない場合は「禁止命令等の申出」をする。
悲観的になって自爆するパターンが困るから、大音量のアラームをもって必ず誰か一緒にいるしかないと思うな。
刑法的な話とか接見禁止命令の手続きとか、リクエストがあれば展開しようかなと思うけどこういうのはネットで調べればある程度出てくるからとりあえず割愛。