ミイラ、屍蝋、即身仏の違い(1)
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ちなみにいまTemppは晩ご飯食べながら書いてるんだけど、食事時には向かないと思います。
法医学で「永久死体」という概念がある。これは死体自身というよりは死体の現象を指す言葉だけど、特殊な状況下で死体の腐敗が止まり長期に現況をとどめる現象だ。特殊死体現象とも呼ばれる。
それで、「ミイラ、即身仏」と「屍蝋」は何故そんな現象が起きたかという原因が異なる。
浸軟は晩期死体現象という、死後時間が経ってから起こる現象に分類されるときもある。
腐敗は細菌がいないと発生しない。子宮内は無菌状態で、胎児が死亡し、自家融解等で柔らかくなった状態が浸軟だ。
正直この状態で留め置かれるわけがないし、「長期的」という要件を満たすのかよくわからないな。法医学は詳しくない。
なお、argosy publishingというところが出してる「ヒューマンアナトミーアトラス」というアプリがある。3Dの人体模型データで血管だけとか神経だけみたいな表示もできるし3Dだからぐるぐる回せるしと優れもののアプリで、ちょくちょく120円セールをしている。人体に興味があるなら超お勧めできる。難点は1.5Gくらいあることだが……。
以前に「人体の不思議展」でプラスティネーションの遺体が展示されていたけど、筋肉のつき方を学ぶには勉強になった。なんでか展示されてるのは筋肉ばかりだったが。
ミイラとか即身仏との違いとしては、これらの多くが人為的になされるのに対して、屍蝋は自然発生することが多いのが特徴でもあるかな。
特にヨーロッパは泥炭地が多くて結構見つかってるんだ。デンマークとかアイルランドとか、少し寒い沼地で植物が分解しきらないまま堆積して泥炭層ができる。泥炭は石炭の一種で近年でも燃料に使われている。ウィスキーのビート香のビートは泥炭のことだ。麦芽を止めるための乾燥に泥炭を使ってる。
そういうところに埋まってるのは「泥炭遺体」とも呼ばれるな。
だからきれいで完全なものは逆に密閉された湿った墓とかのほうが確立は高いような気がする。
多分一番有名なのはトーロンマンっていう紀元前4世紀の泥炭遺体だが、地元民がストーブ用にピートを切り出したときに埋まっているのを見つけて、最近の殺人事件だと思って警察に通報したらしい。今も博物館に展示されているが、指紋もはっきりしていて無精ひげまで残っていて、胃からはおかゆが検出されたとか。なんでおかゆ残ってたんだろ?
氷河とか高山とかなら寒いところでも乾燥してミイラになることがある。ちなみにヒマラヤとか高地の有名な登山ルートはミイラだらけと聞いたことがあるな。遺体を持ち帰るのは困難だから。
エジプト人は人を構成する要素が「バー」「カー」「イブ」「レン」「シュト」という5つにわかれると考えていた。
「バー」っていうのは幽霊に近いかもしれない。個性とか人格とか独自性とか精神っぽいもの。「カー」っていうのは説明が難しいが、もっと本能的な魂、なんだろうか。生命力とか司る。死んでも活動にはエネルギーを得る必要がある。これを司るもの。「イブ」は心臓。死者の審判で必要になる。「レン」は名前で「シュト」は影。
wikiとかではこの5つを霊魂の要素って解説してるけど、なんか違和感があるんだよな。
そこなんだよね、エジプト人の死生観自体がちょっと独特なんだと思う。キリスト教とかでも死後の世界ってのは現世と明確にわかれてる。けど、エジプトでは現世の死と来世の生はつながっていて、イアルの野では現世と同じような生活を続ける。副葬品に死後の世界で使う家具とか化粧道具とか楽器とかを入れておく(ただ、初期はイアルの野に至れるのは王だけで、貴族は地上で暮らすみたいな考え方だったから、時代によるのかも)。
日本ではもっと精神寄りで、この間の神道でも一霊四魂っていって人の魂を和魂とか荒魂とかに分けるけど、精神の働きによる分類だから、結構違うなって思う。エジプトの魂感は思っている以上に物理寄りなんじゃないかな。
この説明はあくまでも、死者の書という「冥界ヒッチハイクガイド」ができたと言われる紀元前2000~1000年前後を想定している。なお、このガイドブックもVerによって中身が変わる。
それで、死後の上記要素の動きなんだが、まず「バー」は死んだらイアルの野を目指して旅に出る。でも夜になったら体に帰ってくる。死んでもご飯を食べたり寝ないとしないといけない。「カー」はお供え物を受け取って、食べて栄養補給をする。で、死後もご飯がおいしく食べられるように体を補完しないといけない。そのために儀式を行ってミイラを作った。
昔読んだ本で今手元にないから自信がないのだけど、食べ物の「カー」か「バー」を食べてるっていう考え方をすると書いてあった記憶があるな。
ちなみにミイラが作られる際に腐敗の防止のために内臓は抜かれるが、オシリスの審判で心臓を使うから、心臓、つまり「イブ」だけはミイラの中に残された。他の臓器はカノープスの壺っていうのに保存される。FFとかで出てくるやつ。ホルスっていう鷹の頭を持つ神様の4人の息子が肝臓とか胃とか、それぞれの臓器を担当している。ミイラの口を開ける儀式っていうのがミイラづくりにおいて最重要なんだけど、内臓はどう考えられていたんだろうか。
そもそも何千年もミイラを守るなんて無理なんだと思う。