地下鉄は思ったより立体構造

文字数 4,591文字

「不運な俺と首狩り魔人」をお読み頂きまして、誠にありがとうございます。

今回は、3話で藤友君が図面を調べて駅に突入するシーンがあるので、『地下鉄』とか『図面』について色々書いてみようかなと思っています。


建築について興味がなければ面白くないと思いますので、スルーください。


ちなみに鉄男ではありません。「交差する巨大構造物」がすきなんです。


ところでナナオさんは建物をつくるとき、何枚くらい図面かくと思う?

ううん? 設計図じゃないの? そういえば話で出てきたけど「横断面図」ってなんなん?

ていうか、私この話でてないんだけどなんでアンリちゃんとかハルキじゃないん?

うーん、なんていうか藤友君と坂崎さんにはぴったりなアイコンが見つかりませんでした。

なお、首狩り魔人の表紙の絵は坂崎さんのイメージです。

設計図は必要なんだけど、実は建築士さんは普通の人が思ってるよりずっとたくさんの図面を作ってる。例えば二階建ての住宅を建てるとするでしょ、まず土地についてはどのくらいの大きさのたてものが建てられるか、どこに建てるかっていうので「求積図」っていうのと「配置図」を作る。


ふむふむ。建物の方が「設計図」だな?

多分ナナオさんが思い浮かべてるのは間取りがかいてあるやつだと思うんだけど、あれだけじゃ建たないんだ。あれは「平面図」っていって上から見たパースのものだから。つまり、以下の通りたくさんの図面が必要になる。

【以下、この吹き出しはスルー推奨】

四方から見た「立面図」がないと建物の高さがわからない。輪切りにした「断面図」や詳しいサイズや仕様をかいた「平面詳細図」とか「矩計図」。建物によっては階段とか特殊な部位には個別に詳細図を作る。建物の基礎部分についても「基礎伏図」とか、建物の梁と柱のつなぎがどうなってるのか示す「構造図」とか、電気の配線を書いた「配線図」とか、建物以外でも例えば植木のための「植栽図」とか、隣の家との関係で「日照図」とかいろいろある。これでもざっくりだ。

げぇ。頭が割れる。

でも地下鉄は地下だから関係ないんじゃないか?

地下鉄は地下鉄で別途特殊な図面が必要なんだ。さっきナナオさんがいってた「横断面図」もその一つ。「縦断面図」ってのもある。地下鉄を通すには、まわりに障害物がないか、本当に通るのかとか調べないといけないからね。

さすがにジェットコースター並みの傾斜角の地下鉄はいやでしょう?


他にも電線とかガス・水道配管とかがどう通ってるかを調べるし、地盤の固さとか地層なんかも調べないといけない。

「縦断面図」と「横断面図」、これはちょっと説明が難しい。

例えば地下鉄神津線のように南北方向に走っている路線。これを線路沿いに南北でざっくり割って東西方向から見たのが「縦断面図」。折れ線グラフみたいにどの駅でどの高さで走ってるかわかる。

逆に東西方向でぶった切って南北方向から見たのは「横断面図」。イメージ、輪切り。これはそのぶったぎった地点の地下鉄の周囲に何があるかっていうのが表示される。

例えば川とか坂とか凹凸があれば表示されて、川の下に地下鉄が走ってると川底と地下鉄の間がどのくらいの距離があるのかとかわかるので結構面白い。
ほほう、そうするとハルキが辻切センターのどこに貨物路線があるのかわかったのはその図面を見たからなんだな。
……あの時は勢いでかいたけど、多分それだけで特定できるレベルの「横断図面」がみつかるとは正直思えない……。書いたときは地下車両基地をみつける頭だったんだけど、探したいのは交差位置だったことを思い出して航空地図を追加しました。藤友君すまない。

なろうからの事実的な変更点はここだけです。文章的な修正と気持ち的な書き足しはあるけど。

(藤友君かわいそうに……)
まぁそれはそれとして、ここからは「横断図面」「縦断図面」の面白さと東京の地下鉄についてだ。なんで東京なのかというと、Temppが東京住みなだけだ。ほかはわかんない。
ちょ、おま。
東京の地下鉄の縦断図・横断図を駆使した面白いサイトを作られている方がいるのですが、さすがにブログを一次ソースにするのは少し控えたいので、他の部分から話を進めたい。

ちなみに上記の方のブログは「地下鉄」「断面図」といれてググれば上のほうに見つかります。とても面白いです。ソースは図書館とか博物館で調べてるのかな?

さて、横断面図・縦断面図の話だが、記憶では10年前くらいは結構WEBに乗ってて、よくこんなとこ通したなって面白く見てたんだけど、なぜか最近WEBから消されてて、ソース探しに難渋するのです。いきなり企画倒れそうなので、違った方向から攻めてみることにする。
見て面白いとこから。東京メトロが作っている「metrogram3D」というサイトをご存じだろうか?

これは東京メトロが地下鉄全線の運行状況の立体シミュレーターを作成したもので、俯瞰viewと乗車view(というのかな)があって、メトロに乗った時に地下で電車がどんな動きをしているのかをシミュる。A列車で行こう気分がちょっと味わえる。

地下鉄がどんだけ上下左右激しく動いているのか、お分かりいただけるだろう。自分でviewを選択できるともっと面白そうなんだけど。

おおっ結構きれいだなこれ。なんかネオンな感じで。

でも思ったより動き回ってるんだな、地下鉄。

なんでこんなに動き回ってるかっていうと、東京は案外高低差が大きいのと、地下障害物が結構あるからだな。特に最近は地下道とか建物の地下階が多くて、新しいのを通すのは難しいってのは、なんとなくおわかりいただける気がする。

作中の神津線はたいして起伏はない気がするけど。

高低差が激しいっていう点でいえば、例えば、「都営大江戸線」。

東京住みの人は知っているかもしれないが、この路線は地中深くにあることが有名だ。一番深い六本木駅のホーム・大門方面で地下42.3mとなる。それはそれですごいが、もっとすごいのは新宿方面の32.8mだ。あれ? なんで新宿のほうがすごいの? って思うだろ? ちなみに隣の麻布十番は26mだ。

んん? 大門方面のほうが深いからすごいんじゃないのか?
深いのも確かにすごいんだけど、考えてもらいたいのが線路の傾斜。

実はさっきの地下何mっていうのは地下鉄入り口からホームまでの距離だ。ここで駅間の高低差を考えてみよう。六本木駅は海抜31mくらいのとこにある。てことは新宿方面ホームは海抜-2m弱くらい。一方麻布十番駅は海抜5mくらい。てことはホームは―21mくらいのところにある。そうすると、高低差は19mもある。GoogleMapで調べた駅間の直線距離は850mで、この距離で19mをクリアしないといけない。

六本木に芋洗坂っていうのがあって、その下を大江戸線が走ってるっぽいんだけど、いったことがある人なら結構な高低差ってのがなんとなくわかるんじゃないかな。

大江戸線がすごいのは、これが六本木だけの話じゃなくて、かなりの割合でこのレベルの傾斜をクリアして走ってる。

東京は大変なんだね。酔ったりしないのかな。

それで新しいのを通すのが難しいってのはどういう話?

さすがに電車で酔ったりはしないかな、酔っ払ってなければ。


大変さで多分一番わかりやすいのが新宿かな。新宿は地下通路がいっぱいあって、地下商店街もあって、各ビルが地下街を持っている町だ。

ってことは、結構地下はすでに埋まっている。しかもやたらとでかいビルが大量にある。大きいビルって、地震とかで倒れないようにかなり地下深く掘って基礎を作ったり、硬い地盤まで長い杭を打ってから立ててるんだよね。

ここを無理やりくぐりぬけて2008年に開通したのが副都心線新宿三丁目駅。

ああ! 辻切センターででかいショッピングモールがたったときにめっちゃ深く掘ってたのを見たことがあるぜ! そんなのばっかりなのか。
そうそう。googlemapで新宿三丁目駅を見るとわかるんだけど、赤い網がかかってるところには地下街と地下通路でかなり広範囲に広がってる。どかんどかんでかいデパートがたって普通に地下は食料品店が展開されてるし、基礎はもっと深いと思う。

ところで新宿三丁目駅をググると、すぐにメトロのHPで駅構内立体図というのが出るのですが、何かおかしいことをお分かりいただけるだろうか。

んんん……3車線あるけどこれじゃあ真ん中でぶつかるよね………
まじぶつかる勢い。

メトロアーカイブアルバムというHPに「副都心線建設史」という冊子のデータがある。

これの446頁からが新宿三丁目駅についての記載なんだが、448頁の縦断図を見てほしい。丸の内線と副都心線、まじでぶつかってる。中身をみると、地盤が沈下しないように丸の内線を杭とか鉄骨でごりごり補強し薬液で固めながら工事をしている。工事中に5㎜の沈下が生じたけど毎晩調べて列車運行に問題がないから進めたっていう記載は涙を誘う。丸の内線は古い路線だからいろんな不確定要素があるのです。

最終的には30cmくらいの距離をあけられたようだが。

30cm!? めっちゃ近くね?
次は都営新宿線。

実は副都心線は丸の内線と都営新宿線のすき間を走ってるんだ。

ところで今の地下鉄ってのはだいたいシールド工法っていうので作られてる。たまにニュースでみかけるけど知ってるかな。

大きな芋虫みたいな機械で掘りながらパネルを張り付けて壁をつくりながら工事をしていくやつだよね。妖怪でいうと野づちっぽいやつ。
そうそう。

同じく副都心線建築史(454頁)では、直下には都営新宿線のシールドがあって、副都心線のシールドセグメント(ようするにパネル)と都営新宿線のセグメントの間が、着工前の計算上で11cmの部分があったようだ。書きっぷりからすると計算値っぽいが、うまくいっても11cmって感じに読める。頑張っても11cmしかすき間がないぞってところから工事始めたんじゃないか(読み間違いの可能性はあり)。

普通は計算値からリスクを織り込むだろ?シールド作るときの振動とか工事の影響での地盤の浮沈とかもありうるわけで、一体どんな精度で工事するつもりだったのかと。

11cmって広げた親指と人差し指くらいの長さじゃんか!
地盤の性質とかも見極めてたんだろうけど、よくそんなところでガリガリ通したよね。すごい。

なお、こういう無茶をしているので、副都心線はホーム自体に勾配をつけている。そんなわけで7年もかけて副都心線新宿三丁目駅が完成したわけだ。

ちなみに丸の内線の中で、新宿から荻窪までの10.8㎞を結ぶ通称荻窪線というものがある。こいつは1959年に着工してから1962年に全線開通するまで3年程度だ。いかに副都心線新宿三丁目工事がたいへんだったかがわかると思われる。

今回も随分好き勝手話したな。
トンネル工事全般そうだけど、日本の穴掘り技術って最強じゃないかなって思うんです。

ほんというと浸水対策の水頭縦断図とかの話もしたかったのですが、あまりにもマニアックな方向にいってしまうので、今日はここまでです。


こういうのに興味があるひとっていないと思いますが、もしいらっしゃればお手紙けるととてもうれしいです、同志よ。

次はもうちょっとわかりやすい話にしたいと思います。

読んでいただいてありがとうございました。

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登場人物紹介

東矢一人。新谷坂高校の寮に住む。

1年の春、新谷坂山の怪異の封印を解いてしまい、再封印のために散らばった怪異を追う。

作中ではイラストよりもう少し存在感薄いイメージ。

ナナオさん。本名は末井奈也尾。

作中では髪はアップにしている。

にぎやかしと友情担当。

ギャルっぽいなりだが人情に熱く、困った人を放っておけない。

黒猫のニヤ。

新谷坂山の怪異を封印していた。

雨谷さん。雨谷かざり。

「雨谷かざりは同じ日をくり返す。」だけ登場予定。

藤友晴希

坂崎安離

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