(39)地球が、壊れ始める。

文字数 1,647文字

失意の松本華奈に、上司が与えた仕事は、「政府要人の警護」だった。
「ロボットが宇宙空間とやらにいなくなれば、我々公安の職務対象外になる」
「お前は、それについては、お役御免だ」
「松本は、浅田副総理の政治資金パーティーに張り付いて欲しい」
「政財界の超大物連中が集うから、それを狙う下賤の輩も多い」

上司からの指示を受けて、松本華奈は、日比谷の超名門ホテルでの政治資金パーティー会場に出向いた。

「いつもの通りかな」
(松本華奈は、受付係に扮して、来客の様子を見ている)
首相を含め、全閣僚が入って来る。
また、与野党の幹部連中は、既にほとんど会場の中にいる。
その他、経済四団体のトップ、アメリカをはじめとする主要国の大使の顔もある。

松本華奈は、目視ながら、参加者が受付に渡す「参加費:封筒」に注目した。
「二万円と書きながら、分厚いなあ・・・」
「200万は入っている」
「でも、領収書は、あくまでも2万円」
「あれほど裏金が問題になったのに、喉元過ぎれば・・・か」

受付から目を少し先に動かすと、先輩公安がA新聞記者を取り押さえている。
「おい!帰れ!ここはお前のような左翼マスコミが来ていい場所じゃない!」
「取材報道の自由?そんなの知るか!」

A新聞記者は、もがきながら必死に騒いだ。
「公権力の横暴だ!告訴するぞ!」
「惑星の地球衝突への見解を知りたいだけだ!」
「場所を荒そうとは、思っていない!」

先輩公安は、A新聞記者の腕を強くねじ上げた。
「馬鹿野郎!そんなヨタ話に答えるわけがないだろう!」
(結局、A新聞記者は警視庁により追い出されてしまった)

そんな「ひと悶着」があったものの、「副総理浅田太一先生国政報告会」が始まった。
浅田副総理は、いつもの、軽くヘラヘラとした口調だ。
「まあ、政治と金の問題は、一定の解決を見ましたしねえ・・・」
「でもね、政治家に金が集まる、献金するっていうのは、政治家を信頼してのことでしょ?」
「金を積んでも、国政を良くして欲しい、そういう善意のお金なんです」
「裏金とか、脱税とか、経理係のおばさんみたいなことを言いますがね」
(ここで参加者が、ドッと沸いた)
「そういう表に出ない金も、必要悪でね、・・・政界工作とか、それで潤う人もいるかな」
(浅田副総理は、野党代表たちに小さくウィンク)
(野党代表は、含み笑いで、頷いている)
「なんだかんだと言って、株価はバブル崩壊前の水準に戻しました」
「各地で地震やら、台風被害も多かった、コロナでも苦しんだ」
「でも、我が政府と我が党は、懸命に努力して、ここにおられる皆様からのご協力をいただきながら先進国首脳から驚かれるほどの、成果を挙げております」
(ここで参加者たちからは「そうだ!」の声と、大きな拍手)

浅田副総理は、話をまとめ始めた。
「この日本の舵取りを、さらに安定させていくために」
「是非、さらなる我が党への協力を願うものであります」
(つまり、さらなる政治資金の提供を求めた)
「そして、目前の衆議院総選挙には、我が民自党への応援、是非よろしくお願いいたします」

浅田副総理が声を張り上げ、参加者が盛大な拍手を送った直後だった。
政治資金パーティー会場が大きく揺れた。
照明は全て消え、天井の全てのシャンデリアが落ち、参加者に落下した。

松本華奈と他の公安は、政界関係者のいたはずの場所に、走った。
浅田副総理は、シャンデリア落下の直撃を受け、頭蓋骨から大量出血。(脳髄も流れ出している)
首相や政界首脳も、全員倒れていて、立ち上がれない。
他の参加客も、まだ、地震の揺れも激しいので、立っている者は、ほとんどいない。

緊急通報が流れた。
「世界各地の火山が、海底火山を含めて一斉に噴火しました」
「日本の富士山からも、大きな噴火、溶岩が激しく流れ出しています」

「NASAからの発表です」
「超大型の惑星衝突が発生した模様です」
「その結果、太陽フレア―に大きな変化が発生した模様です」
「地球の成層圏にも、多大な影響が出るのは、確実との発表です」

(この時点から、地球は壊れ始めた)
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