(35)休日 靖国神社にて③

文字数 1,422文字

失意の中国人観光客の集団を公安と警視庁が一斉に取り囲んだ。
それぞれの内ポケットに、鋭利なナイフをしのばせていたため、その場で捕縛連行されて行った。(凶器準備集合罪の疑い)
全員のスマホも解析され「靖国神社襲撃、皇居破壊、自衛隊市谷基地爆破に関する指示と手順」のメール(発信者は人民政府:中国政府の関係筋の疑惑有り)も発見された。
日本政府は、中国大使館に真偽を確かめた。
(ただ、中国政府は関与を、認めなかった)
(あくまでも、悪党や愚連隊の勝手な行動と、中国政府の関与を否定した)
(ただ、現場は動画投稿サイトで、全世界に発信されており、彼らの言動に対し、一斉に非難の声があがっている)

靖国神社の参道を歩きながら、松本華奈は肩を落としている。
「自分も無力だけど、日本政府も無力」
「ただ、事なかれ主義しかできない」
「首相も派閥と選挙と利権しか、考えていない」

前を歩くロボット二体を見て思った。
「隼人君と紀子さんがいなかったら」
「靖国神社は血の海になった」
「皇居は破壊され、自衛隊の基地は爆破された」

松本華奈は、再び肩を落とした。
「そこまでされても、日本はなすすべがない」
「せいぜい、遺憾の意を表明する、それしかできない」
「選挙と派閥と利権しか考えない首相は、責任を警備官僚に押し付けるだけ」
「警察が、無能だからと、叱責するのみ」
「首相は、日本が笑いものになっても、知らぬ存ぜぬで、極楽とんぼ」

皇居と、皇族を思った。
「あれほどの無謀な戦争を起こし、日本国民と他国民を殺し苦しませておきながら」
「結局、軍部の暴走のイメージを植え付けて、最高責任者(指示責任者)は、何も責任を取らなかった」
「少なくとも古代の天皇は、自然災害でさえ責任を取って、その地位を降りたのに」
「結局、のうのうと、居座った」
「反省するポーズだけは取ったかも、でもポーズだけ」
「悪いのは部下の暴走だ、その印象操作に専念して」
「自らは、謝ったフリで通した」
「それが、日本の真実、失敗は国民の責任」
「騙される日本人が悪いのかな」
「税金で養う理由なんて、わからない」
「自分が出した命令の責任を取らず、国民に責任を押し付け殺すだけ」

松本華奈は、旧華族に頼まれて警護をしたことがある。
旧華族は、松本華奈を含めて公安や警視庁を、とにかくコケにした。
「本来は、お前たちなど下賤な者が、入れない屋敷だ」
「正面から見るな、汚らわしい」
「常に這いつくばって歩け、身分の差を自覚しろ」
・・・・・

腹が立ったが、当時の先輩と上司は、抗議一つしなかった。
皇族とか王族を廃止した国もある。
「いつまで、こんな無意味なことを続けるの?」
「本当に天皇制とか、皇族って必要なの?」
「なくしたところで、暴動も起きないのに」

そんなことを思いながら、ブツブツ歩いていると、九條紀子から声がかかった。
「本当に死んだ軍人さんは、靖国を念じて死んだの?」
松本華奈は、返事に戸惑った。
「・・・その趣旨であると、靖国神社は言っている」
立花隼人も反応した。
「靖国神社ではなくて、靖国神社の人では?」
「そもそも、神とは何?」
「実在を誰が見た?証拠写真でもあるのか?」
「そんなモノを信じるから、面倒が増えるのでは?」
松本華奈は、ここでも反応できない。
「それは・・・そうだけどさ・・・」
ロボット二体の稼働時間を思った。
「通常可動で5千年、フル稼働で4千年か・・・」
「その意味では、生きて見える神だ、壊せば地球が壊れるし」
松本華奈は、再び考え込んでいる。
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