(29)  午後は体育の授業

文字数 1,452文字

在日米軍幹部と自衛隊統合参謀長は、何の成果もあげられず、武蔵野学園を後にした。
立花隼人と九條紀子は、何食わぬ顔で、一年A組に戻った。
午前中の次の授業は、「物理」。
立花隼人と九條紀子は、目立つことなく、普通に過ごした。
昼は、クラスメイトたちと学食で食べた。(立花隼人はカレー、九條紀子はサンドイッチ)

午後一限目の授業は体育。
(講師は元オリンピックのマラソン陸上選手(マラソン)の飯田俊夫)
一年A組が全員体操服に着替えてグラウンドに出ると、いつもの陰険陰湿な顏で、生徒全員に声をかけた。

「夏休み中、冷房の効いた部屋でゴロゴロしていたんだろ?」
「みんな、豚みたいに、ブクブク太りやがって」
「いいか?この武蔵野学園は、文武両道」
「勉強だけ出来ればいい、そんなことでは許されない」
「陸上部は、暑いも寒いも関係ない」
「どんな天候でも走れるように、鍛え上げる」
「お前たちも、陸上部の選手を見習え!」
「今日は、5000m走だ」
「息が切れようと、足がつろうと、根性で走りぬくように」

スタートは男女の区別なく、一斉だった。
まだ暑い9月でも熱く、気温33度、一年A組のクラスメイトは、苦しそうに走り始めた。
ただ、立花隼人と九條紀子は、ロボットである。
表情も変えず、汗もかかず、二人(二体)並んで、一定の速度で走り始める。

講師飯田俊夫は、その二人(二体)に注目した。
そして、その余裕の走りが、気にいらなく思えた。
「何で、あんなに軽々と走る?」
「陸上部より、走りのフォームがスムーズだ」
「立花隼人は、編入して来たばかりの、得体のしれない奴で」
「九條紀子は、顏は可愛いが、平凡な学生だったはず」
「それにしても・・・この暑いのに、涼しい顔して、走っていやがる」

講師飯田俊夫は、大声を張り上げた。
「おい!そこの立花なんとかと、九條紀子!」
「もっと気合入れて走れ!」
「すました顏して走ってんじゃねえ!」
「それから、他のみんなも!もっとスピードあげろ!」

立花隼人と、九條紀子は、途端にスピードを上げた。
講師飯田の隣でタイムを計っていた助手(陸上部OB)が、目を丸くした。
「これ、1000mのオリンピックタイムより速いです」
「しかも、二人とも、全く同じ速度で」

講師飯田も驚いたが、すぐに首を横に振った。
「あいつら、バカか」
「あんなスピードで、走り切れるわけがない」
「いつか、転んでおしまいだ」
「そうしたら、どやしつけてやる」

しかし、講師飯田の期待通りには、ならなかった。
ロボット二体は、さらにスピードをあげ、世界記録の半分以下のタイムでゴールしてしまったのである。

オリンピック出場を自慢のタネにしていた、講師飯田は、その顏の色を失った。
「おい・・・マジか」
「何であんな走りが?」
トラックに目を転じると、他の生徒は、真っ赤な顏で、汗を大量にかきながら走っている。

立花隼人が、講師飯田の前に立った。
「私たちが、どうのこうのではなくて」
「9月とはいえ、炎天下に、鍛えていない一般の生徒を5000m走らせるリスクを考えるべきでは?」
「早くしないと一年A組のクラスメイトは、半分以上、熱中症で倒れますよ」
「あなたの教育は、生徒を育てるのではなく、健康を害し倒すことが目的ですか?」
「それが、日本のオリンピックの熱血精神なんですか?」
(講師飯田は、一言も返せず、固まっている)

立花隼人の言葉通り、一年A組の生徒たちは、突然バタバタと倒れ始めた。
直後、救急車が何台も到着(九條紀子が、ロボットの通信システムを使い、通報した)し、倒れた生徒の治療を開始した。
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