(37)ロボット二体からの訣別宣言

文字数 1,213文字

公安松本華奈の頭は、グルグルと回転した。
「上司に相談しても、必ず止められる」
「官僚の世界は、男社会で階級差別が厳しい」
「特に、私のような、若くて女の公安の意見は、メンツにかけても聞かない」

上司がかつて言っていたことを思い出した。
「官邸は、国民の安全、利益、そう言った国益以前に、与党の安全と利益を優先する」
「いろんな事件処理も、対野党で効果がなければ、事後処理になる」
「その意味でテロ事前阻止行動は、極左野党との取引材料でしかない」
「つまり事前阻止行動は、対野党で効果が無ければ、実施しない」

なかなか動かない松本華奈に、九條紀子が声をかけた。
「無理なら、松本さん、何もしないよ」
「私たちは、皇居が破壊されようが、どれだけ人が死のうが、興味はないから」
「むしろ、今後の日本のためには、その方が正解と思います」

松本華奈は、再び、苦悶した。
「確かに、皇族は・・・心の裏では、国民を自分の家畜としか、考えていない」
「だから、自ら指示した戦争や空襲で、どれだけ惨たらしく殺されても、本音では何とも思っていない」
「負けたのは、国民が悪くて、自分たちには何の非もないと考えている」
「自分たちの栄誉と生活さえ守られれば、他のことは、どうでもいい一族」
「それを、奈良時代から千三百年も続けて来た」
「私も仕事で警護についたけれど、仕事でなければ、顏も見たくない一族」

立花隼人は、確認した。
「では、皇居爆破を認めるのか?」

松本華奈は、また迷った。
「認めるわけではないけどさ」
「上司の指示もないから、動きづらいの」
「勝手なことをすると、官邸が怒るし、上司の立場も危なくなる」

九條紀子は、プッと笑った。
「結局は、暴力主義革命賛成?」
「問題が多い皇族はともかく、ただ、散歩しているだけの罪がない人も死ぬよ」
「それも、日本の公安は容認するんだね」
「国民の平和で安全な生活を、無視するのも、公安の仕事?」
「それも、自分のポスト保全のために」

立花隼人は、呆れ顏。
「いろんな犯罪とか事件を阻止したが」
「こんな公安では、意味が無かった」
「こんな奴らに立花昇一は、殺されたとは」

九條紀子は、歩き出した。
「いいよ、もう」
「地球そのものが、もうすぐ破壊される」
「今さら、何が起きても、どうでもいいよ」

立花隼人も歩き出した。
「地球を脱出するまでは、人々の安全を守る気も、あったが」
「馬鹿馬鹿しくなった」

松本華奈は、慌てた。
「え?地球を脱出するって何?」
「そんなの上司から聞いていないよ」

立花隼人は、無表情で答えた。
「そもそも、言う必要がない」
「ロボット立花隼人と九條紀子にとって、製作者立花昇一を愚かにも暗殺したのは、お前たち人間だ」
「どうなろうと、何の同情も持たない」

九條紀子も、冷酷な目に変わった。
「呆れ果てました」
「地球とともに、滅んでください」

松本華奈には、聞き返す時間も与えられなかった。
ロボット二体は、目にも止まらない速さで跳躍、空に浮かび、飛び去って行った。
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