(31)ロボット二体による大災害阻止と「犯罪」の匂い

文字数 1,208文字

「あ!ちょっと待って!」
松本華奈の叫びは、ロボット二体には届かなかった。
ロボット二体は、目にもとまらぬ速さで、タンクローリーに向かって走って行く。

「あれ?」
松本華奈は、立花隼人が何か(黒光りするもの)を投げたように見えた。
(途端にタンクローリーのタイヤから、空気が抜け、スピードが落ちていく)

「うーん・・・」
松本華奈は、周囲を走行中の車両を見て、首を傾げた。
ふらつくタンクローリーを恐れてなのか、車間距離をどんどん開けている。

タンクローリーが、道路中央で静かに停まった。
そして、ほぼ同時に白バイ警官が走って来て、事情聴取を始めた。

その様子を見ている立花隼人と九條紀子に、松本華奈が(ようやく)追いついた。
「隼人君、さっき何を投げたの?」

立花隼人は指を見せた。
「ここから、銃弾を発射した」
(※開発者立花昇一により、銃弾発射システムも備え付けられていた)
「少しずつ空気が抜けるように計算して、当てた」
「そうでなければ、大災害だ」
「犯罪で大災害を抑えたとも言える」(やや、冷たい声の響きだ)

松本華奈は、頭が混乱した。
犯罪行為であれば、逮捕しなければならない。
しかし、そもそも、立花隼人はロボットであり、逮捕対象の「人間」ではない。
それと、その犯罪なしに、大災害を阻止する術は、少なくとも自分にはなかった。
また、そもそも、立花隼人を警護管理することが自分の職務である。
下手な議論になれば、自分の責任まで問われかねないのである。

混乱する松本華奈に、九條紀子が話しかける。
「ナビシステムに侵入して、タンクローリーと車間距離を取るようにメッセージを出しました」
「白バイの警官にも、通報しました」

レッカー車も到着し、タンクローリーをゆっくりと運んで行く。

ホッとした顔の松本華奈に、立花隼人の冷ややかな声が飛んだ。
「運転手と、その事情を調べるべきでは?」
「そもそも危険物を大量に積んでの、危険走行」
「ただ災害が起きなかったから、おしまいで、公安が務まるのか?」

松本華奈は、返事に詰まった。
「調べようと思ったの!」(まるで子供の言い訳になった)

九條紀子も冷静な声。
「テロリストの仕業の可能性」
「運送会社の勤務形態の問題」
「あるいは運転手の個人的な犯行」
「全部確認して対処しないと、次の犯罪や災害が起きますよ」

松本華奈は、真っ赤な顏になった。
(子供のようなロボット二体に厳しい指摘をされた)
(それ以前に、大災害を「阻止して」もらっているのである
「あ・・・うん・・・そうね・・・」
(結局、もたついている)

立花隼人のスマホが鳴った。
「はい、了解しました」
「運転手は、63歳ですか」
「テロリストではなくて、過重労働の疑い」
「今後も厳しい事情聴取と関連捜査を願います」
「いえいえ、たいしたことではありません」

立花隼人は電話を終え、松本華奈の肩を軽く叩いた。
「公安庁の長官でした」
「ご安心ください」

途端に松本華奈の目が潤んだ。(無力感しかなかった)
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