２話６頁

　愕然として、両手を床に付くと。
俺はおいおい泣いていた。すると男が、

「新しい名前がないと不便だな。確か更生院の青年組では、俺が使ってたヤマトがあるな。
君は今日から、ヤマトだよ」

と言った。イラッとした。
　俺は怒りに任せて、

「ふざけるな！親父とお袋に会わせろ！
何処にいるんだ！」

と叫んだ。すると奴は冷たい目で、

「学校や役所に書類を出しに行った。
暫く帰ってこないよ。俺はこの家に慣れる為、待たされているんだ。
ところで、友達は真一君だけだったかな？
他に資料が無くてね教えてくれると助かるよ。クラスメートも突然、人が変わるとびっくり
するからね。他の学校でも良かったんだけど。仕事が決まっているから仕方無く、君の続きをやらなきゃ成らないんだ」

と言った。

「決まっている？何を言っている。この世の中では好きな仕事につけるんだ。
何でも好きなものを、やりゃいいだろう！」

と俺が反論すると。彼はしたり顔で、

「時間が無い。後１年で大学受験だ。
今更、何をやっても間に合わない。
だから君の人生を引き継ぐよ。それから考える何に成りたいかね」

と返した。俺は混乱するだけだった。
　１つ分かったのは、俺はこの俺は、この世に存在しないと言う事だけだった。

「更生院も悪くはないよ。
優しい指導員が沢山いるから。まあ落ち着いてコーヒーでも飲んで」

と俺は、その男からコーヒーを受け取ると飲んだ。俺の知っている家の味だった。
涙が流れて止まらなかった。すると、

「ところでどうする？公安や警察を待つかい？もう直ぐ来るよ。しかも不法侵入だから、罪が増えたね。公安の取り調べは厳しいからね」