第36話 学年合宿 ~追憶【好雄と優依の新人研修編12】~
文字数 4,296文字
好雄、優依、葉月、侑太郎の4人は緩やかな傾斜を下って池の畔 まで来た。
改めて4人は周囲を見渡す。森の中でこの一帯は一段低くなっているようで、水の流れがここに収斂 していた。
優依は池を覗き込む。職員たちも池に出入りしていたので、少なくとも大人の膝まで位には浅いことは分かっていたが森の闇を映して恐ろしく深く見える。
「あれ……、本当におじさんが……やったの……?」
葉月の声に優依が顔を上げる。
目の前の池の先、朽木が空けたとされる穴が見えた。
「あんなに高くて厚い壁に……。朽木さん、よほどここから逃げ出したかったんですね……」
言った侑太郎が大きく息を吐いた。
優依に侑太郎の言葉がどこか虚しく響いた。
朽木が逃げ出したかった研修。あそこまで周囲にキツくあたられては無理もないかもしれない。それでも、朽木が逃げ出したかった、実際に逃げ出した世界には自分たちも含まれている。自分からも逃げ出したかったのかと思うと優依は悲しかった。
「あ、君たちが手塚教官が言っていた研修生だね?」
魔法士のローブを羽織った職員に好雄たちは話しかけられた。
職員が現状を伝える。朽木はまだ森を抜けていないらしい。
「君たちがこの施設に来たときに迎えのバスで通った道があっただろう? 森の広さを考えるといくら魔装していてもまだ森からは出ていないだろう。ここから山を降りて街に出るにはあの道を通るしかないが、あそこは既に封鎖されて厳重な警戒が敷かれている。あの付近にいればすぐに彼を捕らえることが出きるだろう」
職員の台詞に優依がビクッと身体を震わせた。自分たち以外が朽木を捕まえれば殺される可能性がある。
「朽木さんは確実にそっちのほうへ向かっているんですか?」
尋ねてきた好雄に職員が首を横に振る。
「いや、そうとも限らない。少なくとも我々はそう考えている。食料もなしに何日も山の中にいる訳にもいかないだろう。彼は街に出るはずだ、そう踏んでいる。ただ……」
職員は持っていた端末で周辺の地図を出す。好雄たちが覗き込む。
「道があるのとは逆……、山の奥の方に逃げ込まれると厄介だ。進めば進むほど森が深くなる。正直、地形も良く分かっていないんだ。滅多に立ち入る場所じゃないからね……。そこでだ、君たちにはそっちの、山の奥へ向かう方面の捜索をお願いしたい」
えっ、と声を上げた侑太郎に視線が集まる。
「あ、いや、何で僕たちがそっちなのかなって思ったので……。僕たち、まだ中学生や高校生だし……、山奥は、あ、危ないかなぁ……何て……」
はは、と最後に誤魔化すように笑った侑太郎。
「それについては我々もそう思うんだがね。上からの命令だ、仕方ない。道を封鎖していると言っても特務高等警察の一般の部隊だ。研修生とはいえ脱走したのは魔法士だ。彼が本気で抵抗すれば部隊は壊滅の危険性もある。だから我々魔法士の職員も特高の援護を行え、とのことだ。手塚教官からも森の方は君たちに任せるようにとも言われている。頼んだぞ」
施設職員は持っていた端末を好雄に渡しながらそう言ってその場を去った。
侑太郎が振り向いて葉月に泣きそうな顔をする。
「ど、どうしよう、お姉ちゃん……。朽木さん、きっと山から降りる道の方に向かったんだよ! 僕たちもそっちに行かなきゃ!」
「そんなこと言われなくても分かってるわよ! でもああ言われちゃったら私たちは山の方へ向かうしかないじゃない……。あぁ、もう! どうするの!? よっしー、優依!」
葉月が好雄、優依を見る。
好雄は考え込む。確かに朽木は山を降りようとする可能性が高い。だとすれば命令を無視しても自分たちもそっちへ向かわなくてはならない。好雄が口を開こうとした時だった。
「森の……山の奥の方に、向かおう……」
ずっと黙っていた優依がそう言った。
葉月が戸惑う。
「え、でも……」
「うん。普通に考えれば、その先のことを考えて山を降りようとすると思う。でも……、朽木さんは……少しでもここが目に入らないように動くんじゃないかなって……」
優依は好雄が職員から手渡された端末の地図を示す。
「あの塀を抜けて、道に出ようとするなら、こうやって塀に沿って森を西に進むのが一番の近道。事前に地図か何かで確認していれば誰だってそうすると思う。でも朽木さんは……、とにかくここから抜け出したかった。こんな所、見ていたくもない……。そう思って、あの穴を抜けていったなら……」
優依が地図をなぞる。施設がいち早く目に入らないようにするには確かに北東側へ向かって進むのが自然だった。
「で、でも、優依……。そんなこと少し我慢すれば済むことじゃない!? いくら嫌だからってわざわざそんな危険なこと……。何かあった時のこと考えても、先のことを考えても塀沿いに西に向かうのが当然じゃない!」
声を上げた葉月が優依を見る。
その葉月に優依は静かに言った。
「朽木さんは……、そんなに強くない……」
考えれば考えるほど、朽木は山の奥へ向かっていった気がする。確信した優依が好雄を見る。
好雄は自分を見つめてきた優依を見返す。
「よし、優依の言う通りにしよう。俺たちは手塚教官の指示通り、東に向かう」
でも、と挟んできた葉月に好雄は続ける。
「教官の指示だからって訳じゃない。朽木さんのことは……優依が一番分かってる、その優依がそう言ってるんだ。俺は、優依を信じる」
言い切った好雄が葉月と侑太郎を見る。一度顔を見合わせた2人が頷く。
「まあ……、考えてみればそうね……、おじさんとは優依が一番仲良くしてたんだし。さ、そうと決まったら早く行くわよ!」
「お姉ちゃんの言う通りです! よっしーさん、優依さん、行きましょう!」
4人は池に入る。きゃっ、と葉月が声を上げた。
「な、なにこれ……。うぅ、気持ち悪い。温 くて、底も泥々してて……。くうぅ、またおじさんに文句言わなきゃいけないこと増えたわね」
4人はバシャバシャと膝まで水に浸かりながら池を進む。直ぐに目の前に塀に空いた穴が近づいてきた。本来はそこに、そのようにして在るべきではない存在。広くはない穴を通った風が不気味な低い音を立てている。
「ほら……、よっしー、先行きなさいよ」
言われた好雄が振り向いて葉月を見る。
「えっ、俺?」
「アンタ以外に誰がいるのよ? 手伝ってあげるから……」
「お、おい! そんな押すなって!」
好雄は葉月に背中を押され、無理やり塀をよじ登らせられる。足を掛けて穴に入る好雄。穴は大人1人が縮 こまってやっと通れるかといった程の大きさだった。
穴の中には朽木が自身の水の魔法で削っていった痕跡が見える。穴の周辺にはひびがはしり、欠け落ちた部分が小中の欠片 となって散らばっている。乱暴に空けられた穴の表面は所々尖っていた。
四つん這いで進む好雄の掌に穴の表面の尖った部分が刺さる。
「いってぇ……」
止まろうとした好雄だったが、
「よっしー! 早く進んでよ! 後ろつかえてるんだから!」
と葉月に急かされて仕方なく進む。
頭だけ穴から抜けた好雄が周囲を窺う。塀の内側と同じように森が広がっていたが池は無かった。恐る恐る穴から身を乗り出して着地を試みようとする好雄。
「ちょっと……、なに止まってんのよ!」
「お、ちょ……、押すな! ふざけんな! 葉月! おっ……、わ、ああーっ!!」
ドンと葉月に穴から押し出された好雄。
ドスンと地面に落下する。
起き上がろうとする好雄。
「くそ……、何で俺が……、グァッ!」
穴から落ちてきた葉月が好雄の上に降り立つ。
「ふぅ。助かったわね」
息をつく葉月。
「ふう、じゃねえ! 降りろ! クソガキ! 重いだろうが!」
「はぁ! 誰が重いよ! フンッ、これでも研修に向けて2キロ落としてきたんだからね!」
降りる直前に葉月が好雄を踏む。叫ぶ好雄を余所 に侑太郎と優依も横穴から出てきた。
葉月に踏まれた背中を押さえながら好雄は起き上がり、そして森を見据える。この先に朽木が居る。神妙な面持ちになる4人。
塀の外側にも何人かの施設職員がいたが好雄たちに話し掛けてくることはなかった。好雄たちは塀から離れ森の前に立つ。
ふと振り向いた好雄の視線の先、抜けてきた横穴。池が有るのと無いののせいか、好雄はどこか違和感を感じた。
穴が貫通したときに散らばったであろう破片や欠片。しかし、どこか、内側で見たものとは何かが違っているように好雄には見えた。
「好雄君?」
心配そうに声を掛けてきた優依に好雄は、何でもない、と笑って返し、改めて4人揃 って森を見る。
「優依の予想が正しいとすれば……、大体……、こっちの方か……施設が直ぐに見えなくなっていくのは」
好雄は手元の端末で地図を見て目の前の景色に合わせる。
「そうですね……。それにしても……」
そこまで言った侑太郎に他の3人が視線を向ける。
「塀の厚さは思った通りで、霧の魔法しか使えない僕だったら絶対に貫通なんてできないんでしょうけど……、それ以前に……、塀の周辺の警備……手薄過ぎませんか?」
言われた好雄が改めて塀を見る。
塀は恐ろしく厚かった。それに施設側が絶対の自信があったのか、他に何か理由が……。
考え込んだ好雄の袖を優依が引っ張る。
「好雄君……、それよりも……」
不安そうに目を向けてきた優依に、ああ、と返した好雄が続ける。
「ゆたろーの言う通りだな……。おいおい考えるとして、まずは朽木さんを追おう!」
言って魔装する好雄に3人も続いて魔装した。
「少しでもカバーできる範囲を広げたいわ。4人それぞれが見えるギリギリまで離れて森を進みましょう!」
葉月の提案に好雄たちが頷く。
一度離れ合った4人。互いの姿が見える限界まで距離をとる。
4人は森の中へ駆け出した。
黒い森を駆けながら好雄は侑太郎がさっき言ったことを思い浮かべた。
(確かに……、言われてみれば監視カメラとか警備ドローンとかはここら辺には……)
施設を出入りする門 の周辺は警備がやたらと厳重だった。塀の堅牢さに自信があったとしても余りにも落差が激しいように思えた。
門周辺の半分位のレベルの警戒態勢が塀にもあれば自分や優依が報告などしなくとも事態を把握できたはずだ。そうすればこうやって朽木が脱走する前に、いや、それ以前に、奇行にはしる前に止めることなど雑作もなかったのではないか。
(いや、今は目の前に集中しよう……)
思った好雄が進む先を見つめる。どこまでも黒い森が広がる。森を進む自分の音だけが異様に周囲に響き渡っていた。
改めて4人は周囲を見渡す。森の中でこの一帯は一段低くなっているようで、水の流れがここに
優依は池を覗き込む。職員たちも池に出入りしていたので、少なくとも大人の膝まで位には浅いことは分かっていたが森の闇を映して恐ろしく深く見える。
「あれ……、本当におじさんが……やったの……?」
葉月の声に優依が顔を上げる。
目の前の池の先、朽木が空けたとされる穴が見えた。
「あんなに高くて厚い壁に……。朽木さん、よほどここから逃げ出したかったんですね……」
言った侑太郎が大きく息を吐いた。
優依に侑太郎の言葉がどこか虚しく響いた。
朽木が逃げ出したかった研修。あそこまで周囲にキツくあたられては無理もないかもしれない。それでも、朽木が逃げ出したかった、実際に逃げ出した世界には自分たちも含まれている。自分からも逃げ出したかったのかと思うと優依は悲しかった。
「あ、君たちが手塚教官が言っていた研修生だね?」
魔法士のローブを羽織った職員に好雄たちは話しかけられた。
職員が現状を伝える。朽木はまだ森を抜けていないらしい。
「君たちがこの施設に来たときに迎えのバスで通った道があっただろう? 森の広さを考えるといくら魔装していてもまだ森からは出ていないだろう。ここから山を降りて街に出るにはあの道を通るしかないが、あそこは既に封鎖されて厳重な警戒が敷かれている。あの付近にいればすぐに彼を捕らえることが出きるだろう」
職員の台詞に優依がビクッと身体を震わせた。自分たち以外が朽木を捕まえれば殺される可能性がある。
「朽木さんは確実にそっちのほうへ向かっているんですか?」
尋ねてきた好雄に職員が首を横に振る。
「いや、そうとも限らない。少なくとも我々はそう考えている。食料もなしに何日も山の中にいる訳にもいかないだろう。彼は街に出るはずだ、そう踏んでいる。ただ……」
職員は持っていた端末で周辺の地図を出す。好雄たちが覗き込む。
「道があるのとは逆……、山の奥の方に逃げ込まれると厄介だ。進めば進むほど森が深くなる。正直、地形も良く分かっていないんだ。滅多に立ち入る場所じゃないからね……。そこでだ、君たちにはそっちの、山の奥へ向かう方面の捜索をお願いしたい」
えっ、と声を上げた侑太郎に視線が集まる。
「あ、いや、何で僕たちがそっちなのかなって思ったので……。僕たち、まだ中学生や高校生だし……、山奥は、あ、危ないかなぁ……何て……」
はは、と最後に誤魔化すように笑った侑太郎。
「それについては我々もそう思うんだがね。上からの命令だ、仕方ない。道を封鎖していると言っても特務高等警察の一般の部隊だ。研修生とはいえ脱走したのは魔法士だ。彼が本気で抵抗すれば部隊は壊滅の危険性もある。だから我々魔法士の職員も特高の援護を行え、とのことだ。手塚教官からも森の方は君たちに任せるようにとも言われている。頼んだぞ」
施設職員は持っていた端末を好雄に渡しながらそう言ってその場を去った。
侑太郎が振り向いて葉月に泣きそうな顔をする。
「ど、どうしよう、お姉ちゃん……。朽木さん、きっと山から降りる道の方に向かったんだよ! 僕たちもそっちに行かなきゃ!」
「そんなこと言われなくても分かってるわよ! でもああ言われちゃったら私たちは山の方へ向かうしかないじゃない……。あぁ、もう! どうするの!? よっしー、優依!」
葉月が好雄、優依を見る。
好雄は考え込む。確かに朽木は山を降りようとする可能性が高い。だとすれば命令を無視しても自分たちもそっちへ向かわなくてはならない。好雄が口を開こうとした時だった。
「森の……山の奥の方に、向かおう……」
ずっと黙っていた優依がそう言った。
葉月が戸惑う。
「え、でも……」
「うん。普通に考えれば、その先のことを考えて山を降りようとすると思う。でも……、朽木さんは……少しでもここが目に入らないように動くんじゃないかなって……」
優依は好雄が職員から手渡された端末の地図を示す。
「あの塀を抜けて、道に出ようとするなら、こうやって塀に沿って森を西に進むのが一番の近道。事前に地図か何かで確認していれば誰だってそうすると思う。でも朽木さんは……、とにかくここから抜け出したかった。こんな所、見ていたくもない……。そう思って、あの穴を抜けていったなら……」
優依が地図をなぞる。施設がいち早く目に入らないようにするには確かに北東側へ向かって進むのが自然だった。
「で、でも、優依……。そんなこと少し我慢すれば済むことじゃない!? いくら嫌だからってわざわざそんな危険なこと……。何かあった時のこと考えても、先のことを考えても塀沿いに西に向かうのが当然じゃない!」
声を上げた葉月が優依を見る。
その葉月に優依は静かに言った。
「朽木さんは……、そんなに強くない……」
考えれば考えるほど、朽木は山の奥へ向かっていった気がする。確信した優依が好雄を見る。
好雄は自分を見つめてきた優依を見返す。
「よし、優依の言う通りにしよう。俺たちは手塚教官の指示通り、東に向かう」
でも、と挟んできた葉月に好雄は続ける。
「教官の指示だからって訳じゃない。朽木さんのことは……優依が一番分かってる、その優依がそう言ってるんだ。俺は、優依を信じる」
言い切った好雄が葉月と侑太郎を見る。一度顔を見合わせた2人が頷く。
「まあ……、考えてみればそうね……、おじさんとは優依が一番仲良くしてたんだし。さ、そうと決まったら早く行くわよ!」
「お姉ちゃんの言う通りです! よっしーさん、優依さん、行きましょう!」
4人は池に入る。きゃっ、と葉月が声を上げた。
「な、なにこれ……。うぅ、気持ち悪い。
4人はバシャバシャと膝まで水に浸かりながら池を進む。直ぐに目の前に塀に空いた穴が近づいてきた。本来はそこに、そのようにして在るべきではない存在。広くはない穴を通った風が不気味な低い音を立てている。
「ほら……、よっしー、先行きなさいよ」
言われた好雄が振り向いて葉月を見る。
「えっ、俺?」
「アンタ以外に誰がいるのよ? 手伝ってあげるから……」
「お、おい! そんな押すなって!」
好雄は葉月に背中を押され、無理やり塀をよじ登らせられる。足を掛けて穴に入る好雄。穴は大人1人が
穴の中には朽木が自身の水の魔法で削っていった痕跡が見える。穴の周辺にはひびがはしり、欠け落ちた部分が小中の
四つん這いで進む好雄の掌に穴の表面の尖った部分が刺さる。
「いってぇ……」
止まろうとした好雄だったが、
「よっしー! 早く進んでよ! 後ろつかえてるんだから!」
と葉月に急かされて仕方なく進む。
頭だけ穴から抜けた好雄が周囲を窺う。塀の内側と同じように森が広がっていたが池は無かった。恐る恐る穴から身を乗り出して着地を試みようとする好雄。
「ちょっと……、なに止まってんのよ!」
「お、ちょ……、押すな! ふざけんな! 葉月! おっ……、わ、ああーっ!!」
ドンと葉月に穴から押し出された好雄。
ドスンと地面に落下する。
起き上がろうとする好雄。
「くそ……、何で俺が……、グァッ!」
穴から落ちてきた葉月が好雄の上に降り立つ。
「ふぅ。助かったわね」
息をつく葉月。
「ふう、じゃねえ! 降りろ! クソガキ! 重いだろうが!」
「はぁ! 誰が重いよ! フンッ、これでも研修に向けて2キロ落としてきたんだからね!」
降りる直前に葉月が好雄を踏む。叫ぶ好雄を
葉月に踏まれた背中を押さえながら好雄は起き上がり、そして森を見据える。この先に朽木が居る。神妙な面持ちになる4人。
塀の外側にも何人かの施設職員がいたが好雄たちに話し掛けてくることはなかった。好雄たちは塀から離れ森の前に立つ。
ふと振り向いた好雄の視線の先、抜けてきた横穴。池が有るのと無いののせいか、好雄はどこか違和感を感じた。
穴が貫通したときに散らばったであろう破片や欠片。しかし、どこか、内側で見たものとは何かが違っているように好雄には見えた。
「好雄君?」
心配そうに声を掛けてきた優依に好雄は、何でもない、と笑って返し、改めて4人
「優依の予想が正しいとすれば……、大体……、こっちの方か……施設が直ぐに見えなくなっていくのは」
好雄は手元の端末で地図を見て目の前の景色に合わせる。
「そうですね……。それにしても……」
そこまで言った侑太郎に他の3人が視線を向ける。
「塀の厚さは思った通りで、霧の魔法しか使えない僕だったら絶対に貫通なんてできないんでしょうけど……、それ以前に……、塀の周辺の警備……手薄過ぎませんか?」
言われた好雄が改めて塀を見る。
塀は恐ろしく厚かった。それに施設側が絶対の自信があったのか、他に何か理由が……。
考え込んだ好雄の袖を優依が引っ張る。
「好雄君……、それよりも……」
不安そうに目を向けてきた優依に、ああ、と返した好雄が続ける。
「ゆたろーの言う通りだな……。おいおい考えるとして、まずは朽木さんを追おう!」
言って魔装する好雄に3人も続いて魔装した。
「少しでもカバーできる範囲を広げたいわ。4人それぞれが見えるギリギリまで離れて森を進みましょう!」
葉月の提案に好雄たちが頷く。
一度離れ合った4人。互いの姿が見える限界まで距離をとる。
4人は森の中へ駆け出した。
黒い森を駆けながら好雄は侑太郎がさっき言ったことを思い浮かべた。
(確かに……、言われてみれば監視カメラとか警備ドローンとかはここら辺には……)
施設を出入りする
門周辺の半分位のレベルの警戒態勢が塀にもあれば自分や優依が報告などしなくとも事態を把握できたはずだ。そうすればこうやって朽木が脱走する前に、いや、それ以前に、奇行にはしる前に止めることなど雑作もなかったのではないか。
(いや、今は目の前に集中しよう……)
思った好雄が進む先を見つめる。どこまでも黒い森が広がる。森を進む自分の音だけが異様に周囲に響き渡っていた。