第3話 魔法Ⅱ
文字数 1,634文字
「じゃあまたね、悠貴」
言った莉々に手を挙げて応じる悠貴。
莉々とは反対側の電車に乗って家へ向かう。
地下鉄の窓を見ながら悠貴は莉々と食事をしていたレストランの窓から見えたローブ姿の少女のことを思い返していた。
(あのローブ……、やっぱ魔法士のローブだよな……)
──魔法。
ある世界を震撼させた出来事が終わった後から数年が経った頃、魔法を使える人間が各地に現れた。誰かから始まり伝播したのか、誰かが魔法なるものを生み出したのか、自然発生的なものなのか、どうすれば使えるようになり、そもそもそれはどういう原理に基づくのか……。
何一つ分かることはなかった。
国や様々な機関、大学、研究所がありとあらゆる角度から科学的に分析し、その調査規模も日を追う毎に拡大していった。そして、それらは悉 く徒労に終わった。何一つ分からない、ということが分かった。
連日、マスコミやネットは大いに盛り上がった。
科学的な分析に固執する者……、宗教的に傾倒していく者……、恐怖や不安を述べる者……、純粋な義侠心から又は利己的な考えから利用しようという者……。
悠貴はよく父や母、親戚から聞かされていた。
ある出来事をきっかけにしたかのように魔法がこの世界に現れた、そのときの混乱を。そしてその社会がどう落ち着きを取り戻していったのかを。
進む地下鉄の中で悠貴は思った。
(それで出来たのが俺たちが住んでる都市圏 だもんな。そのお陰で快適に過ごせてるんだし、俺には魔法は関係ないけど、感謝しなきゃいけないのかもな……)
悠貴は自分が住むマンションの最寄り駅に降り立つ。ホームを歩く悠貴の目に電子広告が映った。第7都市圏 を紹介していた。
──都市圏 。
「とある出来事」が社会にもたらした混乱を収束に向かわせた要因の1つ、次世代高機能集約化都市計画 。各地方にひとつ整備された都市圏 に他の市町村は全て吸収され、人々もそこへ移住させられた。
悠貴は広告を一瞥 し、ホームから地上に出た。
歩きながら祖父母の言っていたことを思い出した。都市圏 への強制移住に対する反発も小さくはなかったらしい。しかし、初めは移住に反対していた祖父母も今はこことは別の都市圏 で平穏に過ごしている。当時近所に住んでいた人たちの中で連絡がとれなくなった人も少なくなく、それを残念がっているようであるけれど……。
(まあそうだよな……。確かに自分がずっと住んでた所を追われるのは頭に来るけど、やっぱ便利さには勝てないよなぁ……)
悠貴はいつか他の都市圏 へ行ってみたい、将来的には住んでみたいとも思っていた。悠貴は都内に住むが、東京を含む南関東州では他の地方のようにはっきりと都市圏 が形成されたわけではなかった。余りにも人口が多かったからだ。
帰宅した悠貴。
明日の1限の授業の準備をしたかったがバイトから直ぐに莉々との食事に行ったので少し休みたかった。スーツから部屋着に着替えてベッドに横になる。
「いってぇ……」
寝返りを打った悠貴。脇腹に痛みを感じた。良く見てみるとベッドの上に放り投げてそのままにしていた分厚いテキストがあった。
『都市圏 に関する諸法令』
教授が受講する学生に指定して買わせたテキストだった。
(……ったく、自分が筆者のテキスト買わせんなよな……)
思った悠貴はテキストをパラパラと開いてみた。
法令の解説に先だって都市圏の概要が述べられていた。やはり地方の都市圏は凄かった。生活に必要な物資の生産から供給、治安の維持……、とにかくAIに任せられるものは任せていた。
(やっぱこれだけ快適な生活送れるんなら、反対していた人たちもそりゃ納得するよな……)
テキストをベッドの下に置いた悠貴。仰向けで天井を眺める。
少し休んだら明日の授業の準備をしなければならない。朝は弱くないが疲れもあるし、油断していると1限はミスる……。そのまま寝てしまわないように気を付けながら横になる悠貴。
不意に口から出た。
「魔法、かぁ……」
言った莉々に手を挙げて応じる悠貴。
莉々とは反対側の電車に乗って家へ向かう。
地下鉄の窓を見ながら悠貴は莉々と食事をしていたレストランの窓から見えたローブ姿の少女のことを思い返していた。
(あのローブ……、やっぱ魔法士のローブだよな……)
──魔法。
ある世界を震撼させた出来事が終わった後から数年が経った頃、魔法を使える人間が各地に現れた。誰かから始まり伝播したのか、誰かが魔法なるものを生み出したのか、自然発生的なものなのか、どうすれば使えるようになり、そもそもそれはどういう原理に基づくのか……。
何一つ分かることはなかった。
国や様々な機関、大学、研究所がありとあらゆる角度から科学的に分析し、その調査規模も日を追う毎に拡大していった。そして、それらは
連日、マスコミやネットは大いに盛り上がった。
科学的な分析に固執する者……、宗教的に傾倒していく者……、恐怖や不安を述べる者……、純粋な義侠心から又は利己的な考えから利用しようという者……。
悠貴はよく父や母、親戚から聞かされていた。
ある出来事をきっかけにしたかのように魔法がこの世界に現れた、そのときの混乱を。そしてその社会がどう落ち着きを取り戻していったのかを。
進む地下鉄の中で悠貴は思った。
(それで出来たのが俺たちが住んでる
悠貴は自分が住むマンションの最寄り駅に降り立つ。ホームを歩く悠貴の目に電子広告が映った。第7
──
「とある出来事」が社会にもたらした混乱を収束に向かわせた要因の1つ、
悠貴は広告を
歩きながら祖父母の言っていたことを思い出した。
(まあそうだよな……。確かに自分がずっと住んでた所を追われるのは頭に来るけど、やっぱ便利さには勝てないよなぁ……)
悠貴はいつか他の
帰宅した悠貴。
明日の1限の授業の準備をしたかったがバイトから直ぐに莉々との食事に行ったので少し休みたかった。スーツから部屋着に着替えてベッドに横になる。
「いってぇ……」
寝返りを打った悠貴。脇腹に痛みを感じた。良く見てみるとベッドの上に放り投げてそのままにしていた分厚いテキストがあった。
『
教授が受講する学生に指定して買わせたテキストだった。
(……ったく、自分が筆者のテキスト買わせんなよな……)
思った悠貴はテキストをパラパラと開いてみた。
法令の解説に先だって都市圏の概要が述べられていた。やはり地方の都市圏は凄かった。生活に必要な物資の生産から供給、治安の維持……、とにかくAIに任せられるものは任せていた。
(やっぱこれだけ快適な生活送れるんなら、反対していた人たちもそりゃ納得するよな……)
テキストをベッドの下に置いた悠貴。仰向けで天井を眺める。
少し休んだら明日の授業の準備をしなければならない。朝は弱くないが疲れもあるし、油断していると1限はミスる……。そのまま寝てしまわないように気を付けながら横になる悠貴。
不意に口から出た。
「魔法、かぁ……」