第6話 名古屋から北海道へのフェリー旅 前編

文字数 1,535文字

 苫小牧行きのフェリーに乗るため、前日に名古屋で1泊した。
 太平洋フェリー「きそ」は名古屋埠頭フェリー乗り場から19時に出発予定。適当に名古屋駅をブラブラした(あと)、電車に乗ってフェリー乗り場の最寄り駅へ。

 駅を出たところでスマホの地図アプリを見ると、駅から埠頭(ふとう)まで2km弱くらいあるようだ。バスも通っているが、時刻表によれば30分程度は待つ必要があった。
 だから歩くことにした。小雨の降る中、トラックの往来多くあまり良いとは言えない空気を吸いながら歩いて行く。埠頭に着いた途端に空がパァッと晴れて、ちと悔しい。

 搭乗手続きを済ませ、2階の待合室で今この文章を書いています。まだ乗船まで40分もあって暇なんですよね。

 フェリーの中で衛星Wi-Fiというものを利用するには料金がかかるようで、さらに速度も遅いとあって、利用しないことにした。小説やらこの雑記やらを書いていれば時間潰しになるだろう。普段書きながら言葉遣いを検索することがあるけれど、旅の間に書く分は難しい言葉を使わないようにしたら()い。



 と、雑文を書いているうちに時間は経ち、搭乗時刻となった。
 平日なのに結構、いや平日だから? 仕事での移動じゃなさそうな人たちが乗船して行く。先頭ダッシュした人はカメラを持って歩いているから、ユーチューバーか何かかな。年齢層は広いものの、白髪の人が多いようだ。

 1等船室、窓から外は見えないけどその分お安いツインベッドの個室に荷物を置いて、まずは大浴場で汗を洗い流す。ジャグジー風呂で癒されてスッキリ。
 その(あと)バイキング形式の夕食へ。昼飯を抜いたから大量に皿へ盛ったが、いざ食べ始めると「取り過ぎた!」と後悔することになる。でもデザートも食べた。ローストビーフとグリルチキン、カツオのタタキのカルパッチョが美味(うま)かった。



 食べ終わりコーヒーで一服していると、船が小刻みに揺れ始めた。そろそろ出航するのだろう。



 デッキに出て上を見上げる。煙突(ファンネル)からディーゼルの煙がモクモクと立ち昇っていた。小雨の降る中、船員の動きをじっと見つめる。

 19時ちょうどに船員がレバーを押して、係留されているロープを緩ませた。地上の係員が数人がかりで2本のロープを外し、船員がレバーを引くことで一気に船上へ巻き上がっていく。
 同時にフェリーは岸から離れるとすぐに前進し始める。僕がいるのは船尾側だ。どうするのかなと思いながら海を眺める。
 いったん広いところに出て、90度回転して海側に操舵室(そうだしつ)を向けたようだ。そしてスピードを上げながら名港トリトンのひとつ、名港西大橋の下をくぐり抜ける。煙突(ファンネル)は心配になるほど橋のギリギリ下を通った。

 自販機で1本だけビールを買って自室に入る。浴衣に着替えて横になると、思ったよりも船は小刻みに揺れ続けていた。缶ビールが倒れるほどではないと信じて缶のフタを開ける。

 こうして、40時間の船旅は始まった。

 と書いていたら、ラウンジの小劇場でショーがあるとのお知らせ。見に行ってみる。

 ベテランのジャズバンド、ドラムとピアノとエレキベースだ。前にベースを練習していた僕は、プロのベーシストの滑らかな運指としっかりミュートされた小気味良い低音に魅了された。家で埃をかぶっているベースのことを思い出したが、今の人生休止期間は他にもやりたいことがある。ベースはいずれ、また……。
 MCも面白くて、どうやらジャズフェスティバルで3万5千人を前に演奏したこともあったそうな。そんなすごい人たちの演奏を間近で観れて、最近ミスチルのライブチケットに落選した僕の気持ちは少しだけ癒された気がした。

 満足、満足ということで再度、自室に戻りビールを飲む。

 こうして、あとおよそ38時間の旅は始まった。
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