第3話 熱海をひとりでブラブラ 中編

文字数 1,782文字

 夕食のバイキングまでたっぷりと時間がある。
 部屋の浴室には五右衛門風呂みたいな丸い浴槽があって、温泉の出る蛇口と水の出る蛇口が付いていた。この風呂に入るのは夕食後でも()いかなと、バスタオルとフェイスタオルを持って大浴場へ向かう。

 今日はどこぞの会社が宴会をするようで、大浴場にはすでに20人ほどが集結していた。それでも十分(じゅうぶん)に余裕のある大きな浴槽で、のびのびと熱い風呂に()かる。残念ながら周りは仕事の話ばかり。まあ会社の人と風呂に入るならそんなモンだよなと思いながら、粗利がなんたら、この会社がどうたらという雑言を左から右へと聞き流していた。

 風呂上がりに受付で観光地図をもらう。旅館から徒歩5分のところにコインランドリーがあるらしく、汗で濡れた服を洗いに行くことにした。ほぼパジャマのような服装で外に出る。

 コインランドリーで1時間、観光地図を眺めて過ごす。明日の朝からの動きを考えつつ、コンビニに行ったり近くの街並みを散策しているうちに服の乾燥は完了していた。少し生乾きだけど、部屋の中でエアコンの風が当たるところに置いておけば朝には乾いているでしょう。

 旅館のバイキングは、朝夕合わせてもプラス3000円なのでそれほど期待していなかった。でも夕食にはお酒の飲み放題も付いているから、ツマミ代わりに魚とか、肉とか食べられればいいや。平日のバイキングだから会場の広さの割に人が少なくてありがたかった。さっき大浴場にいた人たちは宴会場にいるのだろう。



 ビールを飲みながら、刺身や寿司をちょいちょいとつまむ。中華フェア中とのことで、油淋鶏(ユーリンチー)や豚の角煮もいただく。今日はたくさん歩いたから、ビールが美味い。ビールが美味いと幸せだ。窓の外には暮れゆく熱海の街並みと海。贅沢な気分で夕食を終えた。

 部屋に戻ってすぐ、浴槽に温泉を溜めてみる。



 だが、いつまで経ってもお湯が出てこない。慌ててフロントに内線電話してみると、落ち着いた声でフロントの人が言う。

『温泉ですけど、蛇口を全開にして、5分から10分くらい根気強く待ってください』

 なんという初見(しょけん)ごろし。言われた通りにしてみると、5分後にアチアチのお湯が出てきた。
 蛇口が全開なのですぐに湯はりが完了、いざ、五右衛門風呂に浸かる。顔を洗ってみると、少ししょっぱい。(あと)で調べたら、熱海の温泉は塩化物泉が多いらしい。熱いお湯でしっかり汗をかいて、水シャワーで汗を流して体を拭き、浴衣を着て布団に寝そべる。

 スマホのアラームだけセット、歯磨きしたらテレビを観ながらウトウト。調子に乗って夕食を食べ過ぎたせいでお腹が痛い。胃腸炎から回復したてだったことを思い出す。

 こうして熱海1日目は終了した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 朝5時半に起きて窓から海を眺める。前日の重たく広がっていた曇り空はどこかへ過ぎ去っており、まばらに浮かぶ小さな雲と穏やかな海は朝焼けの色に染まっていた。
 テレビをつけてニュース番組をたれ流しておく。どうやら今日は気温が35度くらいまで上がるらしい。またとんでもない量の汗をかくことになりそうだ。

 エアコンが効き過ぎて冷えた体を温めるために、五右衛門風呂に温泉を溜める。浴室には窓が無いから、入浴中は暇だ。
 5分くらいで上がり、朝食の時間までまた観光地図を眺めて過ごす。

 朝食バイキングの会場へ着くと、昨日の団体さんがいた。夕食は宴会場だったけど、朝食は一般客と同じか。行列に並んでゆっくりと、卵焼きやらウインナーやら、うどんに味噌汁、焼き鯖、オクラ、納豆などを取って歩く。リーズナブルなのに夕食とまったく違う献立なのはありがたい。



 時間はたっぷりある。海を眺めながらちゃんと味わって食べる。食後はコーヒーをコップに()いで、席に戻ろうとしたら牛乳のサーバーがあったので少し加えてみる。その(あと)ブラックでもう一杯飲んでみたけど、牛乳は牛乳だけで、コーヒーはコーヒーだけで飲んだ(ほう)が良かったみたいだ。

 部屋へ戻って9時過ぎにチェックアウトするまでは、テレビを観ながらゴロゴロしていた。
 2日目はまず、ロープウェイで山の上に上がって、トリックアート迷宮館へ行く予定だ。余力があればもうひとつくらい観光スポットを回りたいけれど、帰りが遅くなると電車が混むので、多分昼過ぎには帰りの電車に乗ることになるだろう。

 後編へ続きます。
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