第56話 琵琶湖 竹生島クルーズ

文字数 2,541文字

 彦根城を出て、遠足の学生が大行列を成して城へ向かうのを見ながら彦根駅まで。危ない危ない、もう少し遅かったらあの集団と鉢合わせていたわけだ。
 そして電車に乗り、米原(まいばら)で乗り換え、長浜(ながはま)駅へ。
 長浜駅の港側出口より琵琶湖方面へ10分ほど歩き、長浜港近くの汽船乗り場で竹生島(ちくぶしま)行きの往復チケットを買い、汽船に乗った。

 竹生島(ちくぶしま)は観光情報からそのまま言葉を借りると、「日本三弁財天の一つ」の「宝厳寺や都久夫須麻神社」がある島ということだ。日本三弁財天は他に安芸の宮島、江の島にあるそうな。いずれもかなりのパワースポットらしい。
 琵琶湖の中心よりも北にある孤島。もちろん船でないと行けない。僕はこの島の存在を昨日知った。今回の旅はいつも以上に行き当たりばったりだ。



 汽船は煙を吐き出しながら琵琶湖の水面を進んで行く。(みずうみ)ってのは海と全然違うんだって、こうして間近で見るとよく分かる。湖面は空のグラデーションを薄めたような水色で、ごく近景だけが濃い(みどり)色に変わる。薄いグラデーションは、僕の眼にはほとんど同じ色に見えて、さざなみ模様のカーペットの上に浮かんでいるみたいだ。
 そのカーペットを、汽船がバリバリと引き裂いて滑って行く。

 船室で大きなガラス窓に近い椅子に座っていると、いまいち湖の本当の色が分からない。だから席を立ってしばらく小さな甲板から景色を眺めていた。帰りはずっと甲板にいようかなぁ。

 およそ30分ほどの航海、いや航湖? で竹生島の小さな港に着岸。さぁて、下調べすらしてないから何がどうなっているのか全く分からんぞっと。



 参拝のための拝観料を払ってから階段を上がる。ある程度のお金を財布に入れておいて正解だった。もしもスッカラカンで来たら、何も出来ずに90分を港で過ごす羽目になっていただろう。ATMなんて無いからね。

 宝厳寺の本堂も、都久夫須麻神社もとても綺麗だ。そして都久夫須麻神社は国宝らしい。彦根城といい、今日は国宝まつりだ。
 さらに国宝「唐門」があって、黒い漆塗(うるしぬ)りに鮮やかな彩色の紋様が美しい。京都から移築されたものと看板に書かれていたが、どれだけ大変だったろう。
 さらにさらに重要文化財の観音堂や船廊下も素晴らしい。語彙が足らず申し訳ありません。実際に見てみてください。凄いから。

 都久夫須麻神社の竜神拝所から見下ろせる場所に、琵琶湖へ突き出すようにそびえる宮崎鳥居がある。
 カスタネットくらいの大きさの有料の土器(かわらけ)2枚をいただいて、1枚に自分の名前を書き、もう1枚に願い事を書き、鳥居に向かって名前側からポイ、次に願い事をポイっとするのを「かわらけ投げ」と呼ぶそうな。その説明を聞きながら土器(かわらけ)を受け取った時、後ろから声をかけられた。

「失礼します。○○テレビの×××という番組の取材でして、願い事を書くところと投げるところを撮影しても()いでしょうか? お顔は映しませんので」

 エェー。地元のテレビ局やんけ。どうしてこんなド平日に取材を。いやド平日だからか。
 一瞬「嫌です」と断ろうかと思ったけど、なんだか必死な顔をしているのと、やたら低姿勢だったから承諾した。実は願い事がないから、ひこにゃんでも描いて投げようと考えていた。カメラで撮られてるから仕方なく真面目な内容の願い事を書いた。ここでひこにゃんを描く勇気は無い。
 そして僕の名前を書いた土器(かわらけ)、次に真面目な願い事カッコ仮を書いた土器(かわらけ)を鳥居に向かいフリスビーの如く投げて、地面に落ちてパリンと割れるところまで見た。宮崎鳥居の周り一面が土器(かわらけ)で白く覆われていた。これまで何万もの人たちが投げてきたんだろうな。



 後でかわらけ投げについて調べたところによると、鳥居を通過させるように投げると願いが成就すると言われているそうだ。この時はそれを知らずに、なんとなく投げてしまった。うむむ、下調べは必要だったか。
 テレビの人は2人で、おそらくディレクターとカメラマンもしくはアシスタント的な人だろう。他の人にも声をかけていたから、僕の映像が使われないことを祈るばかりだ。

 三重塔の(そば)宝物殿(ほうもつでん)に所蔵されている曼荼羅(まんだら)蓬莱亀(ほうらいかめ)、弘法大師の勅書などを拝見した。入場は少額ながら有料で、写真撮影不可。しかしながら、この島に訪れるなら是非とも拝見すべきだと感じた。
 特に大きな白い弁天坐像が素晴らしい。これはいつも通り、実際に見てもらえば分かる。美しく、それでいて畏怖の念を抱いてしまう、さらに格好良い弁天様の(すわ)り姿。5分くらいじっとその場に佇んで、撮影禁止なので自分の眼に焼き付けておいた。
 他には、豊臣秀吉からの書簡なんてのも展示されていてワクワク。ああ、撮影したかったなぁ。

 素晴らしいものをたくさん、じっくりと観られて最高だった。旅をして色んな寺や神社を参拝してきたからこそ、よりこの素晴らしさが分かるようになったのかも知れない。



 港付近へ下りて、土産物屋で弁天いも餅を、イートインで近江牛肉まんとコーヒーを購入して昼食とした。肉まんは、普通に肉まんだった。弁天いも餅が意外なほどにオイシー。濃いめの甘い醤油味が、いもの風味に良く合う。階段のアップダウンで疲れ果てた体を癒してくれた。
 そう、この島の中の移動はほぼ石階段で、段数も非常に多かった。エレベーターなんてないからお気を付けくださいな。



 島での90分の滞在時間はあっという間に終わり、迎えの汽船でまた30分かけて長浜に帰港。帰りは疲れていたものの着席せず、琵琶湖の中から外へ向かっての景色や、汽船の立てる美しい波をパシャパシャと撮って過ごした。




 琵琶湖なんてただの大きな湖でしょって思ってた自分を恥ずかしく思う。そのくらい、汽船から眺める湖面、その遥か先の湖岸、透き通るような山々のシルエットは美しかった。



 船を降りてもなお帰りの電車まで時間があるから、駅近くの黒壁スクエアと呼ばれる商店街に立ち寄った。
 どうやらガラスの店が有名なようで、ブラブラと30分ほど街を歩いて、ガラスの商品を眺めたり、他にどんな店があるのか見て(まわ)った。
 
 こうして2泊3日、予想よりも随分と満喫してしまった福井、そして予定外でありながら国宝を観まくった滋賀の旅行は終わり。
 電車に乗って帰途に着いたのでした。
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