第67話 秋田 レンジできりたんぽ

文字数 2,854文字

「ご飯のおかわりお願いします」



 浅虫のホテルの朝食。朝からご飯がすすむ料理ばかりで、嬉しくて困ってしまう。
 このホテルというか旅館の料理は本当に美味(おい)しい。朝はウニと椎茸(しいたけ)()え物、一枚貝の上に小ぶりなホタテと野菜の煮物が入っておりそこに卵を流しかけてさらにグツグツ煮るやつ、イカとホタテの和え物、梅と何かの和え物、鮭、豆腐、沢庵(たくあん)、味噌汁、海苔(のり)……。
 1杯のご飯で済むわけがない。そしてご飯がやっぱりオイシイ。

 そしてフロントでカフェラテを貰い部屋へ戻る。

 そういえば、宿泊してる部屋はオーシャンビュー。窓を()けると、陸奥湾にこんもりと(たたず)む「湯の島」が見える。この島へは定期便があるわけでなくて、祭りの時期あるいはカヤックなんかのアクティビティで訪れることが出来るようだ。海に浮かぶ弁財天宮の赤い鳥居もよく見えて、秋の色付いた島はなかなか見応えがあった。
 色々合わせて、とっても()き宿泊になりました。ありがとうございます。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 青森駅に戻り、そこで特急に乗り換えて秋田まで2時間半の電車移動だ。その電車の中、暇だしここからのルートを考えようと地図アプリを(ひら)く。

 それで、プランA・Bを考えた。
 山形市は内陸にあって秋田からは行き(にく)い。海沿いを進むとして、山形県の区間に見たいものがない。だからプランAは秋田から新潟に抜けてしまおうという案。山形県は素通りすることになる。そして特急でも4時間近くかかる大移動だ。
 そして、プランBは秋田と新潟の間にある鶴岡(つるおか)市に泊まって、次の日に新潟へ向かうという案。これだと一応山形県内で観光できるし、日程が1日増えてしまうもののその分移動時間を半々に分けられる。

 プランAになるかBになるかは、秋田から新潟への特急に乗ることが出来たかどうかによって決まる。その特急の本数が少ないため、指定席を取れない場合はプランBに切り替えることになるのだ。なお、指定席特急券を買うのは当日とする。気が変わってプランCが発動するかも知れないし……。

 というようなことを考えている(あいだ)に秋田駅。改札を出ると、巨大なアーケードが南北に広がっていた。
 お昼の時間である。朝食後はちょこっと歩いて電車に乗っただけなのに、そこそこ腹が減っている。外は激しい雨。駅隣接のデパートのレストランで食べようかな。
 秋田名物のきりたんぽ鍋や比内地鶏(ひないじどり)の親子丼を出す店は、待ち客が多すぎてスルー。ウロウロして立て看板を物色していると、新鮮な魚を使った天丼の写真に目を()かれた。巨大な天ぷらタワーが写っている。デパートだし、見た目だけじゃなくそれなりに美味(おい)しいのだろうと店内へ。
 天丼を注文してオープンキッチンを眺める。結構お(とし)(かた)が料理をされていた。勝手な印象だがこれは期待出来る、気がした。
 そして写真通りの天ぷらタワーが目の前に現れて「デッカ……」と(つぶや)く。こんなに食べられるかしら。



 食べるのが難しい。小皿に乗せてみるとはみ出すし、どうやって口に入れたもんかと少し悩む。やがて「切ればいいじゃん」と分かり、箸でぶった切る。
 白身の魚は多分タラだ。ホクホクで美味(おい)しい。エビの天ぷらが3尾もあることにビックリ。もちろんエビもプリプリ美味(うま)い。あと、もう一つ大きなのはサバの天ぷらか……? すごくサバっぽいけど、どうなんだろう。
 まったりした店なら()いてみるんだけど、(みんな)メチャクチャ忙しそうだから諦めた。きっとサバだろう。うん。

 タワー天ぷらでお(なか)いっぱいになって、駅の外に出てみるとさらに本降りの雨。Oh……。最近は雨に降られることがなかったから、なんだかこっちの気分まで今日の雨雲みたいにどんよりだ。
 雨の中で街ブラするのは北海道で大変な目に()っているから、今日は早めにホテルへ行こうと思う。それでも、この土地ならではの経験はしておきたい。ただの経由地にするのは勿体無(もったいな)いでしょう。

 道路は所々が冠水している。水捌(みずは)けの悪い場所なのか、(わだち)になっているのか不明だけど、車がそこを通ると「波」が来るほどだ。道幅の狭い場所を()けて移動する。



 それでも3つの施設を(まわ)った。県立美術館、赤れんが郷土館、ねぶり流し館。中でも鮮明に記憶しているのは、ねぶり流し館で知った竿燈(かんとう)祭りのことだ。



 その館の1階に竿燈の展示があった。竿燈は長い竿に最大46個の提灯(ちょうちん)を取り付けたもの。祭りの動画も大画面で再生されていて、雰囲気や流れがとても分かりやすい。



 ひとりの大若が片方の手の平だけで支えたり、(ひたい)、肩だけだったり、腰につけた帯の結び目だけで竿燈を支える様子は圧巻だ。祭りの(あいだ)にはその芸術性や技術を競い合う試合もあるそうな。すごく面白そうなのに全然知らなかった。祭りには海外からも見物客が来るらしく、どうやら僕は日本人なのに日本のことをあまり知らなかったみたいです。残念。
 来年の夏は……、ここに来る……? どうかなぁ。

 美術館や赤れんが郷土館については割愛するゥ。
 でも、今日の美術鑑賞では「作品を言葉に変換してみよう」チャレンジをしてみた。もちろん上手くいかなかったけれど、せっかく色んな場所で美術館ないし個展を訪れているのだから、より楽しく鑑賞出来るよう工夫していきたいものである。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 早めの時間でホテルにチェックイン。夕食は道中の土産物館で購入済みだ。

 「レンジでこのうまさ きりたんぽ」と書かれたパッケージ。こいつをホテルの電子レンジでチンして(しょく)す。コインランドリーの洗いと乾燥が終わった衣類を取りに行くついでに、レンジで8分、あっさりときりたんぽ鍋の出来上がり。

 部屋に戻ってハイボール缶を()け、熱々のきりたんぽ鍋に箸をつけた。パッケージの成分表には、きりたんぽは「うるち米」と書かれている。ウィキを(のぞ)いても同じことが書かれているからそういうものなんだろう。
 きりたんぽは、うるち米のご飯をすり潰し、丸い形で棒に付けて焼いたものらしい。確かに丸くて中心に穴が()いている。なるほどこういうものか。
 汁の味を吸うまで少し待ち、きりたんぽを箸で分割して口の中へ。うまい〜。レンジで(あたた)めるご飯ってあんまりおいしくないけど、これはちゃんともちもちしてて美味(うま)い。ちょっと形を崩してさらに汁をしっかり吸わせると、やっぱりうまい〜。そしてきりたんぽの他にも、比内地鶏のつくね、しらたき、ネギ、ごぼうなんかも入っていて、まさに鍋。汁とハイボール、合うんだなこれが。

 さらに秋田の進撃は続く。同じく土産物館で買った、比内地鶏の卵を使った「どら焼き」と、秋田県の村発祥の「ごま餅」が手元にある。
 レンジきりたんぽ鍋をウマウマと食べた(あと)、デザートにそのふたつを頬張(ほおば)る。甘い甘い甘いッ! 甘くておいしーぞ。ビールじゃなくハイボールにしておいて()かった。きりたんぽも甘い菓子も、ウイスキーの味にとってもマッチング。

 こうして雨で始まったどんより秋田の一日(いちにち)は終わり。終わり()ければ全てヨシ。

 明日はABCどの旅プランになることやら。
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