第33話 高知 宿毛から四万十へ

文字数 2,281文字

 本日ハアイニクノ雨デシテ。

 宇和島駅前から、高知県の宿毛(すくも)へ至るバスが出ている。ある程度は海岸線に沿った道路を走るから、回り道となって走行距離は60キロ程度だ。高速バスじゃなく長距離路線バスであり、およそ2時間ほどかけて宿毛駅前に到着する予定。

 バスを極力使わないようにしているけれど、この区間には鉄道が無い。だからバス一択なのである。実は大回りすると鉄道でも宿毛には行ける。しかしその場合は、宿毛で予定を終えたらまた同じ線路を逆戻りする必要があるのだ。それはなんだか旅っぽくない。

 よく分からないこだわりをあっさり破棄し、バスに揺られ揺られて2時間、宿毛駅に着いた。かなり強めの雨と風がお出迎え。いや、多分バスに乗っている間も降っていたのだろうけど、眠っていたので気にならなかった。バスの揺れってのは睡眠導入剤のような作用があるのかも知れない。



 宿毛で行きたい場所はひとつだけ、宿毛歴史館である。
 歴史館と言っても、公民館の3階にあるこじんまりとした資料室のような場所。それでもクチコミを見る限り評判が良いので訪問することにした。
 公民館に入ると、1階では絵画や書道などを展示するイベントが開催されていた。入選した作品を眺めて歩く。メチャクチャ上手い。宿毛の海を(えが)いた絵画作品なんて、海の躍動感が……じゃなくて、僕は3階に行くんだ。

 客が僕ひとりだったこともあり、年配の係員が懇切丁寧に観覧方法を説明してくれた。言われた通りの順序で観ていくと、縄文時代から始まり江戸時代までの説明や資料が、時代別に配置されていた。かなり分かりやすいし、ライトの当たり方なのか土器やら着物やらがすごく綺麗に見えた。
 1600年代に活躍した野中兼山の子供たちは兼山の死後、宿毛に幽閉された。その幽閉されていた頃のお話がホログラムで観られる。役者さんたちがかなり演技を頑張っていて、最後の最後でウルッときてしまった。演出が上手いなあ。



 さらに、部屋の中央には城下町だった頃の巨大なジオラマがある。階段を上がると幾つかの動画を再生出来て、動画に合わせてジオラマにライトが当たり、どの場所のことなのか分かりやすい。少ないスペースでも宿毛の町の歴史を伝えようとする気持ちがひしひしと伝わってくる。動画の内容も、短いけれど面白かった。

 別の部屋には、宿毛から世に出た偉人たちの説明と、その人ゆかりの資料がズラッと並べられていた。吉田茂も宿毛出身の竹内綱の実子であるとのこと。
 そうやって資料を眺めていると、気の良い係員さんが束になった資料を持って来て色々と教えてくれた。中でも面白かったのは小岩井農場が作られた時のお話で、小岩井というのは開設者3人の頭文字なんだって。へえぇー。
 あとは、つい2日前に北海道まで行って宿毛出身の偉人、岩村通俊の像を観てきたという話もしてくれた。つまりこの人は完全に宿毛オタクなのだな。持っている資料も、何度も読み返したのかヘロヘロだ。最近僕が薩摩藩士の碑を観たよという話をしたら、まだ行けてないと悔しがる。そんなところも面白かった。

 と、楽しく過ごして公民館を出た。
 アイカワラズノ雨。
 靴は完全に水没していて、歩く度ペチャペチャと気持ち悪い。気持ち悪いがどうすることも出来ないので我慢して東宿毛駅まで歩き、列車を待つ。列車と言っても1両だから……何と呼ぶべきか。ディーゼルワンマン鉄道かな。



 ともかく列車を待つ間、眼前に(そび)え立つ山々を見る。ワサワサと木が生えていて全体が深く濃い緑色だ。強い雨のせいか、その緑の肌から蒸気が立ち昇る。蒸気は風に(あお)られ流れて行き、低い雲となってどこかへ去ってしまう。壮大な景色の動きに見とれていると、列車が走って来た。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 四万十(しまんと)市、中村駅に着いた。
 マダフリツヅク雨。
 雨だからと予定を変えるつもりはない。まずは後川を渡ってすぐ、製麺所併設のうどん店へ。うどん2玉、肉ぶっかけ。さらに鶏天、イカ天、コロッケも付ける。歩き回って腹がペコペコなのだ。



 うどんはさすがのクオリティ。ぶっかけられた肉と一緒に食べるとまたこれも()い。天ぷらは揚げたてなのかアツアツ、サクサクで美味(おい)しい。30分雨の中を濡れて来た甲斐があるというもの。

 腹ごしらえが済んだところで、今度は反対方向へ歩き、雨の四万十川をスマホで撮影した。雨だから観られる風景もあるはずだ。でも明日もし晴れたら、もう一回来るぞ。



 そしてさらに濡れながら郷土博物館へ向かう。四万十市も元々城下町なのであって、昔は中村城というのがあったそうな。その跡地に、愛知県の犬山城をモデルにして建てられた博物館がある。
 そしてまたもやまたもや山の上。だがワタシは行くぞ。
 もう雨なんだか汗なんだか分からないけどとにかくずぶ濡れになりながら、坂を(のぼ)って行く。あ、ちなみに小さな折り畳み傘はさしてます。

 (しろ)(ふう)の博物館、入り口は自動ドア。中に入ると、息を切らして入場料を支払おうとする珍客に驚く受付の人。

「もしかして歩いて来たんですか?」

 どうやらほとんどの客が自家用車で来るらしい。それでも、坂がキツイから怖かったと言われるそうだ。ああ、だから歩道がなかったのね。
 それはともかく、1階、2階、3階と観て回り、最上階から四万十市を激写。ここにも午前中に他所(よそ)で見た野中兼山の資料あり。なんだか復習をしているような気分になった。



 これで日程終了。今日泊まるホテルまで40分、そう、40分かけて歩く。

 結局、一日中雨に降られていたわけで。明日は晴れるといいなぁ。でも天気予報は……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み