第20話 大分 7つの地獄と歩き続ける旅人 前編

文字数 1,656文字

 特急は4分遅れで発車したのに、大分駅にはなんと定刻通り到着した。
 おかげ様でホームを挟んで向かい側、別府行きの電車に接続出来て、大分駅には1分のみの滞在となった。さらにその先の別府駅でも向かいに日出行きの電車が来ており、目的の別府大学駅までいたってスムーズな乗り換えだった。
 別府大学駅は無人駅で、ポストに使用済みの切符と乗り越し運賃を入れるよう書かれていた。乗り越し運賃はギリギリ小銭があったので投函しておいた。小銭が足りなかったら横の自販機で切符を買って投函すれば良いのだろうか。いまいちルールが分からない。

 しかしながらローカル線でも特急でも、新幹線でも、電車はキッチリと時刻表通りに動く。そりゃ大雨とか電気設備の故障で遅延や運転見合わせすることはあるのだろうけど、よくもまあ緻密(ちみつ)なタイムスケジュールで動くものだと常々思う。僕なら「3分くらい、いいじゃないの。ゆとりも大事だヨ」なんて言ってダイヤを大幅に狂わせるに違いない。

 さあ、別府の地獄めぐり。
 7つの特徴的な温泉をめぐるという、これまさに観光なのである。ちなみに全ての地獄に駐車場があるから、車でめぐるのをオススメする。僕は歩いたというだけで。

 駅からなだらかな勾配を上がり、ひたすら歩くこと……もちろんバスを使えば楽だが今回バスは使わない縛りのため……1時間程度、最初の地獄である鬼山地獄だ。ここは鬼山ワニ地獄とも呼ばれる、大量のワニが飼育されている場所。7つの地獄全てのチケットを一括で購入し、まずはワニさんを拝みに行く。



 ワニは寒さに弱いため冬季には温泉に入れているようだ。今は暑いから(みんな)まったり寝そべっていた。口の周りに血がべっとりと付いているのは、エサをあげた(あと)だからだろう。じゃないと怖すぎる。動物園よろしく、ここのワニも天敵がいないし食事は多分決まった時間に配給されるしで、全く野生味を失っているようだ。僕は極めて不遜(ふそん)な言葉を思い付いたが、ここには書かないでおこう。



 ワニはさておき、この地獄の入り口近くにはモウモウと蒸気が立ち昇る激熱の温泉がある。その蒸気に飛び込むと硫黄(いおう)の匂いとムンとした熱気に包まれて、それだけで温泉に入ったような気分だ。「危険 摂氏99.1度」という看板を見て、入ったらどうなるのだろうと想像しただけで溶けそうになった。



 今日は小雨が降ったり降らなかったりで、ずっと折り畳み傘を小脇に抱えていて動きづらい。だが我がスマホは濡れたら終わりの古代種。カメラ機能を使うためには傘をさす必要があるのだ。面倒くさいが、7つ全ての地獄の様子を頭で覚えておくのは無理だから仕方ない。

 お次は白池地獄。



 名前の通り、乳白色の温泉カッコ激熱で、これもまた湯煙というか蒸気が噴出していた。先ほどモウモウと書いたが、よく考えるとゴォーッの(ほう)が正しい。本当に噴き出しているのだ。まるで小火山の(おもむき)である。



 そしてこの地獄には熱帯魚の小さな小さな水族館があった。アマゾンに棲むピラルクというでっかい淡水魚がぐるぐると泳いでいて、説明文には淡水魚の中で世界一うまいとか、アマゾンの現地人はガラナとすり合わせて薬とするなどと書かれていた。他にもアロワナなんかも観ることが出来た。なんだか得した気分? だ。



 文字数的にはここで切りたいけど、まだ地獄は5コ残っているから次回で大分というか別府を脱出できないかも。なら(あと)1コだけさらっと書いておこう。

 かまど地獄。



 青色の温泉カッコ激熱と、茶色い温泉で粘土の中心から勢い良く蒸気を噴出しているという2種類の温泉が観られる。



 青色に見える理由が掲示されていた。シリカ微粒子が青い光を反射するからで、その温泉にはシリカの白い大きな塊が形成されていた。なるほどなぁ。
 茶色の温泉は、地下の岩盤から粘っこい土が溶け出してその色になっているんだそうな。それぞれ特徴があって面白い。



 このあたりで少し疲れてきたわけだが、まだまだ歩くよー、っと。
 この日は5時間ぶっ続けで歩くことになるのだが、後半はまた次回。
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