第21話 大分 7つの地獄と歩き続ける旅人 後編

文字数 1,616文字

 相変わらずの小雨の中、かまど地獄から数分歩いて海地獄へ。



 海地獄はその名の通り海に似た青、天気とは関係なくそれ自体がマリンブルーの大きな温泉だ。摂氏98度あるらしく、全体から大量の湯煙が発生している。ぐるり一周する間に何度も湯気をくらって、じんわりとその熱さを感じる。色は涼しげなのにグツグツ煮えたぎっている様子が、なんだか変な感じであった。



 睡蓮や亜熱帯の植物などが育てられていて、小さな植物園らしき建物があった。ちゃんと観光地っぽくなっていて、観て回るのが楽しい。



 海地獄には大きな売店もあり、ちょうど雨足が強くなったことだし、土産の菓子を幾つか買って家に発送した。熊本で土産を買って送ったことは既に忘れていた。帰ったら大量の菓子と対面することになりそうだ。

 また小雨に戻ったので鬼石坊主地獄。



 灰色というよりは白色に近い泥がボコボコと沸騰している。



鬼石というのは地名だそうな。この温泉も99度らしいが湯気はさほど立っておらず。地味ながらもこの地獄を一番奇妙に感じた。



 さてここからが問題で、次、血の池地獄と龍巻地獄は、かなり離れた場所にある。念のため鬼山地獄のチケット売り場の人に()いてみた。

「3キロ以上あるので、皆さんバスで行かれますよ」

 パチンコ屋での景品交換所の案内みたいな返答があった。なるほど3キロ……、歩くか。

 先に言っておくと、車じゃないならバスかタクシーで行くべきだ。僕は変な縛りのせいで大変な思いをすることになった。

 一応、電柱に「血の池地獄こちら」みたいな案内板もあるし、大丈夫行けるっしょと気楽に歩き始めた。しばらくは民家もあり、なだらかな坂を歩いていくと、右手に別府湾を眺めることが出来た。まだ余裕もあって、小雨が降り続く中パシャパシャとスマホで景色を撮影した。



 そこまでは良かったのだが、さらに進んでいくとというか山を登っていくと、まず民家が見当たらなくなった。そして歩道に草が生い茂り通れなくなってくる。よって車道に出なければならない場所が増えてきた。なんなら歩道のない場所もあった。

 道路は結構な交通量で、後ろから車がちょこちょこやって来る。森の中で何か黒い影が走り去る。唯一まともな歩道は短いトンネル内だけで、あとはとにかく後ろと森の中を確認しつつ、時おり激しくなる雨を折り畳み傘でしのぎつつ歩いて行った。

 ようやく民家が見え始めたのは、もう血の池地獄まで5分程度の所。
 僕を抜き去っていったバスから、たくさんの観光客が降りる。べ、別に節約したかったわけじゃないんだからね! などとツンデレみたいなことを頭の中で叫びながら、血の池地獄へ。



 売店を通って地獄の全貌が現れると、ウワォッ、と(つぶや)いてしまう。赤よりは(だいだい)に近い色。とにかく広くて、一周すると数分かかりそうな池が全て赤みがかっているものだから、圧巻の光景なのだ。まさに血の池。



 ここまでの地獄では幾つか足湯もあった。血の池地獄にもやっぱり足湯があって、たくさんの人が足を浸けていた。僕はどうしても足湯なるものに足を入れられない。なぜかは書かないけれど、少し損をしているのかも知れない。

 最後の龍巻地獄も最初に売店がある。売店に入ると声を掛けられた。

「今ちょうど出てますよっ」

 パチンコ屋かな? と思いながら早足に売店を出てみると、ブッシャァァァー! と間欠泉から湯が人の背丈の2倍くらいの高さまで、勢い良く噴き出していた。なにこれすごい。



 観覧用のベンチに座って、噴出が止まるまで5分程度眺めていた。何時間ぶりの休憩だろうか。足がパンパンだ。
 30分くらいの間隔で噴き出すと書かれていたので、タイミングが悪かったらかなりの待ちぼうけをくらわされたということになる。危ない危ない。

 ともあれこれで7つの地獄を制覇したわけで、ホテルはここから歩いて10分程度の場所。我ながら素晴らしいチョイス。

 僕はパンパンになった足を(さす)りながら歩き出した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み