第37話 香川 鬼ヶ島に上陸、他

文字数 2,806文字

 朝早くに琴平を出発し高松へ。そして高松港で高速船に乗った。



 20分で女木島(めぎじま)に着く。別名、鬼ヶ島だ。
 島の中央部、鷲ヶ峰の山頂近くに「鬼ヶ島大洞窟」があり、ここは海賊の根城だったらしいが、現在は桃太郎の伝説になぞらえて観光スポットとなっている、ということです。



 女木島の港から洞窟への直通バスが出ていて、それに乗ると約10分でサクッと移動できる。だが、しかし、僕は歩く。だって道中の植物とか見たいじゃないの。
 この島は人口が200人に満たない。そのほとんどが港近くの町というか村に住んでいる。年代物の家屋を眺めつつ歩き、車1台分の幅の道路に出たら、あとは道なりに山を登れば洞窟へ辿(たど)り着くことが出来る。



 山の入り口付近で「(いのしし)注意」との看板を発見。こわっ。何かあったら大声で威嚇(いかく)してやろうかな。この看板があるということは、きっと棲息してるんだろう。
 帰りの船まで3時間もあるから、ゆっくり歩こう。山の空気を吸いながら山道を進んで行く。15分程度で「遊歩道」という看板が現れた。しかしながら、どう見ても「石階段」である。遊歩道って、さっきまでのなだらかな坂みたいなやつのことじゃないのか。

 ともあれ面白そうだから遊歩道とやらに突入。途中で、雑草を抜いて道を整備している地元の(かた)っぽい人の横を通り抜ける。

「ここ歩いてるの? 頑張って!」

 と励まされた。遊歩道で頑張るってどういうことなんだと思ったが、しばらくしてその真相を知ることになる。
 石を並べて土を()き止め造られた階段のため、段差がまばらである。そうなると、金刀比羅(ことひら)宮の参道のような整備された階段とは足の疲労が段違いだ。段だけに。
 ……さらに、ちゃんと数えていないがおそらく200段以上あるものと思われ、洞窟へ至る頃にはヒィヒィゼェゼェと息を切らしていた。



 洞窟の入り口横に受付の建物があって、オジサマがひとりで番をしていた。
 僕がハァハァ言ってるのを見て、「もしかして遊歩道、歩いて来たの?」と()かれる。もちろんイエスだ。帰りは(くだ)るだけだから楽だよと言われたけれど、あの急な階段を()りるには別の筋肉が悲鳴をあげそうだ。

 洞窟の入り口では鬼ポーズをして自分のスマホで写真を撮ってもらい、注意事項を聞いて中へ入った。入り口付近の天井は低いが、進んで行くと普通に立って移動できるくらいの天井高になる。洞窟内部を見回して最初の感想は、「これ、ダンジョンだ。ドラクエの世界だ」というものだった。ゲーム好きが想像する洞窟ダンジョンってこういうのだろう。



 岩が人の手でくり抜かれたような感じ。例えるなら、(あり)の巣の人間バージョンといったところか。通路があり、行き止まりに部屋がある。きっと昔、海賊たちはそれぞれの部屋に居たのだろうが、今は大きな鬼の像や、宝物(ほうもつ)を模したものが置かれている。



 400メートルほどあるという洞窟の半ばほどに、蝙蝠(こうもり)が2匹飛んでいた。すごいすごい、本当に洞窟だよ。なかなか大きなやつらで、無言のままパタパタと通路を巡回していた。襲ってこないことを確認して、引き続き順路に沿って進む。かなり天井が低い場所もあるので、頭をぶつけないよう慎重に歩く。



 洞窟の出口付近では、「なるほどそうなったか」とニヤけてしまった。しかしそれはネタバレになるので書かない。洞窟から出ると、久しぶりの陽光がとても(まぶ)しい。ちなみに出てから振り返り見上げると、柱状節理(ちゅうじょうせつり)というものがある。五角形の木材を組み合わせたかのように見える、溶岩が冷えて面白い形状に固まった地形だ。こんなの初めて見た。



 そして展望台へ向かう。しばらく人ひとり分の道幅の緩やかな坂を()がると、標高188メートルからの展望が待っていた。天気の良さもあって、瀬戸内海はブルーに染まっている。そして遠景になればなるほど白っぽく見える島々。航行するフェリー。たくさんの海を眺めてきたけれど、この景色もやっぱり素晴らしい。



 時間に余裕があるから、ぼけーっと360度を眺め、少しひんやりとし始めた秋の風を受けて、満足したので港へ戻ることにした。



 やはり帰りの遊歩道では、変な筋肉を使うのか、昨日の金刀比羅(ことひら)(まい)りの疲労が今ごろ効き出したかで、足と膝が痛くなった。

 遊歩道を()り切って、また道なりに歩いて行く。地図を確かめるためにスマホを持って移動してたら、地元のお婆さんに「簡単だよ、あっちに行けば海。そっちは山。それだけ」と笑いながら言われた。確かにおっしゃる通りで、低い方に向かえばどうあがいても海に出る。



 まだ帰りの高速船の到着までは1時間以上ある。ということで砂浜を歩いて、打ち寄せる波を触ったり、海岸の岩に(のぼ)ったりして、がらんとした浜を目一杯楽しんでみた。きっとシーズン中はもの凄い人の群れが遊んでいたのだろうな。



 港で岸壁に座り、ジュースを飲みながら海を眺める。時折、魚影が確認出来た。釣り糸を垂らしたら簡単に釣れそうだから、釣り目的の人も来るはず。
 海鳥が海中に潜り、魚を(くわ)えて戻ってきた。ピチピチと逃げようとする魚に対し、何度もクチバシを動かして最後は飲み込んでしまった。野生味あふれるシーンですな。

 そんな感じでだらだらと時を過ごしていると、高速船がやって来た。どうやら島に置いてきぼりにならず帰れるみたいだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 高速船のデッキで海を見ていたら、トビウオらしき魚が数匹跳ねた。これは昼食に魚を食えということなんだ。きっとそうだ。

 だがここはうどん県を標榜する香川。港に着いて僕が向かった先は、うどん屋だった。
 地鶏のはらみ炭火焼というメニューを選択。うどんの量は中か小で、なんとなく中を選んだらどうやら2玉のことだったらしい。海のものも食べたいなということで、穴子天とイカゲソ天をトッピングした。



 ネットで調べると、鶏のはらみは横隔膜のことらしい。本当に鶏は骨以外全部食べられるんだなぁ。いや、軟骨も食べられるのか。

 天ぷらがデカいし、明らかに2玉だし、もう夕食は要らないな。そしてお腹をパンパンにして退店。うどんもはらみも天ぷらも美味(おい)しかったー。

 その(あと)は、高松城跡地と香川県立ミュージアムに立ち寄った。
 高松城は、日本三大水城の一つだ。残念ながら城は無くて、お堀を眺められる展望くらいしかない。あとは重要文化財の(やぐら)や、昭和天皇が植えられた松の木を観て回った。庭園としてはすごく綺麗だ。お城……。



 県立ミュージアムでは「映画のレシピ」という特別展示が開催されていた。明治の活動写真と呼ばれていた時代から、大正・昭和にかけ大衆の娯楽として映画が広まっていった経緯を、年代別に伝えている。古い映画の一部を流していたり、香川県での映画の歴史が分かりやすく説明されていた。
 楽しみ過ぎて、図録つまり本まで買ってしまった。どうやって持って帰るつもりだ君ィ!

 とまあ色々楽しんで回ったのでありましたとさ。
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