第38話 徳島 大塚国際美術館

文字数 2,501文字

 朝食バイキングでは、ライブキッチンというオムレツを目の前で作ってくれるサービスがあった。とんでもない手練(てだ)れの人によって作られており、箸を通すと中がトロトロでふんわり美味(うま)い。朝からこんな()いもの食べたら元気出ちゃうぞ。



 さらに、うどんは自分で湯がき、ネギと天カス、かしわ天を乗っけて自分勝手うどん。これでうどんの国ともオサラバさ。

 高松駅から特急で徳島駅へ。そして駅前から路線バスに乗り、1時間ほど揺られると鳴門(なると)の大塚国際美術館へ到着。大阪国際美術館は……って説明しようと思ったけど、中でスタッフさんが丁寧に教えてくれたので後述します。

 施設内は、毎日のようにたくさんの人が訪れているとは思えないほど綺麗に清掃されていた。そこそこ年数は経っているはずなのに、まるで新築みたいだ。
 ここには、陶板複製画が大量に展示されている。陶板複製画とは、陶器の板へ原画の色彩や趣きを忠実に再現・複製したものだ。凄いのは大きさまで再現していることで、あの有名なピカソのゲルニカも本物と同じ大きさで展示されちゃっている。
 つまり、本物かどうかを気にしなければ、世界の名画を原寸大で楽しめちまうんだ!

 山の中にあるため、最初は地下3階から始まり、2、1と上がっていって、地上1階、2階まで。5階層もあるものだから、ひとつひとつしっかり観ていくと一日で(まわ)り切るのは難しい。

 入り口で自由にお取りください的なパンフレットを取る。各階の観覧順序が番号で記されていて、最後の番号は100だ。そしてその番号はあくまでも部屋番号であり、それぞれの部屋には数点から十数点の陶板複製画が配置されている。全部でおよそ1000点ほどあるということで、やはり立ち止まってじっくり観てたら何日もかかってしまうのだろう。

 だから大きなトコや感想だけを抜粋します。

 まずはいきなりミケランジェロのシスティーナホール。システィーナ礼拝堂を模していて、天井画も含めて陶板で絵画が複製されている。ある年の紅白で超人気シンガーソングライターの中継場所として使われ、注目を集めた場所だ。

 遠目の写真はネットでもたくさん出てくるけれど、近付いて観る、気になった部分をじっくりと確認するためには実際にそこへ行かないと無理だ。
 僕が特に観たかったのは正面の壁画、「最後の審判」。近付いていくと、右下で「カロン」が人々を船から地獄へと押し出している様子や、地獄の審判人「ミロス」の表情の険しさをはっきりと確認出来た。とんでもない迫力が両方の眼を通して脳を襲ってきやがる。最初の展示物でこれじゃ、一体この(あと)どうなってしまうのか。

 古代、中世、ルネサンス、バロック、近代、現代の絵画を順に眺めていくことになる。本来は足を止めずにゆっくり歩いて2、3時間の予定だった。のだが、写真撮影OKなので、気になった絵画を説明文と本体の並びで撮っていく。全然進めない。だって名画ばかりなんだ。

 古代から中世は神話からキリスト中心というか旧約聖書を中心とした絵画で、ルネサンスやバロックになると戦争、肖像画、など徐々に人間味のあるものが増えてくる。で、近代はゴッホのひまわりとかミレーの落ち穂拾いとか、前衛的なものや庶民や作家自身にフォーカスしたものが増えてくる、……かな。
 今、その時に撮影した写真を見ている。よくこんなに撮ったなぁ、でも撮り(かた)すっごい下手だな! という気持ちになった。まあ、記憶を呼び覚ますのには十分(じゅうぶん)使えるから……。

 陶板についての紹介コーナーで、複製された弘法大師像を横から後ろから眺めていると、「触っても大丈夫ですよ」と声をかけられた。言われた通り像を触りながら、スタッフさんにこの美術館がどうして作られたのか(たず)ねてみた。

「当美術館は、50年前に設立された大塚オーミ陶業の陶板技術を活かそうと、大塚製薬グループが25年前に開館しました。当初は赤字続きでしたが、徐々に知名度が上がり、紅白で使われてから一気に来場者数が増えまして、今では観覧料だけで黒字になっているほどです。この弘法大師像は、実際に高野山の像を3Dスキャンして、それを基に陶器で作られています。1000度の熱で焼成しているので、お触りいただいても劣化しません。本物の像は木造なので触ることなんて出来ませんよね。この技術があれば、絵画などの記録を後世まで残していくこと、さらに、触れても大丈夫な展示の仕方が出来るんです。なぜここ鳴門(なると)に美術館を建てたのか、それは大塚製薬発祥の地である鳴門への恩返しのためです」

 なるほど、やはりテレビの力はすごいんだな。そういえば高知の牧野植物園も、僕は入らなかったけど朝ドラの効果でかなりの客がいたよな。って思い出した。あと、高さ80センチ強、陶器の弘法大師像はめちゃくちゃ重くて、持ち上げようとしてもビクともしなかった。美術館の紹介、終わり。

 昼食は館内のレストランで。美術館なのに海鮮丼があって、そのシュールさで注文してしまった。あと、1日限定50個というケーキも注文。僕は限定という言葉に弱い。味については普通という感想しかないんだけど、まだまだ歩き回るための元気はいただけたはずだ。



 大きな展示物では、そのレストランの横にモネの巨大な睡蓮画がある。聖マルタン聖堂や聖テオドール聖堂の壁画なども大きい。聖堂に僕と同時に入って来た小学生の群れは「デッカ!」とだけ言い残して瞬時に出て行ったが、僕もおおよそ同じ感想だった。

 フランスに行かなくてもモナ・リザを観られる。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」のためにオランダへ行かなくてもいい。ゴッホのひまわりのために世界中を飛び回らなくてもいい。なんて贅沢な場所なんだ。
 この美術館には是非とも足を運んでいただきたい。なんなら近代と現代のフロアを観るだけでも元が取れるはずだ。

 さて、11時に入館して4時間が経過した。まだ鳴門(なると)でやりたいことがある。だからちょっと巻きで観覧を終えて美術館を出る。

 ここ鳴門(なると)渦潮(うずしお)の有名地でもある。美術館を出て7分程度道なりに歩くと、観潮船の乗り場があった。

 ……次回は観潮からですね。
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