第55話 滋賀 彦根城

文字数 2,035文字

 彦根城は国宝指定されている超スゴイお城だ。ということを彦根に来てから知った。ひこにゃんは存じ上げていましたが……。

 おそらく午前中の遅い時間になると混んでくるだろうから、テキパキと(まわ)ろう。まずはチケットを買って。お? 玄宮園(げんきゅうえん)とは?
 チケット係の人が「庭園です」と言う。彦根城とその庭園は強制セットになっている様子。博物館に行くほど時間の余裕は無いので、城と庭園セットの(ほう)のチケットを購入し、いざ天守へと向かう。



 最初の坂きっつ。地面がグワッとせり上がっていて、申し訳程度に石の段が距離を()けて置かれている。しばらく傾斜が続くから、ふくらはぎにかなりの負担がかかる。そうか、ここは本気の城塞(じょうさい)なんだ。簡単に天守まで辿(たど)り着けたら攻め落とされちまうんだ。
 朝一番でいきなりヒィヒィ言いながら上がっていく。この感覚は久しぶりな気がする。そういえば本日はお日柄も良く、雲ひとつない。気温は秋そのものでも直射日光が肌をジリジリと加熱してくる。もしも真夏にこんな坂を上がったら大変なことになりそうだ。



 ヒィヒィ言いつつも古くからそのまま保存されている(やぐら)とか門とかを観て、いざ天守……ひこにゃんのパネルがある! ひこにゃんと天守を一緒にカメラ撮影し、いざ天守。



 おおー、さすがの国宝で、ちゃんと古い城塞してる。銃や弓で迎撃するための狭間(はざま)がきちんと四方を向いていて、最上階からは城下を見渡せるようになっている。これなら敵が攻めて来てもすぐに気付けるし、長い坂を駆け上がる(あいだ)に攻撃出来るというわけか。
 そして階段がめちゃめちゃ急になっていて、一段一段かなり足を上げないと進めない。危ないからか当然の如く各階にスタッフが配置されていた。こういうのはシルバー人材なんだろうか、それともボランティアなんだろうか。団体客が来たら注意喚起やら整列やらで大変だろうな。



 最上階からの眺めで、琵琶湖(びわこ)がはっきりと見えた。この(あと)そこに行くから待っててくれ。いや(みずうみ)は動かないか。
 国宝だから壁に資料を貼れないのだと思われ、天守の中には簡単な説明書き看板くらいしかない。本来は壁とか(はり)とか柱とかを触って欲しくないんだろうけど、一般公開している以上そこまで気を張るのは無理だろう。世界遺産登録を目指しているみたいだし、今後はどうなるのでしょうか。

 古くからある重要文化財の(やぐら)も国宝の天守も、古い木の(にお)いが郷愁(きょうしゅう)を感じさせてくれる。ばあちゃん()の匂いに似てる。もうその家は無いのだけれど。
 やっぱり本物の城は素敵だ。博物館化された復元城とか、当時の外観を再現してみた城とかには無いモノホンオーラがあると思う。この旅で色んな城を訪ねてきた。彦根城はその中で間違いなくトップクラスの天守だ。
 だからただ中に(はい)って、急な階段を最上階まで上がって、また下りるそれだけなのに勝手に脳内で当時の様子を想像してしまう。「敵、来襲ぞ!」「おのれらは弓矢を構えよ!」「()て! 馬上衆を狙え!」なんてね。



 いにしえに想いを()せつつ、天守を出る。
 黒門山道を()りて黒門橋を渡ると、まずは楽々園という古いお屋敷。ここは桜田門外の変で暗殺された井伊(いい)直弼(なおすけ)が生まれた場所である。古いがとても綺麗で、さすが藩主によって建立された屋敷だ。当時の職人たちが最先端の技術を駆使して建造したのだろう。今も昔も、手間を存分にかけて造られた建物は長く持つ。多分。

 そして名勝、玄宮園(げんきゅうえん)。旧大名庭園である。どうやら「玄宮楽々園」と呼ばれ、先ほどの楽々園とセットで名勝のようだ。

「すごっ!」



 単純に感動して声を漏らしてしまった。小さな庭園ではあるものの、木造の風情(ふぜい)ある橋、手入れされた松などの木々、古めかしい建物の配置が絶妙で、それらを静かに反転させて映す池も含めて映像としての美しいバランスよ。こりゃ名勝ですわ。
 園内で数人がカンバスに向き合い風景画を()いていた。別にここに限ったわけではなく色んな所で風景絵描きさんを見かける。カメラでパシャパシャするより一つの風景とじっくり向き合うのもなかなか()さそうだ。僕ならきっと途中で飽きるんだろうけれども。



 ここいらでちょっぴり時間が気になり出した。この(あと)は土産物店によってぇ、電車に乗って長浜(ながはま)に行ってぇ……とか考えていたら無意識に園内を一周してしまった。せっかくだからもう一周、今度は出来るだけ無心で。



 景色を堪能(たんのう)し、玄宮園を出て城下の道を少し歩くと土産物店があった。ひこにゃん、ひこにゃん。
 当然のように「ひこどら」ひこにゃんが(えが)かれたどら焼きを手に取る。そして猫の手を模した菓子と、琵琶湖の海老(えび)煎餅(せんべい)、ひこにゃんのアクリルキーホルダー。お、赤こんにゃくも買おう。
 そしてはたと気付く。あとの行程すべてでこの土産を持ち歩くのか……。

 ま、いっか!

 持ち歩きなさいよ自分。面倒くさいけどすべてはひこにゃんのためだ、仕方ない。
 というわけで大きなビニール袋を盛大にガサガサいわせながら、彦根駅より長浜駅へと向かうのであった。
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