2. はじめてのおつかい

文字数 1,050文字

「都会で台所付きの宿が安くとれるなんて。今日は腕をふるうわよ。」

 田舎町では調理もできる小さな小屋(コテージ)を貸している所も珍しくはないが、都会ではそのような宿(コンドミニアム)は少ない。それが手に入った今日、ミーアを連れて食料を買い込んできたシャナイアは、誰よりも早くその宿へ帰ってくるなりそうハリキって、さっそく、下ごしらえを始めた。次々と袋の中身を取り出して、調理台に並べていく。玉ねぎ、ニンジン、トマトに香辛料、パスタ・・・シャナイアはハッと気付いて手を止めた。

 急に、「しまった・・・。」と言わんばかりの顔になったシャナイアを、ミーアはどうしたのかと隣で見上げている。

 シャナイアは大きなため息をついて、パスタの袋を手に取った。
 これだけじゃあ・・・きっと足りない。

「ミーア、ここでちょっと待っててくれる?パンも買うつもりでいたら、うっかり忘れちゃったの。さっきの市場のパン屋さんに、ちょっと行ってくるわ。まだいると思うから。」
「さっきのパン屋さんなら分かるよ。行ってきてあげる。」

 ミーアは自信満々にそう言ってのけた。実は、これを頼まれればミーアにとっては初めてのおつかいになる。自分では大人びているつもりのこの少女は、こういう機会を密かに待っていて、これまでレッドやシャナイアが買い物をする姿を熱心に観察していたのだった。

「でも・・・。」

 シャナイアは少しうろたえた。買い物に時間をとられてしまったため、ミーアがおつかいを頼まれてくれれば時間に余裕ができ、助かるが、狭い道を何度か曲がりながら通ってきたので、迷子になるかもしれないと。 

「右に真っ直ぐ行って、突き当たりを左に曲がって、えっと・・・赤い花がいっぱい並んでたおうちのところを曲がって、大きな道まで出たらいいんでしょ!」

 驚いたことに、逆にたどって行かなければならないというのに左右が分かり、道も合っていた。大人なら簡単な道だが、ただ付いて歩くだけが普通のこの歳で、どこをどう通ってきたかを完璧に記憶していたとは。毎日お城を抜け出して遊びに行っていたというのは本当なのねと、シャナイアは納得し、むしろ感心した。

「じゃあ、頼んじゃおうかしら。今、メモを渡すからちょっと待っててね。」

 シャナイアは買い物のメモとその分の銀貨を用意すると、それをミーアがヴェネッサの町でイヴに買ってもらったという小さな黄色いポシェットに入れてあげた。

「気をつけて行ってくるのよ。」

 底抜けに明るい笑顔で(こた)えたミーアは、嬉々(きき)として外へ駆け出した。 




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