38.追跡

文字数 646文字

 ヤシの群落(ぐんらく)の中を夢中で急ぐ四人と、一頭の野獣の姿があった。そのうちの二人はギルとシャナイアで、あとの二人は、今朝、不意に煉瓦(れんが)小屋を(たず)ねてきた男たちである。その彼らは、ギルがひと目で感じた通り地元の労働者などではなく、さらには全く知らない者同士というわけでもなかった。その証拠に、こうして行動を共にしている。目的が同じだからだ。

「橋まで迷わずに行けてよかったわね。」
 目の前にかかる枝葉(えだは)を払いのけながら、シャナイアが言った。
「ああ。あとはキースの案内に従って行けばいいからな。それによると、最初予定していた進路の方へ向かったようだ。敵に見つかっていなければいいが。」
 ギルがキースの背中から目を()らすことなく答えた。
「それにしても、いつ出発したのかしら。なかなか追いつかないわね。」
「幸い、俺たちがいた場所も橋からそう離れてはいなかったから、もう追いついてもいい頃だと思うが。」

 キースがある時ピタッと立ち止まり、鼻先をやや上に向けて耳をそばだてた。そうかと思うと、いきなり狩りのスピードでまっしぐらに駆け出したのである。

「あ、キース!」
 シャナイアは思わず一歩踏み出したが、とうてい付いていけるはずもなく立ち止まった。

 そしてキースは、案内役を務めていた時とは比べものにならない速さで、瞬く間に消えてしまった。

「キースが何かを聞きつけたらしい。急ごう。」と、ギルもすぐに駆けだした。

 そうして広い道へ出ると間もなく、ギルやシャナイアの耳にも、戦いの騒音(そうおん)と立て続けに上がる悲鳴が聞こえてきた。


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