13. ギルの不審な行動

文字数 1,485文字

 庭園めぐりから戻ってきた一行は、ひとまず(くつろ)ぐ場として応接室に通されていた。鍾乳石(しょうにゅうせき)飾りが見事なディオマルク王子の御殿にあるこの部屋では、絵画ではなく、また巧みな壁画に興味をひかれる。窓からは、まだ(にぎ)わっている街の灯りが美しい夜景を眺めることができ、高価な生地が張られたソファーに腰をおろせば、もうじゅうぶんだというのに紅茶と茶菓子が運ばれてくる。

 レッドはただ無言でまたエミリオと目を見合い、壁際(かべぎわ)(ひか)えている召使いに目をやった。

 妙に至れり尽くせりの彼女たちの計画的な動きには、不信感がますます募るばかり。なんせ、風呂の用意ができていること、そして泊まるようにも勧められたからだ。

 そこへギルが戻ってきた。

 エミリオやレッドにはききたいことがあったが、この部屋にはまだ召使いが残っている。一方のギルはなぜか(かた)い表情をしていて、ほかに目を向けることなく真っ直ぐにシャナイアのもとへ向かっている。

 そのおかしな行動に、リューイやカイルも注目した。

「シャナイア、俺も庭園を見てみたいんだが・・・よければ一緒にどうかな。一人じゃ味気(あじけ)ないだろ?二度目で悪いが。」

 え・・・という空気が(ただよ)った。

「あらん、嬉しいお誘いだわね。喜んで。」

 変な言葉づかいから、まだ()いが()めきっていないらしい。だが、幻想的な美しい庭園を観たおかげか、勝手に悪くしたシャナイアの機嫌(きげん)はすっかり直ったようだ。レッドは内心そうつぶやきながらも様子をうかがうことに。

 そしてそのまま、ほかにもいる仲間の怪訝(けげん)な視線を集めているというのに、ギルはさりげなくシャナイアをエスコートして部屋から連れ出してしまった。ほかの誰とも言葉を交わすことなく、だ。 話しかけられる(すき)をみせないよう、構えているようにさえ見えた。

 それから間もなく、部屋にいた召使いたちも退出した。

「なんかおかしいな・・・。」
 リューイでさえ、二人が出て行ったあとのドアを見ながら顔をしかめている。

「あいつ、やっぱりバカだな。ここはギルの幼馴染(おさななじ)みの王国なんだぞ。夜の庭園だって、もう何度も見てるはずだ。何かあるって、どうして気付かないんだ?」
 レッドは、ずっと自分と同じように感じていただろうエミリオに視線を向ける。

 ギルはシャナイアを心配していた。ディオマルク王子がそうとうな色男であることは、美女ぞろいの侍女(じじょ)たちを見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)。ギルの正体はバレてしまったに違いないが、そうすると、その幼馴染みにシャナイアには手を出さないようはっきりと釘を刺し、すぐに帰ると伝えるくらいは難しくないはず。ところが帰る準備をするどころか、シャナイアを不自然に誘って出て行ってしまった。さっぱり理解できないことだが、こうなるとギルがとった行動は、シャナイアが関係する何かを王子から頼まれて、それに乗ったと考える方が妥当(だとう)だろう。

「こっそりついてこか。」と、カイル。
「何も起こらないうちに、気付かれるぜ。」
 こうなった以上、レッドはもう成り行きに任せることにした。
「何かあったのだろうか。王子は私たちをわざと帰すまいとしているようだが。」
 しかし見当もつかないと、エミリオは(まゆ)をひそめている。
「何かまた嫌な予感がするんだよなあ・・・早くここを出た方がいいんじゃないか。」
 リューイがぼやいた。

「でも・・・ミーアさっき寝ちゃったところだよ。」
 先ほどの庭園めぐりのせいだろう、疲れればすぐに眠気がさしてくる少女の寝顔をのぞき込んで、カイルが言った。

 レッドは頭の後ろで両手を組んで、ソファーの背もたれに寄りかかった。
「どのみちギルが一枚噛んでんじゃあ、逃げられねえよ。」
 



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