6. 天下一の色男

文字数 1,007文字

 その夜。

 案の定、ミーアが包帯をしているのを見るなり、レッドは血相を変えた。それ以上刺激しないよう、飛び出したことは伏せつつシャナイアが訳を話したものの、すぐに(さと)られてしまい、あまりにキツく(しか)るのでエミリオが思わず(かば)いに入るほどだった。

 そのレッドとカイルが帰宅したのが、ちょうど夕食時。そのこともあって、シャナイアは、ミーアが怪我をした理由以外のことを、まだ話してはいなかった。夕食を食べ終え、シャナイアが()れた珈琲(コーヒー)を飲みながらゆっくり団欒(だんらん)できる時間になってようやく、エミリオとレッド、そしてカイルは、また別の問題が起こっていることを知らされたのである。

「王家の晩餐会(ばんさんかい)に招待されたあ !?」 

 レッドとカイルはあんぐりと口を開けてから、見事に息を合わせてそう言った。
 だが シャナイアがそれから詳しい説明を加えると、たちまちレッドは()に落ちないという顔に。

「一般の者を、そんな簡単に王宮に招待なんてできるものなのか。いくらなんでも。」

「そうね、その場の思いつきだったみたいだし。」
 その時の様子を思い出しながら、シャナイアが言った。

「ギル、もしや君のことに・・・。」と、エミリオ。
 ギルは首を振った。
「いや、俺はその場には居なかった。あいつはその点、俺以上に自由奔放(ほんぽう)だからな。美女がからめばなおさら・・・」
 そう答えると同時に、ギルはいきなり表情を変えた。
「・・・そうか!」

 ディオマルクという男をよく知っておきながら、ギルはなぜ気付かなかったのかとシャナイアの方へ首を向ける。

「君だよ、シャナイア。くそ、奴の魂胆(こんたん)が読めたぞ。」

「はい?」
 シャナイアは、理解しかねるといった声を上げた。

 ギルの声が急に荒々しくなる。
「あいつの色男ぶりは天下一なんだ。気に入った女がいれば、召使いだろうが娼婦(しょうふ)だろうが、構わず 寝室に(まね)きやがる。奴め、そうはさせるか。断りに行くぞ。」

「落ち着けよギル、らしくないぜ。今のあんたはただの庶民(しょみん)なんだぞ。王子の申し出に、今更そんなことできるわけないだろう。」
 レッドは呆れたと言わんばかりにギルを見て、冷静な声で言った。

「俺だって、一度うんって言っちまったもん断るなんて嫌だぜ。」と、リューイ。

「私なら大丈夫よ、そんなに安くないから。」

「相手は王子様だよね・・・。」
 カイルがレッドの耳元でささやき、レッドはやれやれと首を振った。
「あいつ、自分のことはもうどうでもよくなってないか?」
 



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み