17.不審な行動のわけ
文字数 1,748文字
ギルは、そうきいてきたエミリオだけでなく、ほかにも あらかた読まれていることを悟 って、深々 とため息をついてみせた。
「ああ。実に言いにくいんだが・・・俺としたことが・・・。」
そうしてギルは、おどおどしながら自分の不審な行動のわけを説明し始める。
すると途中、ギルの予想通りにレッドとリューイ、さらにカイルがこう大声を上げた。
「勝負に負けたあ !?」
毎度のことながら、こういう時は面白いように息が合う。一人を除いて。
そしてその声は、反響効果のあるこの浴室内においては、驚くほど大きな音となってこだました。
「きき返してくるな・・・。」
ギルは苦い顔でうるさそうに耳をふさぎ、うなずいてみせる。
「怒られたろう。」と、レッド。
「ああ、こっぴどくな。だが、結局は承知してくれた。」
「ほう・・・。」
エミリオが見透かしたような反応をしてきた。
レッドも何か探るような眼差しをずっと向けてくる。
ギルはマズいというように目を逸 らした。認めてしまえば、ずっと我慢していたせいもあって、とうとうやっちまった。彼女を黙らせるのに、ほとんど勢いで思わずあんな手を使ってしまうとは・・・。
「と、それでだ。」
ギルが誤魔化すようにさっさと話題を移そうとすると、その続きをレッドが要領よくまとめた。
「要するに、シャナイアを王女の影武者にし、二手 に分かれて王女を隣国まで密かに送り届けるってわけだろ。追っ手はシャナイアの方に引き付けて。」
「シャナイアに叱られるのを承知で、協力する気になったのはなぜだい。」
まるで責める様子もなく、エミリオは穏やかな声で問うた。ギルがその勝負に乗った時点で、そういうことになる。
ギルは答えた。
「ここダルアバス王国は、レトラビア王国とともに、平和志向へ動き出したラタトリア地方の先駆者だ。だから、下手に目立つことをして近隣国に誤解・・・つまり、勢力を拡大する政略結婚だととられるのを避けたいそうだ。」
この時、レッドはふと考えていた。
レトラビア王国といえば、思い出されるのはユリアーナ王女のこと。人質にとられていた彼女が帰国する際にも護衛は少数精鋭 で臨 んだが、あの時は確か、王女を正式に解放することによって、戦乱の時代の高圧的なイメージを緩和 させる目的もあったと聞いた(※)。だが残念なことに、未だ必要以上に他国を警戒している国は少なくない。エドリース(大陸西部)の激戦が止まない現状では、なおさら無理もないが・・・。
「実際、まさに今、王女を殺害しようとしている者たちも、機会があれば説得するつもりでいるらしい。それまでの身代わりだ。もし正体がバレて相手が話に応じなくとも、人違いだと分かれば慌 てて本物を探しに行くだろう。そのあいだに、密かに安全圏まで逃れやすくなる。それに、二人は確かに愛し合っているということだったんでな。それで、お前たちの話もさせてもらった。ディオマルクのヤツ、心強いなんて大喜びだったよ。」
「そうくると思ったさ。」
リューイは、もはや割り切ったような声で言った。
「悪いな。都内ですでに暗殺の動きがみられる以上、極秘に出発するために傭兵 などを雇 うつもりもないらしいからな。お前もそうだが、こういう場合にレッドやエミリオは百人力だろう? その代わりに、セルニコワ王国から、腕のたつ助っ人が密かにこっちへ向かっているそうだ。二人だけな。」
「二班に分かれる選別は、もうできているのかい。」
エミリオがきいた。
「いや、これからだ。とりあえず、俺はシャナイアに付くよ。彼女側の方が危険になるからな。」
「僕はどっちにするつもり?」と、カイル。
「王女側だな。欺 きやすい。」
「そこ普通に言うの、やめてっ。」
「だが王女を歩かせるわけだろう?付いて来られるのか。」
不安そうにレッドが言った。
「ファライア王女の趣味は乗馬だ。少しは鍛 えておられる。シャナイアと体型がそう変わらないのは、そのためだろう。彼女も長身だしな。」
そう答えて、ギルはエミリオの方を向いた。
「それから、エミリオ・・・。」
「なんだい?」
最後にまた苦い顔をしたギルは、ため息混じりにこう報告する。
「お前の正体も、すぐにバレちまった・・・。」
※ 関連章 ―― 外伝 『 レトラビアの傭兵 』
「ああ。実に言いにくいんだが・・・俺としたことが・・・。」
そうしてギルは、おどおどしながら自分の不審な行動のわけを説明し始める。
すると途中、ギルの予想通りにレッドとリューイ、さらにカイルがこう大声を上げた。
「勝負に負けたあ !?」
毎度のことながら、こういう時は面白いように息が合う。一人を除いて。
そしてその声は、反響効果のあるこの浴室内においては、驚くほど大きな音となってこだました。
「きき返してくるな・・・。」
ギルは苦い顔でうるさそうに耳をふさぎ、うなずいてみせる。
「怒られたろう。」と、レッド。
「ああ、こっぴどくな。だが、結局は承知してくれた。」
「ほう・・・。」
エミリオが見透かしたような反応をしてきた。
レッドも何か探るような眼差しをずっと向けてくる。
ギルはマズいというように目を
「と、それでだ。」
ギルが誤魔化すようにさっさと話題を移そうとすると、その続きをレッドが要領よくまとめた。
「要するに、シャナイアを王女の影武者にし、
「シャナイアに叱られるのを承知で、協力する気になったのはなぜだい。」
まるで責める様子もなく、エミリオは穏やかな声で問うた。ギルがその勝負に乗った時点で、そういうことになる。
ギルは答えた。
「ここダルアバス王国は、レトラビア王国とともに、平和志向へ動き出したラタトリア地方の先駆者だ。だから、下手に目立つことをして近隣国に誤解・・・つまり、勢力を拡大する政略結婚だととられるのを避けたいそうだ。」
この時、レッドはふと考えていた。
レトラビア王国といえば、思い出されるのはユリアーナ王女のこと。人質にとられていた彼女が帰国する際にも護衛は少数
「実際、まさに今、王女を殺害しようとしている者たちも、機会があれば説得するつもりでいるらしい。それまでの身代わりだ。もし正体がバレて相手が話に応じなくとも、人違いだと分かれば
「そうくると思ったさ。」
リューイは、もはや割り切ったような声で言った。
「悪いな。都内ですでに暗殺の動きがみられる以上、極秘に出発するために
「二班に分かれる選別は、もうできているのかい。」
エミリオがきいた。
「いや、これからだ。とりあえず、俺はシャナイアに付くよ。彼女側の方が危険になるからな。」
「僕はどっちにするつもり?」と、カイル。
「王女側だな。
子供
がいる方が、敵を「そこ普通に言うの、やめてっ。」
「だが王女を歩かせるわけだろう?付いて来られるのか。」
不安そうにレッドが言った。
「ファライア王女の趣味は乗馬だ。少しは
そう答えて、ギルはエミリオの方を向いた。
「それから、エミリオ・・・。」
「なんだい?」
最後にまた苦い顔をしたギルは、ため息混じりにこう報告する。
「お前の正体も、すぐにバレちまった・・・。」
※ 関連章 ―― 外伝 『 レトラビアの傭兵 』