11. ファライア王女

文字数 1,399文字

「はい、お兄様。」

 すぐに若い女性の声が返ってきた。そしてカーテンのひだの合わせ目から、その女性は上品な物腰(ものごし)()き出し窓を通り、姿を見せた。背は高い方で、亜麻色(あまいろ)の髪に、ディオマルクと似た感じのする(りん)とした大きな瞳。だが色白で、兄妹とは思えないような、ディオマルクとは対照的な美女だ。

 彼女はギルの前まで進み出ると、王家のやり方に(のっと)った仕草で挨拶を行った。

「ご無沙汰いたしておりました、アルバドル帝国皇太子殿下。我らのダルアバス王国へ、ようこそ。」

 ギルは、彼女を見つめて息を呑んだ。洗練された物腰に見られる気品からは、美女ぞろいの侍女たちとはまた別格のオーラを感じる。

「ファライア王女・・・いや、ますますお美しくなられた。」

「先ほどの(うたげ)は余が勝手にそなたらをもてなしたもので、妹は出席してはおらなんだからな。そなたは、父上や母上とも会わぬ方がよいだろう。面倒なことになるやもしれぬ。余の方から上手く言っておこう。」

 もはや呆れている様子のディオマルクに、ギルは苦笑しながらうなずいた。

 二人はそれから、従者などがそばにいる時は、互いに言葉づかいにも気をつけるよう注意し合うことに決めた。特に、呼び方については。

 その打ち合わせが済むと、ギルはファライア王女に改めて目を向け直し、それからディオマルクの目をのぞき込んだ。

「なるほど、ディオマルク。そなたの魂胆が読めてきたぞ。」

 ギルは、彼女にある女性の姿を重ね合わせずにはいられなかった。

 それは、シャナイアである。

 背丈や肌や髪の色はほぼ同等。体つきは、女戦士でもあるシャナイアの方がさすがに引き締まりメリハリもはっきりしてはいるが、目元や全体の雰囲気はよく似ている。

「では、具体的に話そう。実は・・・。」

 そうしてディオマルクは、ギルの機嫌を損ねないよう慎重になり、努めて下手から訳を説明し始めた。





 あれから、およそ二時間が経過した。

 ギルが呼ばれたあとのこと。ほかの者たちは召使いに案内されて、秋に咲く花々で(いろど)られる庭園をひと回りしてきた。王宮自慢の庭園が、夜にもひと味違う美しさを見せるからと。そこは、優美な女神の彫像(ちょうぞう)や、土地の高低差を利用して流れ出す噴水がある観賞用の大庭園である。その広大な庭園の中には、柱と階段、そして屋根や手摺(てす)りだけで造られた壁のない建物もあった。確かな管理体制のもと、空中庭園と呼ばれるその至るところに植物が植えつけられてあるため、各階から繁殖(はんしょく)した緑が外にまであふれ出している。

 そんな珍しい植物園の最上階には、白大理石の床と円柱、そして蔦模様(つたもよう)の青い丸屋根でできた開放的な茶室があった。周囲に咲き乱れているのは、薔薇(バラ)やダリア、マリーゴールドなどの目にも鮮やかな花々である。次から次へと興味をひかれるモノを用意し、これでもかというもてなしを淡々と続けてくれる召使いたち。そうして(うなが)されるまま、一行(いっこう)が茶室の席に腰を下ろせば、今度は高級な焼き菓子と香り高いローズティーが振舞われた。ランプの灯りで幻想的に輝く花園(はなぞの)を見下ろしながら過ごす、これまた優雅なひととき・・・。

 芳醇(ほうじゅん)な紅茶をひと口味わったレッドは、カップを置いたあと、つい腕を組みながらため息をついていた。そんな様子に気づかれてか視線を感じて見てみれば、エミリオとさりげなく目が合った。そして、やはり・・・と思う。エミリオも何か言いたそうに、怪訝(けげん)そうな顔をしている。




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