32. 煉瓦小屋の一夜 ― 1

文字数 1,236文字


 彼女が美しいと分かってはいた。だが、今始めてこんなふうに遠慮なく眺めることができて、普段知っている、仲間と共にいる時の勝気で活発な彼女とはまるで違う、その(はかな)げな色っぽさに気付いた。

 それが、ギルにはたまらなく(まばゆ)かった。

 ギルはシャナイアの(ほお)に手を添えて、もし美の女神アーナス(アーナスクインの通称)が形をとって目の前に現れるとしたら、まさにこんな顔をしているのだろうとうっとりと見つめ、ため息を漏らした。

 その表情や目だけで(うなが)されたシャナイアも、理解して静かに目を閉じた。

 それを見る限りでは、緊張している様子は全く感じられない。こんなに素敵な女性だ、何度か経験はあるだろう。相手との相性はどうだったのか・・・気になる。不快で残念な思いはさせたくない。

 シャナイアを待たせて、ギルは声にせずそう(つぶや)いた。それを考えられるほどには、ギルも経験は豊富な方だ。やってきたことだけをとれば、立派に色男と言える。 

 だが彼女は特別だ。ギルはその今までにない、感情を込めた接吻(くちづけ)から始めた。庭園では強引に、力ずくで奪った唇。謝罪の気持ちも込めて、今ここでやり直したい。そんな思いで彼女の反応をみながら、今度はその感触や温もりを存分に味わった。指先は、長いその接吻(くちづけ)のあいだに、ゆっくりと彼女の纏っているものを解いている。このシチュエーションで、無性に撫でまわしたくなる体をいきなり目の前に持ってこられたら危なかったが、幸い(すで)に拝見済みなので心の準備をしておくことができた。

 顔を上げたギルは、改めて彼女の抜群の肢体をじっと眺めた。豊満だがさすがに引き締まっていて、だがそれでいて触れてみた肌は滑らかで柔らかかった。それに、か弱くくびれた腰などは、いきなり抱きすくめたら折れてしまいそうに細い。一流の戦士でありながらこの女らしさは、しばらく戦場を離れていたせいだろうか。一緒に旅を始めてからもだいぶ経つ。

 ギルがそうして見惚(みと)れていると、シャナイアがはにかんだ(ほほ)笑みを浮かべて身じろいだので、まずは軽く抱き締めた。

「嫌な時は無理しないで・・・。」

 と囁いて、小さく首を振り全て(ゆだ)ねてくれる、そのたまらなく愛しい体をゆっくりと(たかぶ)らせていく。調子づいてくると耳を甘く噛んだり、鼻先でくすぐりながら首筋に唇を這わせたり。そうしながら、すべすべの柔肌をまさぐった。嫌がられることはない。それどころか彼女は気持ちよさそうに切ない息を吐き出して、時折ねだるような顔を向けてくる。

 ただ・・・いつもはさりげなくできる愛撫(あいぶ)も、自分では妙にぎこちなく感じていた。なにしろ、彼女は新鮮だ。これまで出会ったことのない魅力にあふれている。そんな彼女の方から何かしかけてこられたら・・・。
 ただでさえ、全裸で重なり合っている素肌は、眩暈(めまい)がするほど心地いい。
 そのうえ首を抱き寄せられ、お返しのキスをもらい、そのあいだにも指先で弱いところをなぞられると、とうとう意識は盲目的となり、コントロールが効かなくなってしまった。


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