第31話
文字数 2,818文字
それに合わせるかのようにまた車が数台やって来て、現れたのはアルフォードの昔からの仲間達で、その中にはウォスル、フェアル、ルーダの姿もあった。
大広間がまるで大貴族のパーティー会場に変貌した。
車に積まれていたのは食べ物とアンドロイド用の飲み物で、全員で準備をする間も、ヴィントだけが数人に囲まれて監視されていた。
皆がそれぞれ挨拶をしたりして盛り上がっている中、少し離れた場所で談笑している皆を眺める。
話したくない訳ではなくて、こうして眺めているだけで充分楽しい。
人と違ってアンドロイドや義体にはアルコールを分解する機能が付いている。
なので酔う事は無い。
筈なのだが…。
「お前等ー!もっと飲めー!」
クオーレが酔っている。
昔からこうだ。
あの男のアルコール分解機能は壊れているのではないだろうか。
そう思って専門に診て貰ったところ、処理しきれない程の量を摂取している事による回路の異常だと言われた。
どうやらクオーレの躰の処理機能、アルコールに関してはそれ程優れてはおらず、他のアンドロイドに比べて、あまりアルコールを採らない方が良いタイプだったらしい。
なのであまり飲み過ぎるなと注意されているのだが、それでも酒が好きな男だから、宴会などのこういう場で酔っ払う。
「おらー!飲め飲めー!」
「おい!勝手に注ぐな!」
「うおっ!寄り掛かって来るな!」
「抱き付いて来るな!」
クオーレに絡まれて騒ぐ者達を見て周りが笑う。
「こんなに美味い物が有るんだ!飲まなきゃ損だろー!」
「お前は飲み過ぎなんだよ!」
絡まれている内の一人、ヴィントがアルフォードを見る。
どうにかしてくれと救いを求めているのだ。
[その内大人しくなるから堪えろ]
にやけてしまいながら通信で告げる。
「クオーレ。あっちに全く飲んでない奴がいるぞ」
言ったのはヴィントだった。
どうやらアルフォードを巻き込むつもりらしい。
クオーレがアルフォードを見て「なんだとぉ?」と言う。
すっかり目が座っている。
「俺になするな!」
「頼むよリーダー!」
近くにいた者が言う。
その後に他の者達まで「リーダーに任せるのが一番だ」と言い出す。
「こういう時だけリーダーって呼ぶんじゃねぇ!」
「アールー」
「こっち来んな酔っ払い!」
ふらつきながらも寄って来るクオーレから逃げようとするも、横から伸びて来た手に引き留められた。
見ると、相手はナイトだった。
顔は笑みを浮かべているが、どことなくぎこちない。
「お願い。皆の為にも」
「おい。それって〝犠牲になれ〟って事だよな?」
アルフォードの問いにナイトが視線を逸らし「そんなつもり無いよ」と否定する。
「目を逸らしてる時点で肯定し「アルー!」
言葉を遮ってクオーレが抱き付いて来た。
「テメェはいっつも飲み過ぎなんだよ!」
酔っ払いには何を言っても無駄なのは人もアンドロイドも同じだ。
こっちの言葉など一切聞かない。
「皆お前の事が大好きだー!」
「さっさと寝ろ!」
言い返してアルフォードが振り払うも直ぐに戻って来る。
「ベッドまで歩けな~い♪」
「歩けな~い♪じゃねぇ!絡んで来れるなら歩けるだろ!自分で部屋まで行け!」
周りは楽しそうに笑っているが、絡まれている方は鬱陶しくて仕方ない。
「寝ろ!」
言ってクオーレの顔面を掴み、ハッキングしてスリープモードを起動する。
本当はまだ本調子ではないのでやりたくはなかったが仕方がない。
眩暈に似た症状が現れ、倒れかけたクオーレに押されて転びそうになったが、何とか踏み止まって、クオーレだけを床に転がす。
「さて…お前等」
そう言ってアルフォードが見渡すと、笑っていた者達の表情が固まった。
「誰に運んで貰おうかなぁ」
地獄はこれからだ。
以前、酔ったクオーレを部屋まで送った者が、翌朝まで抱き枕にされたという話を聞いた。しかも、一度や二度の事ではない。
それを此処にいる者達、ナイト達以外は全員知っている。
「女の子にお願いは出来ないから…」
1人1人に目をやるが、誰も目を合わせようとしない。
「お前」
アルフォードに指された男が「俺?!」と叫ぶ。
「さっきコイツと飲み比べして酒を勧めてたよな?」
問い掛けに男が目を泳がせながら「見てたかぁ」とぼやく。
「責任持って部屋に連れて行け」
「……へぇ~い」
アルフォードに言われた男が渋々歩き出し、周りの仲間が「ご愁傷様」や「頑張れ」と笑いながら声を掛ける。
「裸にして寝かせといてみたらどうだ?」
「絶対に嫌だ!」
男がそんなやり取りをした後、クオーレの腕を自分の肩に回し、立ち上がらせて歩き出し、大広間を出て行った。
明日の朝まで地獄になるが自業自得だ。
「大丈夫かな?」
隣にやって来たリアナが苦笑して言う。
「さぁな」
「アルが酔ったとこ見てみたいな~」
「残念だったな。生身じゃないから酔わない」
アルフォードが言い返すとリアナは「むぅ~」と不貞腐れた。
こういう顔を見ても可愛いと思ってしまう。
「酔ってなくても添い寝してやるよ」
そうアルフォードが言うと、リアナは一瞬で嬉しそうな顔をした。
「おーい。目の前でイチャつかないでくれませんか?」
仲間の一人がからかって来るも、アルフォードはそんなの慣れてしまっているので「悪いな。日頃一緒に居られる時間が短いからつい」と言い返した。
アルフォードとは違いリアナはからかわれる事にまだ慣れないらしく、少し顔を赤らめて俯き、アルフォードの後ろに隠れる。
「恋人がいて羨ましいな~」
「お前の場合は性格がな~」
「何だよそれ!」
再び皆が騒ぎ始める。
こうして見ていると、本当に普通の人と変わらない。
人間が〝ただの機械だ〟と言っても、この目には生きている存在にしか見えない。
同じ思考の者がいない。
プログラムで話している者はいない。
個として存在し、考え、此処で…この世界で生きている。
だからこそ、意思を否定し、殺そうとする者がいるなら戦う。
例え人間に作られた存在だとしても、皆…自由に生きる権利がある。
―お前も同じ機械だからだろ!
嘗て言われた言葉の数々を忘れた事は無い。
メモリーがそれを保存してしまっているからというのも有るが、消そうと思えば消せる。
ノエルに呼ばれ歩き出したナイトの背を横目で追う。
出逢った時から感じていた。
ナイトは他の者達と違う。
アンドロイドという部分は同じだが、そうではなく、内面的な事だ。
負傷し、動けなくなっていても、此方を睨む目には気力が残っていた。
そして今、知り合って間もない者達とも笑って話しをしている。
本人は無自覚だろう。
何故か色々と話したくなってしまうタイプだという事に。
そっとリアナが腕に手を回し、見ると微笑んで頷いた。
アルフォードが何を考えているのかまるで解っているかのようだ。
その笑みにアルフォードはただ頷き返し、回線を繋げた。
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