第27話
文字数 1,718文字
「やっぱり人数は多い方が楽しいじゃない」
「そうだよな!」
中に入るなり楽し気な声が聞こえた。
「あいつは…」
呆れたようにアルフォードが溜息を吐く。
入って直ぐ左のドアを開けて中へ入ると、そこは広間だった。
中央に大きなテーブルが有り、椅子が並べられ、テーブルの上には花瓶。
大きな窓から光が入って来ていて明るい。
天井には草花と鳥の絵が描かれ、柱の部分は蔦が彫られている。
子供達に囲まれていた人物がナイト達の方を向いた。
『わぁ』
思わず声に出してしまいそうになって堪える。
白銀の長い髪がとても綺麗で、瞳も、中心が黄色く、外側が緑色という不思議な色合いをしている。
振り向いた女性が笑みを浮かべて歩いて来た。
「初めまして。私はリアナ。リアナ・アストルです」
リアナとはアルフォードの話に出て来た、AIの女性の名だ。
「貴女が…AIの」
ノエルの呟きにノエルが笑みを浮かべたまま「はい」と頷き返す。
「アルからお二人の事は聞いていました。いつかお会いしたいと思っていて、こうしてお会い出来て嬉しいです」
そう言って女性が手を差し出す。
「初めまして。ナイトです」
言ってナイトが握手をした後、ノエルも握手をして「ノエルです」と名乗った。
手をそっと離すと、リアナはアルフォードの前へと移動した。
「子供達と昼食の準備して来るね」
「解った」
「皆ー!キッチンに行くよー!クオーレも手伝ってね?」
リアナの掛け声に子供達が元気に「はーい!」と返事をし、クオーレは渋々といった感じでリアナ達に付いて行く。
「クオーレ。包丁までは良い。けど、その他の調理器具には…」
「解ってるよ!」
何か言おうとしたアルフォードに怒鳴り返してクオーレは皆と広間を出て行った。
静かになった部屋で、口を開いたのはアルフォードだった。
「取り敢えず座るか」
「うん」
返事をして近くの椅子に座る。
アルフォードが置いてあった未使用のティーカップに紅茶を注いで二人の前に置く。
コップの数も半端ではない。
「あのさ…。さっき、リアナ・アストルって…」
一口飲んでからナイトが切り出すと、正面に座ったアルフォードが「あぁ」と呟き、少し間を空けてから「実は今日…メディスの命日なんだ」と言った。
「…それが…何か関係しているの?」
ナイトの問い掛けにアルフォードは何も言わず、ただ手にしたカップを見詰める。
話題を変えるべきだろうかと悩んでいると、アルフォードが時計の方を見た。
「昼食までまだ時間が有るし…行くか」
言ってアルフォードが立ち上がる。
ナイトとノエルは何も訊かずに腰を上げ、歩き出したアルフォードの後に続いた。
裏口を出ると、そこは墓地だった。
丘の斜面に幾つも墓が立っている。
「全く気付かなかった」
「通りからは見えないようにしてるからな」
ナイトの呟きに答えてアルフォードが歩き出し、少し下った墓地の中心で立ち止まった。
そこには十字架が二つ。
此処が墓だという印だ。
不思議な事に、左の墓には花が添えられているのに、右の墓には何も供えられていない。
左の十字架をよく見ると名前が刻まれていた。
〝レオン・アストル〟
「メディスの本名だ」
ナイトが問う前にアルフォードが言った。
「此処でも偽名を使って暮らしていたけど、死んだ後くらい本名でも良いだろ」
言ってアルフォードがポケットから煙草を取り出す。
彼が煙草を吸うのを久し振りに見た。
ふと隣の墓を見ると、そこには〝レン・アストル〟とあった。
「レンって…。アルの本名じゃ…」
「そうだな」
白煙を吐き出してアルフォードが答える。
「アストルというのは、この方から貰ったんですか?」
ノエルがそっと十字架に触れて問う。
「いや…」
「もしかして勝手に?まぁ…仲が良かったなら「本名だ」
ナイトの言葉をアルフォードは遮った。
『本名?』
今アルフォードは間違いなく〝本名〟と言った。
「それって、養子に入ったから?」
ナイトの問いに、アルフォードは小さく溜息を吐いて墓の方を一瞥した。
「メディス…。レオン・アストルは血の繋がった実の父親だ」
・