第28話
文字数 1,769文字
機械だから実際には停止していないが気持ちの問題だ。
全く追い付けない。
「……はぁああ?!」
驚きのあまりナイトは叫んでしまった。
隣でノエルも目を丸くし、開いた口が閉じなくなっている。
「最初メディスも気付いていなかった。だから部下に俺を誘拐させた。けど、最初の血液検査で自分の息子だって気付いた。それでも、俺があの男の息子として生きて来たと思っていたから、憎い男の息子だからと、俺も憎もうとしていたんだ。けど、話をする内に迷いが生じて、いつしか特別な感情を抱いていた」
その特別な感情というのは子供に対する〝愛情〟だろう。
そうでなければ一緒に脱走する事など考えない。
「俺がそれを知ったのはメディスが死んでからだ。此処は人間とアンドロイドの戦争にはならなかったけれど、滅多に会いに来る事は難しかった。そろそろ峠という時にはバレないように数日いたよ」
アルフォードは懐かし気に、少し寂しそうな眼差しで十字架を見詰めて続ける。
「遺品の整理をしている時に日記を見付けた。手が動かせるまで書き続けていた日記。結構な数有ったな。よくあんなに書く事が有ったなってビックリするくらい」
苦笑しながら言ってアルフォードが屈み、そっと地面に触れる。
そこに眠る彼に触れるかのように…。
「疲れたから寝るって言ったメディスに、俺は初めて〝父さん〟って言ったんだ。そしたら、凄く嬉しそうな笑顔で…。そのまま、永遠に眠った」
言ってアルフォードが立ち上がる。
その背中はとても真っ直ぐで、哀しさや寂しさなど全く感じない。
「この場所が戦場にならなくて良かった。もしそうなってたら、もしかしたら俺は間違った方に進んでたかもしれない」
「間違った方?」
ナイトの問いに、アルフォードが振り向く。
「人間とアンドロイド。どちらも敵として見る…間違った方」
それが何を意味するのかナイトには解らなかった。
隣のノエルも同じだった。
人間とアンドロイドを相手にしているのは今も同じだ。
それなのに何が違っていたというのか。
「俺は今、自分で思う中立な立場として行動してる。けど、それはずっと前に抱いた想いを忘れないでいられているからだ。そして、それを忘れないでいられるのは、仲間達と…メディスの遺してくれた想い出だ。もし奪われていたら、怒りに任せて、中立とか無く殺すだけになっていたと思う。だから…」
言って再びアルフォードが墓を見る。
「…俺はまだそっちには行けないらしい」
そう呟きが聞こえたけれど、聞こえなかったフリをした。
こういう時はそっとしておいた方が良いのかもしれない。
たまにはこういう時間が有っても良いだろう。
今、こうしている間にも何処かで事件は起きている。
自分達がいつ呼ばれるのか解らない。だから、招集が掛かるまではゆっくりしていても罰は当たらない。
三人が何も言わず立ち尽くしていると「アルー!」と声がした。
声のした丘の上へ目を向けると、リアナが両手を振っていた。
「またお客さんだよー!」
「誰だ?」
アルフォードが叫んで訊き返すと、リアナの隣に幾つか人影が立った。
その人物達を見てナイトとノエルは驚き、アルフォードだけが面倒臭そうな溜息を吐いた。
「お前等だけお呼ばれとかズルいだろー!」
カイルが手を振って言う。
「料理を教えて頂けると聞いて来ちゃいましたー!」
カイルの横に立ったミクが笑いながら言う。
「今日くらいしか集まれないだろうから連れて来たぞー!」
「俺達は暇では無いんだ!」
カイルの言葉に、少し離れた場所のグレンが言い返して三人を見る。
「一体何があったのか聞かせて貰うからな!」
グレンの怒声にナイトとノエルは「了解!」と条件反射で応えた。
そんな二人にアルフォードが耳打ちをした。
「今回、蚊帳の外みたいになってたから拗ねてるだけだ。気にするな」
「お前もだぞ!」
何を言ったかは絶対に聞こえていないだろうが、タイミングが良すぎる。
怒っているグレンにアルフォードは「はいはーい」と適当に返し、息を吐いて二人を見た。
「中に戻るか」
苦笑して言うアルフォードにナイトは「そうだね」と返してノエルを見た。
「行こう」
ナイトの言葉にノエルが「うん」と頷き返し、三人は少し早歩きで丘を上り、騒がしいくらいのメンバーと共に中へ入った。
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