文字数 982文字

 白い。
 一切のくすみもなく、まさに純白そのものと形容できる色合いをしている。
 それが自分の眼前に広がっており、どこを見渡しても白一色の様相を呈していた。

 この光景を見るのはいったい何度目だろうか。あまりの多さにもう数えきれていない。特に、ここ最近は毎日のように見ているから尚更である。しかし現実世界へ戻れば、ほとんどのことを憶えていないのだから、それはそれは不思議でたまらない。

 ふと気が付くと、自分はこの真っ白な空間をただただ走り続けていた。猛獣から逃れるかの如く、一心不乱に。
 どうしてそこまでして走るのか。それは自分に害を及ぼすであろう得体の知れない嫌な何かが、こちらに向かってきているように感じられるからだ。実体はなにも見えないが、感覚だけでも『とてつもない脅威』と認識できるほどのものだった。

 そんな状態が、ここしばらくの間続いている。幸いにも、そのなにかに追いつかれるよりも先に目を覚ますため、いまだ大事には至っていなかった。しかし、日に日に距離が縮まっていることを強く感じるため、それと『対峙』しなければならなくなるのは時間の問題のように思えていた。
 それでも自分は、必死の抵抗とばかりに走り続ける。
 ちなみに息苦しさや痛みなどの体への負担は全くなかった。どういうわけか、様々な感覚がまともに機能していないのである。幸か不幸か、といったところだろうか。

 まもなくして、奴は俺を捕らえられる範囲にまで距離を詰めてくる。

 早く元の世界へと戻ってくれ。

 焦燥感からそんなことを強く願う。だが、なぜか今日は何も変化が起こってくれない。

 いったいどうして。もう、どうにもならないということなのだろうか。

 嫌だ嫌だ嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。

 そう心の中で嘆くものの、現実は無常だった。

 俺の背中に、人差し指で軽く触れられるような感覚が走る。その直後、走り続けたことによる息苦しさや全身の痛みが、一気に襲い掛かってくる。それだけでなく、過去の記憶が走馬燈のように脳を巡り、心臓が、肺が、身体が何かに強く締め付けられる。さらには、また雷に打たれたかのようなとてつもなく強い電撃が全身を走り、堪えがたいほどの激しい痛みにも見舞われた。
 それに思わず俺は叫ぶ。

「あああああああああああああああっっっっっ!!!」
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