星降る夜の雑な奇跡 紅哉朱
「ぎぎぎぎぎぎ、ぎぎぎぎぎぎ」
あの子にもう一度会いたいと願った。というわけで奇跡が起こった。
荼毘に付されたはずのあの子はもう一度生を受けた。焼けた骨が修復され半端に肉をつけた身体でぺたぺたと歩いている。
「ぎぎぎぎぎぎ。ぎぎぎぎぎぎ」
雑だ。雑にもほどがあるぞ、そう叫びたかった。
奇跡は確かに起きた、なるほど今あの子の前に躍り出れば僕の望みは叶うだろう。
「ぎぎぎぎぎぎ、ぎぎぎぎぎぎ」
墓石にへばりついた苔食べてるよあの子。望みは叶うけど食われるフラグだよ。
がちがちと震えながら、助けを求めようと一一〇番をダイヤルする。警察なら銃も持っているし守ってくれるだろうと思った。
なぜか電話が繋がらない。おいおいなんのための国家権力だよ、ふざけるなよ。
「ぎぎぎぎぎぎ、ぎぎぎぎぎぎ」
ぷるるるるる、ぷるるるるる。いつまで経っても繋がらない。舌打ちを堪えて電話を切った。
通話画面を閉じてそのニュースを見た時、僕は何が起きているのか理解した。
だから、僕はその場で立ち上がって、あの子の名前を呼んだんだ。
「ぎぎぎぎぎぎ、ぎぎぎぎぎぎ」
電話回線もインフラも全てが機能しなくなっていた。
丘の上の共同墓地から見える街の明かりは、ひとつひとつ消え始めていた。
どうやら奇跡は本当に雑らしい。世界中で死人が蘇っているのだから。
共同墓地のゆるんだ地面からどんどんと白い手が生えてきていた。
星が綺麗だなあ。
「わたしとどっちが綺麗?」
「きみに決まってるだろ」
「そっかあ」
半端に腐乱した肉がへばりついた彼女はどの屍体より可愛かった。
ああ。墜ちてくる星が、綺麗だ。