「永遠の主従」ロッキン神経痛

文字数 836文字

永遠の主従

ロッキン神経痛


「また来たよ」

 僕は彼女の亡骸に話しかける。

「今日は谷の向こうまで行ってきた。街が丸ごと水没してたよ」

 森の奥。

 屋根も崩れた瓦礫の城の中。

 玉座に座る彼女の瞳に、僕の頭上の青空が映っている。

 口元に笑みを浮かべたまま死んでいる彼女は、いつも以上に美しい。

 僕はそのあまりの美しさに、今日も彼女が生き返ることを期待してしまい、そのあり得ない期待に自ら落ち込む。

「空を見ているんだね」

 彼女の視線の先に視線を合わせる。

「今日は夏至だから、こんな時間でも太陽が出ているんだ」

 返事は当然ない。

 今度は期待もない。

 僕は何の収穫も無かった代わり、摘んだ花で作った髪飾りを彼女の頭に乗せた。名前も知らない黄色い花。派手な色が好きな彼女は、気に入らないかもしれない。

「また明日も来るよ」

 僕はいつものように彼女の手にくちづけをした。

 明日も、明後日も、こうして僕は彼女の姿を見るためだけにここを訪れるだろう。彼女の居なくなった冬から、僕にとってはそれだけが生きる意味になったのだから。

『真っ赤な薔薇の花が良いわ』

 唐突な声。

 その声に僕は、くちづけをした手を握りしめたまま震えるように顔を見上げた。

 そこには昔のように、気高くて派手好みで、そして美しい彼女の姿があった。

『それも埋もれるくらい沢山よ』

「分かった、必ず用意する。世界中を駆け回ってでも必ず!」

 彼女は、いじわるそうな微笑みを僕に向けたように思う。

 短いビープ音が三回鳴り、美しい彼女は瞼を閉じた。

 間接のモーターが力を失い、椅子で居眠りをするみたいな格好で彼女は眠る。

 きっと太陽の光が彼女の予備電源に仮初めの命を与えたのだろう。

「愛してる、心の底から」

 彼女の輪郭が夜の闇に消えるまで僕は――



 森の奥。

 屋根も崩れた瓦礫の城の中。

 真っ赤な薔薇のベッドで眠る美しい女と、その手を握ったまま動かない錆び付いた機械の姿があった。

 森は静けさという檻の中に彼らを迎え入れ、彼らの物語は永遠となった。


2018/06/21 11:41

rockinsink2

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