「無影の日 」不死身バンシィ

文字数 802文字

無影の日

不死身バンシィ


窓から外を覗くと太陽が見えた。

距離が近いせいか、その眩い白光は普段よりずっと強く輝いて見える。

離陸してしばらく経ち、機体の制動は安定したようだが反面、機内の人達は皆不安げで落ち着きを無くしている。

落ち着いているのは僕とその隣に座る彼女くらいのもので、彼女はあろうことか寝息を立てている。

凄い。

あまりにも安らかな寝顔なものだからひょっとしたら死んでいるのではと思ったけども、いわゆる恋人繋ぎで繋がれた彼女の左手から感じる熱と脈動で、彼女の存在を実感する。


左手の腕時計を見ると6月22日、午前3時52分。

バニシング・ポイントまで約30分。世紀の瞬間まであと僅かだ。

その時までは寝かせておいてあげようかと思ったけど、彼女はすこぶる寝起きが悪い。朝はいつも大変だった。

代わり映えのない、けれど楽しかった日々。

あと少しで、もうそこに戻ることはできなくなる。

その瞬間を一人で過ごすのは寂しいので、そろそろ彼女を起こすとしよう。


「もしもーし」

「……ん」


彼女の肩をつつくと、珍しい事に一発で起きた。

「もう着いた?」

「いや速すぎるでしょ。そっちじゃなくて」

「……わぁ、あんなに大きく見えるんだ。確か、予定よりかなり早かったんだよね?」

「うん、かなり急な話だったらしいよ」

「そんなに急がなくてもいいのにね。もったいない」


もったいないと来たか。まあ確かに、なんせ数十億年分をすっ飛ばしたんだから。


「私達、向こうでもちゃんとやっていけるのかな」

「大丈夫だよ、きっと」


二人で窓の外を見る。全てが失われる瞬間を。

太陽の異常変動による公転崩壊。

狂った太陽が自分の子供達を飲み込んでいく。


西暦15062年、6月22日午前4時22分。

何の奇跡か、それは夏至の終わりと同時だった。

地球史上、最も日の出が長くなった日。

地球が太陽に飲まれるその瞬間に、僕達は唇を重ねる。

これから先の未来に、少しでも希望がありますようにと。

2018/06/21 19:51

fujimi_bancy

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