『真夏のゴッドフェス』『為ニキ』
とある夏の日、ぼくの前に神様が現れた。
「あなたは勇者に選ばれました」
「マジで? じゃあ最強スキルを」
「中世ファンタジー的な冒険ではなく、夏祭りの人手が足りないので。みこし担いだり太鼓叩いたりするボランティアです」
「神様がみこし……? ていうかめっちゃ地域色強いな」
「なので半裸のふんどしルックになってください」
「ちょっ……」
次の瞬間、ぼくは天界にいた。
わけもわからず立ち尽くす中、ゼウスっぽいおっさんとオーディンっぽいおっさんがやってきて、
「お前さんが今年の勇者か」
「若いのに行事に参加するたあ、感心感心。ほい、これグングニル」
「え、いきなり伝説の武器」
「はよイージスの太鼓叩いてこいや。祭りをはじめる合図だかんの」
「でもぼく、伝説の武器なんて使ったことないよ!?」
しかしあれよあれよという間にジャガーノートみこしに乗せられてしまう。
そして目の前には、金糸で『威偉慈須』と刺繍された太鼓。
(――力が欲しいか。ならば太鼓を叩け)
「うっ! 頭に直接、声が……!」
(さあ、身も心もお祭り気分になるのだ)
「か、身体が勝手に……うおおおおっ!!」
太鼓のビートに合わせて、浴衣姿の天使と悪魔がジャガーノートを担いで天界を練り歩く。
エルフとドワーフが笑いながらコキュートス水をぶっかけ、数多の神々とともにみこしの列に加わっていく。
(――この役目を終えたとき、神々はお前に褒美を授けるだろう)
「なんだって!? じゃあ張り切っていくか!!」
天界にかけ声がこだまする中、ぼくは必死に太鼓を叩く。
我は選ばれし勇者なり。踊れ踊れ、神よ悪魔よ。
ワッショイ!(ハッ!) ワッショイ!(ハッ!)
ワッショイ!(ハッ!) ワッショイ!(ハッ!)
そして現実に戻ったとき、ぼくは焼きそばとビールを手にしていた……。