「走れ」じゃき

文字数 800文字

「もう別れよっか」

電話越しに言ったのは俺の彼女。

仕事帰りに掛かってきた電話に出るなり、そう告げられてしまった。

「……なんで?」

「だって、あたしのこと好きじゃないでしょ?」

断言する彼女に、俺はため息を吐く。

またか、と思った。

前の彼女にも同じようなことを言われ振られた。

どうにも、俺はそういう誤解をされやすい性質らしい。

「ため息を吐くぐらいなら、言いたいこと言ってよ」

「そう言われても……」

「もういい。じゃあ、バイバイ」

ブチっと電話を切られて、また俺はため息を吐く。

「まあ、仕方ないか……」

呟き電話をしまった時だった。

「まてまてまてぇっ!」

突然、後ろから大声が聞こえ、俺は振り返る。

振り返って、口から心臓が飛び出るほど驚いた。

「変態だぁっ!」

そこにいたのは、全裸のハゲ散らかしたデブ親父。

デブ親父は走ってくると、息を切らし肩を掴んでくる。

「触るな変態!」

「黙れ、俺は変態じゃない! 俺は未来から来たおまえだ!」

「ええっ!?」

「俺の顔をよく見ろ! そっくりだろ!」

言われてみればたしかに……。

「時間が無いから簡潔に言うぞ。おまえは今すぐ彼女の家に行き謝れ。でないと、とんでもないことになる」

「……とんでもないことって?」

「いいか? おまえにとって今の彼女が最後のチャンスだ。ここから先は、まったく女運が無い」

「……まじで?」

「そして、見ての通りハゲる。こうなったら最後、どう足掻いても独り身だ」

「……うっ」

「だから、今すぐに彼女とよりを戻せ」

「でも、仕事帰りだし疲れているし……」

ためらう俺に、もう一人の俺は顔を真っ赤にして怒った。

「バカヤロウ! 言ってる場合か!」

「……でも」

「でも、じゃねえ! 今日は夏至だ! 空はまだ明るい! 世界は、まだおまえを待っている! だから――」

走れ!

もう一人の俺は、その言葉を最後に消えた。

時計を見ると時刻は夜の七時半だ。

でも、空はまだ薄っすらと明るい。

だから、俺は――。

2018/06/21 00:23

usagi3dayo

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