夏至まつり800
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『人生で最高の』 シズム
早朝の蒸し暑い中、コンビニの前で額に脂汗をかきながらひたすら友人を待っていた。友人は、約束していた三十分後に悪びれた様子もなく笑顔で現れた。「ごめ~ん、待った?」「蒸し暑い中、三十分ほど」「めんごめんご! よっしゃ早速行こうぜ!」「はぁ……マイペースもほどほどにな……」 幾度となく繰り返されてきた、似たようなやり取りを思い出しながら、俺は乗って来ていたマウンテンバイクに跨り、先走ってすでに出発してしまった友人の後を急いで追いかけた。先ほどまで肌にへばり付いていた汗は風で後方へと流されていき、吹き抜ける生暖かい風とビルの隙間から漏れ出た朝日だけを全身に感じた。 やがて、スタミナが早くも尽きた友人に追いつき、逆に少しずつ距離を離していった。元来、負けず嫌いな友人はムキになった様子で俺の後を追いかけてくる。ただ、その顔はずっと笑っていた。きっと俺も、同じような顔で笑っている。幼稚に競い合いながら、俺たちは味気ない路上を進み、潮風の強い沿岸を進み、そして虫の鳴き声が絶えない、緑の生い茂った山へと進んだ。 ――一体、どこまで来たのだろうか。 夏至で日が長いからと油断していたら、いつの間にか辺りはすっかり暗くなっており、それと対になるように頭上の空には満点の星空が広がっていた。俺たちはまるで未知の世界にでも来たかのような感覚に陥り、大人とは思えないほど飛び跳ねて無邪気に喜んだ。 喜び疲れて丘に寝転び、ただずっと空を眺めていた。時間の流れを忘れながら自分の世界に入っていると、突然隣で同じように寝ていた友人が立ち上がった。「ははっ、本当、今日は最高の夜だな」 そう言った友人の目には、夜空を次々と駆け抜けていく数多の流れ星が映っていた。その光景は俺にとって幻想的かつ非現実的なもので、きっと人生でこれっきりな光景だった。「あぁ、確かに最高な夜だな。きっと人生で一番だ」 流れゆく星々にそれぞれの願いを込め、また一つ色褪せない記憶が心に刻まれた。
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