「サザンクロス・エフェクト」木船田ヒロマル
「……いた」
浴衣姿の同級生、重永ナツミは待ち合わせ場所に僕を見つけてぽつりとそう言った。
「私が来ないとは思わなかったの?」
彼女と花火を観に行く約束を取り付けて5時間、隕石衝突で地球が滅亡すると発表されて2時間、地球滅亡まであと30分。
「君こそ」
僕は浴衣姿で河原に座って夕暮れの空を見上げていた。
「僕が来ないとは思わなかったの?」
「どっちでもよかった」
彼女は浴衣の裾をつるりと足に沿わせながら僕の隣に座った。
「僕もだ」
彼女はふふん、と笑った。
僕らの見上げる南の空には地球目指して飛んでくる隕石が白い尾を引いて輝いている。小質量の超高速隕石だったため事前に観測できなかったという発表だったが、本当かどうか怪しいものだ。
「この際だから言っちゃうとさ」
僕は空を見上げたまま打ち明ける。
「今晩、告白するつもりだった。ずっと好きだったんだ。君のこと。友達以上になりたかった」
「奇遇ね」
彼女も空を見上げたままそれに応える。
「私も告白されるつもりだったし、告白されたら、その、いい返事をするつもりだった」
「ほんとに?」
「うん」
僕ら二人は同時に溜息をついた。
そしてそのタイミングの合い方に、互いに顔を見合わせて笑った。
「広い宇宙の長い歴史の中で、地球に、今落ちて来なくてもいいのにね」
「僕は神様は信じないけど、奇跡のデリバリーを頼みたくなるよ」
「30分以内に届かなかったらタダなのね」
クスクス笑う彼女。
「あんな隕石、パッと弾けて花火になっちゃえばいいのに」
彼女が言い終わるか言い終わらないかの内に、夜空を横切って別の光が隕石目掛けて駆け抜けた。
パッ
夜空一杯に光の粒子が弾けた。
もう一つの隕石が、滅亡隕石に衝突し、それを粉々に砕いたのだ。
七色の光を放つ花火。
夜空全体を覆う大輪の花。
それは、夏至の夜の奇跡。