「宵闇の吸血姫」左安倍虎

文字数 816文字

「宵闇の吸血姫」左安倍虎


  肌が焼けるように熱い。

  いや、本当に私の肌は焼けつつあった。
  吸血鬼のなかでも日光に弱い私達の一族は、宵闇のせまるこの時間帯ですら、陽光を浴びると手の肌が赤く腫れ、皮が擦りむける。
  石畳の街路をよろよろと歩くと、行き交う人々が私を見て小さな悲鳴をあげる。

「三月後の七点鐘の刻、貴方に極上の褒美を与える」という冷血公の言葉を信じたのが間違いだった。薄暗い牢に閉じ込められ、毎日豚の血を与えられて弱りきっていた私は、愚かにもそれを解放の言葉と信じてしまったのだ。その時間帯なら、私もどうにか無事外を歩けるだろう──という淡い期待は、裏切られた。

  長い間の幽閉で季節の感覚を失っていた私は、三月後のこの日が夏至であることに気づかなかったのだ。牢から出された私を待っていたのは、弱々しい太陽の光だった。私はあわてて衛兵に取りすがったが、もうあのほの暗い地下牢に戻してはもらえなかった。

  冷血公はその名のとおり、私を衆目にさらし、肌を焼いて愉しんでいるのだろう。顔と掌に降り注ぐ光が無数の針のように私の肌を刺す。力を振り絞り、どうにか近場の家屋の日陰にはいり込むが、無駄だ。完全に日光を遮蔽できる建物の中に入らないと、このまま私の命は尽きてしまう。

  朦朧とする意識の中、八点鐘の鐘の音がきこえた。その時、何者かが私の腕をつかんだ。その者は私を抱きかかえ、近くの教会の中へと連れ込んだ。

 顔をあげると、そこには彫りの深い冷血公の顔があった。冷血公は澄んだ碧眼で私を見つめ、

「それでは、約束を果たそう」

 そう言うと、真っすぐな金髪をかき上げ、白いうなじを見せた。私は迷わず牙を突き立てた。蜜酒のような血を吸い上げると、すぐに生気が戻ってきた。

「ようやく、私はこの名にふさわしい者になれた」

 感慨深げにつぶやくと、冷血公は顔を寄せてきた。瞳が、私と同じ紅い光をたたえている。触れた唇は、ひんやりと冷たかった。
2018/06/21 13:59

rainmaker17

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