二人だけの秘密の場所で たまねぎ
18時30分。日没まであと30分くらい時間がある。
私、橘 皐月は一人で草木が生い茂った林を進む。
毎年、6月21日に私はある場所に向かう。私と彼女だけが知る、秘密の場所へ。
あの子との約束を守るために。
小学校の頃、私はいじめられていた。引っ込み思案で人見知り、運動音痴で泣き虫だった私はいじめっ子達の格好の的だった。幼いながらに「死んでしまいたい」、と考えるほど私の心は疲弊していた。
そんな私を彼女が救ってくれた。彼女の名前は石井百合。いつも明るく元気で、誰とでも仲良くなれる学校中の人気者である彼女は、私とは真逆の存在だった。
「どうしてこの子をいじめるの? この子が一体何をしたの? みんなで仲良くしようよ」
彼女は大勢に囲まれて暴行されていた私を、守るように寄り添いながらそう言った。それから、私は彼女と一緒にいるようになり、気付けばいじめも無くなっていた。
私の10歳の誕生日に、彼女は見せたいものがあると言って、私をある場所に連れて行った。草木が生い茂る林を抜けた先、透き通った青い綺麗な湖があった。
「私、お父さんが転勤するから明日にはこの町を出るの。でも、皐月ちゃんとは会いたい。だから、毎年この日にこの場所で二人で会おう」
あまりにも綺麗な景色に目を輝かせている私に、彼女は涙を流してそう言った。私も涙を流しながら頷き、この場所は他の誰にも教えないと約束して私たちは離ればなれになった。
翌年、私は彼女との再会を楽しみにしながら約束の場所へ向かった。けど、いくら待っても彼女は会いに来なかった。彼女は引越し先の町に着く前に、交通事故で亡くなっていたのだということを後で聞いた。
あれから10年。毎年私はこの場所に足を運んでいる。もう彼女に会えないと分かっていても、ここに来れば彼女と一緒に居られる気がするから。
「本当に綺麗。また、一緒に見たかったな……百合ちゃん」
「待たせてごめんね、皐月ちゃん。やっと、会えたね」