「夏至の極み」kuu

文字数 857文字

「夏至の極み」 kuu


嗚呼、どうしても食べたい。

なのになぜ。

仕事が終わらんの?




三好ゆきは焦っていた。

6月21日。

最も日照時間が長いこの日は、あちらこちらでキャンドルを灯し、太陽の恵みに感謝するイベントが行われる。

彼女は夏至限定の特別メニューを、今年こそ食べるぞと心に誓っていた。

そのはずが、このザマだ。



「ご入力ください」と文字を打ったはずが「誤入力」と変換されたところで、ゆきは本気でいらいらしてきた。

早く仕事を終えて、行かなきゃならないのに。



時計を見ると、短針が8を指している。お店は、9時に終わる。ラストオーダーは、後30分⁈



到底終わりそうにない。

眩暈がした。最の低だ。



涙目になったその時、内線がるるるとなった。

「カルガモ急便です!お荷物お届けしました」


無視する訳にもいかず、施錠されていた扉を開ける。
するとそこには。



「ととと、ととと、特製コズミックキャンドルパフェー!!!!!」


思わず鳥みたいな声を出してしまった。

だって、夢にまで見たものが、眼前にあったら驚くだろう、誰だって。



「な、なんで…」



カルガモ急便の爽やかなお兄ちゃんが口を開く。



「クール便でお届けしました!こちらの会社の方々にに頼まれたんですよ!ハッピーバースデー!」



見ると、伝票にメッセージが書いてあって、部署一同より 三好さん、おめでとうと書いてある。

しばらく立ちすくんでいたが、我に返り配達の品を受け取って、席に戻った。



星雲を模した繊細な飴細工。

炎のようなイチゴやベリー。

闇のようなダークチョコレート。

「おいひい…」

さっき滲んだ悔し涙は、嬉し泣きに変わっている。

夜にパフェは自殺行為だとわかっていながらも、止まらない。



しかし突然、はたと気づく。ゆきがパフェ好きだということ、誕生日もみんな、知っているけれど。

こんな風に残業して、祝われる現状ってどうなんだ。



ちょっとこれからのことを考えよう。
トップに乗っていたさくらんぼを口に入れながら、ゆきはそう決心した。

2018/06/22 00:25

kuu_talk

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色