夏至の夜といえば「ジャワ」に決まってる。我が家は昔からそうだったのだ。
ちなみに春分の日は「バーモント」、秋分の日は「ザ・カリー」、冬至は「クリームシチュー」。
ハウス縛りである。多分、何かと時節にかこつけて楽しむのが好きな母が考案したものだ。
夏至カレーは、季節の野菜をこれでもかと入れた辛口だ。
ナス、トマト、ズッキーニ、パプリカ。ルーだけで十分美味いのは知っていても、チューブ大蒜とか中濃ソース、粉コーヒーなんかを追加してしまう。肉は鶏手羽元。付合わせには甘酢漬けの茗荷が定番。
今年の夏至カレーは、初めて自分だけのために作った。故郷から3000キロ離れた島に俺はいる。
皿に盛り付け、さあ食べようという段になって、ふと妹にLINEを送った。
「夏至カレー今から食う」
1分ほどして返信が来る。
「こっちは雪が降ってるよ」
そう、妹はここからさらに4000キロも南下した国へ嫁に行ったのだ。
「そっちは冬至か」
「うん。けどカレンダーには『夏至』…“summer solstice”って書いてある。夏至って昼が一番長い日じゃなくて、太陽が一番北から昇る日ってことみたい。それはこっちもそうなんだよ」
俺はシロクマが『へ~』って言ってるスタンプを送る。
「だから、うちも今夜は夏至カレー。ルー取り寄せたよ」
カレー鍋と、腹の大きな妹の自撮り写真が送られてきた。
「きっと札幌で、お母さんも食べてる頃だね」
「だな」
俺が春からこの島に着任して、妹は去年結婚して家を出て、母はいきなり一人暮らしになった。
「お兄ちゃん、たまには電話しなよね、実家」
「あー」
『りょ』というスタンプ。
もともと小さな家族はバラバラに分かれて、日の昇る時間も季節も違う場所にいて。
同じ空は見ていないけれど、同じカレーを食べている。
「いただきます」
仕上げに黒こしょうを多めに挽いて、そうだ、島唐辛子もかけてみるか。
これは、相当辛い…でも美味い。
スプーンを動かす手がとまらない。
明日の尻の心配は、明日しよう。