「一瞬の夢」ボンゴレ☆ビガンゴ

文字数 821文字

タイトル  一瞬の夢

作者  ボンゴレ☆ビガンゴ


突如、死者が蘇ったのは今朝方に発生したタンホイザーゲートの爆破事故によって因果律が乱れたせいらしい。トップニュースで報道はされていたが、僕には関係のない事だと思っていた。

セーラー服なんていう前時代的な出で立ちで、当時付き合っていた彼女が私の元へやってくるまでは……。


「……で、ユージはどこ?」

何も理解していない彼女は老いた僕に詰め寄った。

既に破損したゲート内のアカシックレコードドライブの修理は終了しているため、復活した人も日暮れと共に消え去るとニュースでは言っていた。


「ユージというのは誰かな」


「あたしの彼氏よ。うじうじしてて情けない奴だけど、あたしがいないと何もできないから仕方なく付き合ってんの」


あの頃のままの彼女はプイッと顔を背けたまま言った。そうだったね。君がいないと僕はダメだった。いつも君が僕の前に立って導いてくれた。でも、君が死んでから僕は一人でもこうして生きてこれたんだよ。君以外の女の子に好かれることは無かったけど。


「ま、ユージがいないってんなら仕方ないわ。爺さん。あたし海が見たい」


「海……?」


「海くらいはあたしの知ってるままなんじゃないかと思ってね」


時代遅れの格好で寂しげな顔をした彼女。僕の中で何かが弾けた。


エアカーを飛ばした。フロントガラスの向こうに沈む夕陽が見える。

間に合え。間に合え。日暮れまでに彼女に海を見せるんだ。


浜辺に乱暴に停めたエアカー。彼女はぽつりと呟いた。


「今日は日が長いのね」


沈みかけた夕陽を見つめる彼女。そういえば今日は夏至だった。


「海だけは何も変わってないね……」


太陽は海に溶けかけていた。彼女の姿も心なしか薄く消えかけていた。


「我儘に付き合ってくれてありがと。ユージ」


ハッとして隣を見ると既に彼女の姿は助手席に無かった。


口を開き彼女の名を呼んだが、寄せては返す波に声は掻き消された。


皺だらけの手でシートをさすると確かに彼女の温もりが残っていた。

2018/06/21 14:25

bigangooo

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