タイトル 一瞬の夢
作者 ボンゴレ☆ビガンゴ
突如、死者が蘇ったのは今朝方に発生したタンホイザーゲートの爆破事故によって因果律が乱れたせいらしい。トップニュースで報道はされていたが、僕には関係のない事だと思っていた。
セーラー服なんていう前時代的な出で立ちで、当時付き合っていた彼女が私の元へやってくるまでは……。
「……で、ユージはどこ?」
何も理解していない彼女は老いた僕に詰め寄った。
既に破損したゲート内のアカシックレコードドライブの修理は終了しているため、復活した人も日暮れと共に消え去るとニュースでは言っていた。
「ユージというのは誰かな」
「あたしの彼氏よ。うじうじしてて情けない奴だけど、あたしがいないと何もできないから仕方なく付き合ってんの」
あの頃のままの彼女はプイッと顔を背けたまま言った。そうだったね。君がいないと僕はダメだった。いつも君が僕の前に立って導いてくれた。でも、君が死んでから僕は一人でもこうして生きてこれたんだよ。君以外の女の子に好かれることは無かったけど。
「ま、ユージがいないってんなら仕方ないわ。爺さん。あたし海が見たい」
「海……?」
「海くらいはあたしの知ってるままなんじゃないかと思ってね」
時代遅れの格好で寂しげな顔をした彼女。僕の中で何かが弾けた。
エアカーを飛ばした。フロントガラスの向こうに沈む夕陽が見える。
間に合え。間に合え。日暮れまでに彼女に海を見せるんだ。
浜辺に乱暴に停めたエアカー。彼女はぽつりと呟いた。
「今日は日が長いのね」
沈みかけた夕陽を見つめる彼女。そういえば今日は夏至だった。
「海だけは何も変わってないね……」
太陽は海に溶けかけていた。彼女の姿も心なしか薄く消えかけていた。
「我儘に付き合ってくれてありがと。ユージ」
ハッとして隣を見ると既に彼女の姿は助手席に無かった。
口を開き彼女の名を呼んだが、寄せては返す波に声は掻き消された。
皺だらけの手でシートをさすると確かに彼女の温もりが残っていた。