一人にとっては大きな奇跡
真白ぽんりる
二年前の夏至に僕は彼女を事故で失った。
それ以来毎年夏至の日は彼女の墓参りになっている。
自分よりも大切な存在を無くしてしまった僕は、墓の前で彼女と話す以外に楽しみが無い。
今日はその唯一の楽しみの日だ。
時刻は夕暮れ。
墓場に到着した僕は、彼女の好きだった麦茶と梨をそこにお供えした。
「久しぶりだね、ゆな。今日はお前の好きな物持ってきたぞ」
一言墓石に話しかけてから、彼は一時間ほどその場に立ち尽くしていた。
辺りも暗くなってきた頃、誰かの声が聞こえた。
「もう、そんな格好で居たら風邪引くよ?」
「ほっといてくださ……ゆ、ゆな!」
そこには、死んだはずの彼女が立っていた。
「どうしてゆながここに……」
「どうしてって、ここは私のお墓だよ? そんなに待たれたら出るっきゃ無いじゃん」
変わらない喋り口調に風貌、紛れも無くゆなだ。
「それにしても、ずいぶん痩せたね。私が居なくなってからご飯ちゃんと食べてる?」
「必要最低限は食べてるよ。ゆな、事故の時すぐ駆けつけれなくてごめんな」
「それは去年もここで聞いたから良いってば! それと、来年からはもう来なくて良いよ」
優しいゆなが、少し冷たい顔をしてそう呟いた。彼女のことだし心配してくれて言っているのはわかった。けど、ここに来る以外に生きる理由は無い。
「今ここに来る以外に生きる理由が無いって思ったでしょ! 全部お見通しだよっ」
「……」
「生きるのに理由なんて要らないんだよ。人間生きてるだけで幸せになる権利があるの。私はもう君から幸せをたくさん貰ったから、死んじゃったこと後悔してないよ。次は君が幸せになる番! 次ここに来て良いのは、君が幸せになった時」
「生前はバカだったくせに、やけに説得力あること言いやがって。絶対かわいいお嫁さん見つけてまたここに来てやるわ!」
「その調子だばか! それでこそ君だっ」
「じゃあ、その時までのお別れだ。元気付けてくれてありがとう」
「またね!」
彼は二年ぶりの笑顔を見せ、少しだけ前向きになれたようだった。
そこから約五年後、ある男が墓の前で自慢話をしていたらしい。