第二十六幕!奪還

文字数 8,937文字

蒼と紗宙が司の間から逃れたあと、部屋の中は惨劇に包まれた。和尚は、迫り来る敵の群れをことごとく殺戮したが、一向に減ることを知らない敵の攻撃に耐えきれず、ついに床に膝をついた。拳銃の弾が体のいたるところを貫いて、彼の周りは血肉の沼となっていた。
金友は和尚を嘲笑う。


「もう諦めたらどうだ坊主。」


和尚は苦しさを押し殺した。


「降伏する気など一切ないわい。」


金友の口角が上がる。


「強情なお方だ。ならばその根比べに答えてやらんといかんな。」


金友は指示を出すと、仙台官軍の精鋭達が一斉に和尚を押さえ込んだ。いくら和尚が天下無双の武闘家だとしても、体力も気力も限界を超えたこの状況。軍の精鋭部隊に押さえ込まれては、なすすべがなかった。
和尚は、金友の前まで連れてこられると、無理やり痺れガスを顔に吹きかけられた。すると体が思うように動かなくなり、思考も鈍くなっていた。


「それは、我が教団の優秀な学者が作った麻酔ガスだ。すぐに抵抗したがる分からず屋のお前は、まず動きを封じないとな。」


和尚は悔しそうな顔する。


「この卑怯者めが。」


金友は笑みを浮かべた。


「卑怯?この無法者が蔓延する日本社会は、手段を選んでいたら良くすることはできないだろう。」


和尚は鋭い口調で言う。


「確かにそうかもしれん!だがお前が望む良い国とは、お前にとって都合が良い国ということじゃ!そんなこと許すわけにはいかん!」


金友は澄ました顔をする。


「老いぼれよ、何を言っているのだ。我はすべての生き物の創世者である神の代理であり、我の望みはすなわち民の望みなのだ。我の都合の良い国に変えて当然であろう。」


「ふざけおって!お前が自分勝手に振る舞えるのも時間の問題じゃぞ!」


金友の目つきが鋭くなる。


「何が言いたい。」


和尚は彼を皮肉る。


「お前の野望を打ち砕く者はいずれ現れる。いや、もう現れておるかもな。」


「ほお、そんな不届き者がこの世界にいるというのか。頭の悪い平和ボケした国際連合のことかな?それとも...。」


「さあのう。青い炎が貴様を焼き尽くすじゃろうな。」


金友は笑いながら信者達に命じる。


「この老いぼれは、神の威厳の前に頭がおかしくなってしまったようだ。目を覚まさせてやるが良い。」


そのあと教団信者達による、和尚への数十分に及ぶ集団リンチが行われた。金友は、足の治療を受けながらその光景を見守った。
リンチが一段落した頃には、和尚は言葉もろくに喋れないくらい衰弱していた。
信者が金友に尋ねる。


「法王様、この老いぼれはいかがいたしましょう。」


それを見たリンは、キャハキャハ笑いながら金友に提案する。


「おじさーん。私さ、久々に人間花火見たいなー。」


「 ふふ、こやつの屍は人体実験に使わせようと考えておる。花火は面白いが塵になってしまっては意味がないのだ。」


リンは残念そうな顔をした。けども、和尚が悔しそうな顔をしているのがわかると、リンは再び楽しそうな顔をした。
そして彼女は笑みを浮かべる。


「このお坊さんなんか喉乾いてるっぽいから、お湯でも飲ませてあげようよ。とーってもあっつい刺激的なお湯。」


金友も目を見開いて同調する。


「おお、それは良いな。きっとこの坊主も喜んであの世へ行ける筈だ。」


彼はすぐに信者へ命じて、煮え立つ釜に入った大量の熱湯を用意させた。
お湯が用意されると、リンは金友の許可をもらって柄杓を手にする。彼女は鉄の柄杓でお湯を掬うと、それを和尚の前まで持っていった。
そして、和尚の目を見つめると幸せそうな表情を浮かべた。


「すぐには飲ませてあげないよ。」


彼女は和尚の頭にお湯を少しずつかける。和尚はあまりの痛みに声をあげたくなるが、頑張ってこらえている。そして彼女を睨んだ。
彼女は、冷たい目で彼を見つめた。


「もっと嬉しそうな顔、して欲しいんだけど。」


この時、和尚はようやくリンの正体に気づき始めていた。


「お主...、まさか...。」


「どこかで見たことあるー、とか言いたいの?」


「わしは...、仕...事で...映..画の...アクション...シーンの講...師をしてい...たことがある。そ..の...映画...でヒロ...インを務め...ていた女...の子が...お主と瓜...二つなん...じゃ。」


リンは怪訝な顔をした。


「このお坊さん気持ち悪い。こんな時に女の子のこと考えちゃうなんて。」


周りの信者達が、また蹴る殴るの暴行を加える。
和尚は血を吐きながら話し続けた。


「わ...しは観察...力に..は自信が...ある。声も...顔も...身長も...髪型も...そ..の..笑顔..も..まるっ...きり同じ。お主は...紛れ...もな...く...あ...の娘...じゃ...ろう。」


リンは熱湯を和尚の傷口に注入する。和尚はついに悲鳴をあげた。リンは満足そうに笑う。


「だったら何って感じなんですけど。羽前和尚さん。」


和尚は痛みをこらえながら答えた。


「例の...事...件の後で...逮捕さ...れ、釈放...後に...失踪...し...たと...聞いたが....ま...さか...こん...な所...で...再...会する...とは...。」


リンは彼を見下している。
和尚は話を続けた。


「なぜ...教団...なん...か...に...入信...し...たの...じゃ?」


リンは和尚の頭を掴み、床に擦り付けながら言った。


「入信したなんて言ったかな。私はただこの組織を手段として利用しているだけだよ。」


「お主...の...目的は...な...んじゃ?」


リンはただ一言、こう答えた。


「快楽。」


すると彼女は熱湯を和尚の両目に注ぎ込んだ。和尚は両目を抑えてもがき苦しんだ。彼女は子供のように無邪気な笑顔で大爆笑しながら、彼が痛みに狂う姿を鑑賞した。リンは失明した和尚に顔を近づける。


「楽しいでしょ?」


「快...楽...のた...めだ...けにわ...ざわ...ざ...教団に....与すると...は...思...えん...がな...。」


「鋭いね。でも私、嘘ついてないよ。」


「あの...頃は...純...粋だっ...た。爽や...か...な...運動神...経...抜群の...モデ...ル...女子...の代..表...的...存在だっ...たお主が...どうし...て...ここ...ま...で堕ち...た...のじゃ。」


リンは微笑みながら言った。


「ふふ、私はずっと純粋だよ。あの頃も、今もね。」


和尚は、彼女の昔を知っているがゆえに悔しそうな顔をした。それから彼はさらに疑問をぶつけた。


「不思...議な...ことじゃ...が。お主...の...顔が...10...年以上...前のあ...の...日から...何...一...つとして...変わ...ってい...ない。何を...企ん...でおる...?」


リンは急に真顔になる。


「お前の話、飽きた。」


彼女は、近くにいた信者に命じて和尚を立膝にさせた。そして、釜のお湯を彼の口へ一気に流しこませた。
和尚の苦痛の叫びが館内に響き渡る。 信者達は、この男の体内の悪しき者が浄化されていくぞ、とか言いながら盛り上がった。体内を、そして喉を焼かれ和尚は瀕死状態となった。けども、最後の力を振り絞って語った。


「お主...もき...っと..青の炎...に..焼かれ..死..にた..え...るであ...ろう。残...念...だ..、...ひと.つ..ば..し..り....。」


彼は、彼女の名前を言い切ることなく息絶えた。
その声がリンに届いていたか定かではない。しかし、リンは彼が死んだ後も彼の頭を足で踏み続け、近くの信者らに気がすむまで暴行をさせたのであった。


「そろそろ辞めておけ。我の大切な素材が劣化していくだけだ。」


リンは、冷めた笑みを浮かべて金友をみた。


「ふふ、仕方ないな。おじさんの為に止めてあげるね。」


金友は、和尚を哀れな顔で見下す。


「知り合いにも容赦がないのだな。」


彼女は、まるで悪気のない無邪気な顔で答える。


「こんな人、知らないよ。私は私の目的の為に使える人間と、大好きなオモチャ以外はあんまり興味ないんだ。」


「まあいい、我々は目的が違えど、これからもよろしく頼んだぞ。」


リンは、ステンドガラスから顔を覗かせている月を見上げる。そして、涼しげな笑みを浮かべるのであった。





教団仙台支部の敷地内は、俺たちの侵入によって大混乱に陥った。俺は紗宙を背負いながらも、なんとか施設の脱走に成功する。それから、人通りの少ない道を選びつつ、死ぬ気で北へ向かって走った。
寺での修行生活の成果も出たのだろうか。そこそこの距離を駆け抜けることができた。だが、人を1人担ぎながらとなると、体力もそう長くは持たない。それに俺は満身創痍の状態である。身体が動くたびに、折れた骨や傷口が悲鳴をあげるように痛んだ。
街中では、白い服を着た信者どもと軍服をきた官軍将兵が、俺たち革命団の居場所をしらみつぶしに探している。このままでは、見つかるのも時間の問題だろう。
それに、更なる問題ものっかてくる。所持していた携帯が、戦闘中に破損してしまったのだ。恐らくGPSは壊れていないので、先生は俺たちを見つけ出すことができる。だが、俺たちは先生に連絡を取ることができず、細かい指示を仰ぐことも難しい。
それに、俺と紗宙は重症患者だ。特に紗宙は、全身に傷を負っている上に痩せ細っている。すぐに病院に行かないと、生死に関わってくるような状態だ。仮に脱出できたとして、城外の荒廃した地域に病院があるのかも定かではない。ようは、脱出できても、生き残れる保証がないということである。せめて携帯だけでも生きていれば何とかなるのに。そう俺は思い焦る他なかった。
裏路地で休みながら、決死の逃避行を続ける俺たちには、様々な困難がのしかかる。街では手配書が配られ、革命団のメンバーはそれぞれ懸賞金がかけられていた。難民で溢れかえるこの街は、ホームレスも多い。彼らも、お金さえあれば難民キャンプに住むことができる。だからこそ、お金につられて俺に迫り来る者も多く存在して、逃げるのに一手間二手間かけることとなった。
紗宙には本当に申し訳ないが、ネズミやゴキブリがいるドブやゴミ箱の中に身を潜めたり、窓ガラスをぶち壊して住居内を横断して敵を巻いたり、停車した車の下に隠れて敵を通り過ごしたり。生きる為ならどんなことでもやった。
壮絶な逃走劇に身を投じていたので、時間の経過もいつの間にか頭から抜けている。大通りのほとぼりが落ち着くまで用水路に身を潜めていると、いつの間にか東の空が明るくなり始めていた。
このくらいから眠気に伴い、全身に疲れものしかかる。俺はフラフラになりながら、大きい病院の敷地を隠れるように横断する。
その時、横から声が聞こえた。振り向くとそこには30前半くらいの比較的若い医師がいて、なぜか俺たちを手招きしている。
人間不信で猜疑心の強い俺は、この生きるか死ぬかの状況も相まってピリピリしており、反射的に彼に拳銃を向けた。拳銃を向けられた彼は、咄嗟に両手をあげて首を振り、自分が敵じゃないというアピールを繰り返した。


「お前は教団側の人間ではないのか?」


「私は教団関係者ではない。それに君たちを売り飛ばす気もない。」


俺はそう簡単に人を信じることはしない。


「じゃあ何のようだ。時間も時間だ。待ち伏せていたようにしか考えられん。」


「私は君たちの味方だ。信じてくれなくても構わない。ただそのボロボロの状態で逃げ切れるとも思えない。」


「何が言いたい?」


「良ければ、この病院に数日間潜伏しないか?」


俺は疑いつつも、もし本当に彼が味方ならこれほど幸運なことは無い。


「本当か。しかしなぜそこまでしてくれるのだ。見つかれば奴らから、どんな酷い殺され方をするのかわからないのに。」


医師は語る。


「私は、平和な時代を築いてくれる誰かの為に腕を振るいたい。しかし、政府も教団も官軍も国を腐らせることばかり考えてて、奴らにはついていけない。だから君たちに期待をしているのだ。」


俺は考えた。このズタボロの状態で逃げ続けたら、きっとどこかで捕まるか、野垂れ死ぬかのどっちかである。だったらいっそこいつに賭けてみるのもありか。


「なるほどな。お前は裏切らないとここで誓えるか?
もし裏切られて教団に八つ裂きにされるくらいなら、俺は野垂れ死んだ方がマシだが。」


すると医師は、ポケットから何やら紙を取り出し、それを開いて俺に見せる。何とその紙は、大都市のコンビニで市販されるまでになった、金友の顔写真である。
俺の顔は嫌悪感で溢れかえる。すると医師は、すかさず顔写真をビリビリに破き、ライターで燃やした。そして、地面に舞い落ちた灰と残骸を靴で踏みにじる。


「これで信頼してくれるかな?」


俺はその実行力に驚いた。
そして決断する。


「わかった。ぜひ匿っていただきたい。」


彼は嬉しそうに俺たちを招き入れた。


「私の名前は北里伸弥。是非お見知り置きを。」


俺は最後に一言念をおした。


「伸弥先生、もし俺を裏切った時はわかってるな?」


伸弥は、重たい声で答えた。


「撃ち殺される覚悟だ。」


それを聞いて俺は、少し顔を和らげる。それから、彼の案内の元で、紗宙とともに病室へ向かった。





病院を訪れてから1日と半分が経過していた。伸弥にスマホを借りることで、無事に先生と連絡をとり、現状を知らせることができた。
俺と紗宙が案内された病室は、病院の最上階の一番奥の部屋である。ここは、院長である伸弥の知り合いしか入れない、特殊な病室となっていた。
俺は重症ではあったが、手術も終えて心身ともに安静を取り戻す。もちろん、逃亡生活中であることは変わりがないので、緊張感は抜けない。だが、冷静に物事を考えられるくらいの精神的安定は確保できている。
一方の紗宙は、教団施設で気を失って以来、意識を取り戻す気配を見せなかった。別に心拍が止まってしまったわけでも、脳死状態というわけでもない。点滴もつけているので大丈夫だとは思うが、色々とショックや恐怖が度重なり精神的に限界に達していたのか、24時間以上も眠り続けていた。
物事を冷静に判断できるようになったというのに、彼女のことになるとやはり不安が募るばかりであった。俺は彼女の安否が気がかりで、ほとんど彼女のそばを離れることなく、自分も重症患者であるにも関わらず看病に全力を注いでいた。彼女の症状が急変して、もし死んでしまえば取り返しがつかない。
彼女を痛めつけたのはもちろん奴らだ。しかし、運命を無茶苦茶にしてしまったのは俺に他ならない。俺は悲しくて、悔しくて、そして寂しくて。彼女が寝ているのをいいことに、ベットの横で1人泣きをしていた。





19時過ぎ頃。星空でも眺めようと考えた俺は、ハンカチで涙を拭い、カーテンの隙間から外を見た。しかし、分厚い雲が夜空を覆い、遠くでは雷が光っている。どうやら今夜は豪雨になりそうだ。
俺が夕飯を終えた頃には、激しい雨音と落雷の音が病室に鳴り響いていた。雷が近くに落ちた時、紗宙は無意識なのか苦痛な表情を浮かべていた。
俺は、そんな彼女の手を強く握る。


「俺がついてるから大丈夫だ。」


すると、彼女の表情が少しだけ和らいだように見えた。その和らいだような顔を見て、少しだけ息をついた。
しかし、俺は思ったのである。彼女の目が覚めないのは、教団が崇拝する宇宙神ヒドゥラの呪いなのではないか。そして、今まで殺してきた人間の怨霊なんじゃないかって。そう考えるだけで身の毛がよだち、気持ちが真っ暗になっていった。
俺は、脳裏に湧いてくる嫌な奴らをかき消そうと、気が狂ったかのように紗宙のベットに頭を擦り付けた。そして、紗宙の顔を見上げては言うのであった。


「紗宙、どうか俺を許してくれ。」


俺はその日は心労のあまり、彼女に泣きすがるような体勢で眠りについた。もちろん故意的にそうしているのではなく、いつの間にか気を失っていたのだ。
まるで、彼女に救いを求めるかの様に。





ここはどこだろうか。俺の目の前には、ウエディングドレスのような白い服を着た紗宙がいる。彼女は死んだはずの彼女の父に手を引かれて、結婚式場にありがちな、赤い絨毯が敷き詰められた階段を一歩ずつ登っていく。
そしてその先には、ダンスボーカルユニットに居そうな、オラオラ系のイケメンが白いスーツを着て、まるで新婦を迎えるかの如く、彼女たちを出迎えようとしていた。
俺は必死に彼女を追いかけている。それにも関わらず、彼女へ追いつくことができない。それどころか、距離を縮めることすらできていない。彼女と彼女の父は、徐々に階段を登りつめていく。俺は転んで怪我をしても、息切れして脈がおかしくなっても、御構い無しに追いかけたが到底届きそうにない。だけど俺は、彼女の名前を叫びながら追いかけ続けた。
彼女らは、白いスーツ男の前まで到達してしまった。俺はチャンスとばかりに、我武者羅に階段を上がり続ける。彼女の父親は、白いスーツの男と何やら親しげに会話をしていた。俺は彼女たちとの間をだんだんと詰めて、ついには表情まではっきりわかる距離まで達することができた。
紗宙は、何かから解放されたような柔らかい笑顔で、彼らのやり取りを眺めている。だが、彼女には見えていないようである。あの白いスーツの男は、生きた人間の目をしていないことを。
白いスーツ男は彼女に跪くと、彼女の手を取ろうと手を伸ばした。俺はそれを阻止しようと、全エネルギーを振り絞り駆け出した。頼むから時よ止まってくれ、彼女をあっち側へ連れて行かないでくれ。そう思いながら、ずっとずっと彼女のことを呼び続けていた。
その時、一瞬だけ彼女動きが止まった。けどもその思いは実を結ぶことなく、白いスーツの男は紗宙の手を優しく握ると、手の甲にその紫色の唇を近づけた。紗宙の親父は、幸せそうに彼女と白いスーツの男を見守っている。
俺は最後の力を振り絞って叫んだ。


「紗宙ー!!!!!!!!」


紫色の唇があと数センチで触れる所まで来た時、彼女は彼の手を振り払った。そして、隣に立つ父親へ向かって言うのであった。


「父さん、ごめんなさい。やっぱり私には帰る場所がある。絶対に幸せになるから、もう少しだけ無理することを許して。」


その答えに父親は決して否定することなく、彼女の肩を優しく叩いた。それから彼女は、俺の方を振り向くと微笑みながら言った。


「蒼が来てくれるって信じてた。」


俺は彼女の手を取る。


「やっと、やっと追いつけた!みんなが待ってるから早く帰ろう!」


俺は、彼女が頷いたのを見てから、彼女の父親にお辞儀をした。彼女の父親は何も言ってはくれなかったが、温かい目で俺たち2人を見つめていた。
それから俺は、彼女をリードしながら白い階段を降りる。後ろを振り返ると、いつの間にか彼女の父親は姿を消していて、そこは白い光の粉が舞っているだけであった。
俺達はくだらない会話をしながら、階段を一つ一つ降りていく。けども、彼女を連れて行こうとした白いスーツの男は黙ってはいなかった。
後方でさっきまでは聞こえなかった、機械音のような明らかに人間のものとは違う声が聞こえてきたので振り返る。するとそこには、俺が今まで殺してきた人間達が、怨霊となってこちらに迫ってきていた。
白いスーツの男は、きっと黄泉の国の人間だ。紗宙を奪い取った俺を殺そうとしているのであろう。俺と紗宙は手を繋いだまま、全速力で階段を駆け下りた。
怨霊達は殺すという言葉を連呼しながら、執念深く追いかけてきた。ある程度行ったところで、階段が途絶えていることに気づいて2人は立ち止まった。
階段がなくなった今、俺たちに残された選択肢は2つ。目の前の深い闇に飛び込むか、怨霊達に八つ裂きにされるか。
紗宙は、真剣な眼差しで俺の目を見た。選択を委ねられたように思われるが、きっと彼女の中で覚悟はできていたのだろう。俺は彼女にアイコンタクトをすると、彼女の手を強く握りしめ、一緒に深淵の闇へと飛び込んだ。
深い深い人間界という暗黒に、2人は吸い込まれていく。ふと上を見てみると、怨霊達はもう居ない。
闇へ沈んでいく俺と紗宙は、ゆっくりと目を閉じたのであった。





不思議な朝もあったものだ。目が醒めると俺はベットにもたれかかり、自然と目から涙がこぼれ落ちていた。そして、俺の懐に顔を埋めるかのように眠る彼女の顔がそこにはあった。
何か怖い夢でも見たのであろうか。彼女も俺と同じく涙を流していた。カーテンから差し込む朝日が、俺たちを暖かく迎えている。
俺はそんな光の線を眺めながら、考え事をしていた。すると、彼女の声が聞こえた。


「ただいま...。」


俺はその声の主に答える。


「おかえり。紗宙。」


その言葉を聞くと、彼女の今まで我慢していたものが、堰を切ったかのように溢れ出したようだ。
彼女は泣き崩れながら言った。


「本当に、本当に怖かった、辛かった。」


俺は彼女の背中をさすりながら、彼女の話に耳を傾けた。


「みんなが苦しんだのも、和尚があんなことになったのも全て私のせい。本当にごめんなさい。」


俺は、彼女の震える身体を抱きしめながら、それは違うと言った。
今回の件は、決して彼女のせいではない。元はといえば、無力なくせにイキりまくっていた俺が悪いのだ。俺も素直に彼女に謝罪をした。
そんなやりとりを飽きるまでやった後、彼女の感情が落ち着いたあたりで俺は言う。


「あのさ。後でどうしても伝えたいことがあるんだ。」


紗宙は、目を擦っている。


「今じゃ、ダメなの?」


「改めて言いたい。」


俺の顔は真剣だった。彼女は察しているのだろうけど、意味を理解してないようなそぶりをした。


「わかった。後でゆっくり聞かせてね。」


彼女はカーテンを開けた。眩しい太陽が俺たちを熱く包み込んでいた。その後、彼女は先生から診断を受けたり、入浴したりと忙しい時を過ごした。
病室に取り残された俺は、まだ危険な状況下にあると言うのにも関わらず、そんなことをそっちのけで彼女のことばかり考えるのであった。







(第二十六幕.完)
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登場人物紹介

・北生 蒼(きたき そう)

劣悪な家庭環境と冴えない人生から、社会に恨みを抱いている。

革命家に憧れており、この国を変えようと立ち上がる。

登場時は、大手商社の窓際族で、野心家の陰キャラサラリーマン。

深い闇を抱えており、猜疑心が強い。

非常に癖のある性格の持ち主ではあるが、仲間に支えられながら成長していく。

紗宙に対して、淡い恋心を抱いている。


※青の革命団のリーダー

・袖ノ海 紗宙(そでのうみ さら)

蒼の地元の先輩であり、幼馴染でもある。

婚約者と別れたことがきっかけで、有名大学病院の医療事務を退社。

地元に戻ってコンビニでバイトをしていた。

頭も良くて普段はクールだが、弟や仲間思いの優しい性格。

絶世の美人で、とにかくモテる。

ある事件がきっかけで、蒼と共に旅をすることになる。


※青の革命団の初期メンバー

・直江 鐘ノ助(なおえ かねのすけ)

蒼の大学時代の親友。

愛称はカネスケ。

登場時は、大手商社の営業マン。

学生時代は、陰キャラグループに所属する陽キャラという謎の立ち位置。

テンションが高くノリが良い。

仕事が好きで、かつては出世コースにいたこともある。

プライベートではお調子者ではあるが、仕事になると本領を発揮するタイプ。

蒼の誘いに乗って、共に旅をすることになる。


※青の革命団の初期メンバー

・諸葛 真(しょかつ しん)

自己啓発セミナーの講師。

かつては国連軍の軍事顧問を務めていた天才。

蒼とカネスケに新しい国を作るべきだと提唱した人。

冷静でポジティブな性格。

どんな状況に陥っても、革命団に勝機をもたらす策を打ち出す。

蒼の説得により、共に旅をすることになる。


※青の革命団の初期メンバー

・河北 典一(かほく てんいち)

沼田の町で、格闘技の道場を開いていた格闘家。

ヒドゥラ教団の信者に殺されかけたところを蒼に助けられる。

それがきっかけで、青の革命団に入団。

自動車整備士の資格を持っている。

抜けているところもあるが、革命団1の腕っ節の持ち主。

忠誠心も強く、仲間思いで頼りになる存在でもある。


※第三幕から登場

・市ヶ谷 結夏(いちがや ゆな)

山形の美容院で働いているギャル美容師。

勝気でハツラツとしているが、娘思いで感情的になることもある。

手先が器用で運動神経が良い。

灯恵の義理の母だが、どちらかといえば姉のような存在。

元は東京に住んでいたが、教団から命を狙われたことがきっかけで山形まで逃れる。

流姫乃と灯恵の救出作戦がきっかけで、革命団と行動を共にするようになる。


※第十幕から登場

・市ヶ谷 灯恵(いちがや ともえ)

結夏の義理の娘。

家出をして生き倒れになっていたところを結夏に助けられた。

15歳とは思えない度胸の持ち主。

コミュ力が高い。

少々やんちゃではあるが、芯の通った強い優しさも兼ね備えている。

秋田公国に拉致されたところ、革命団に助けれる。

それがきっかけで、共に行動することになる。


※第十幕から登場

・関戸 龍二(せきど りゅうじ)

『奥州の龍』という異名で恐れられた伝説の不良。

蔦馬に親族を人質に取られ、止むを得ず暴走天使に従っていた。

蒼と刃を交えた時、彼のことを認める。

革命団が蔦馬から両親を救出してくれたことに恩を感じ、青の革命団への加入を決める。

寡黙で一見怖そうだが意外と真面目。

そして、人の話を親身になって聞ける優しさを兼ね備えている。

蒼にとって、カネスケと同等に真面目な相談ができる存在となる。



※第二十一幕から登場。


・土龍 金友(どりゅう かねとも)

ヒドゥラ教団の教祖。

信者からは法王と呼ばれている。

多くの政治家を洗脳。

日本政府を裏から操っていると噂されている。

残虐非道な性格で、子供狩りや拉致、拷問や人体実験など、人道に反する行為を容赦なく行う。

青の革命団の宿敵。


※第十五幕から登場

・リン

全てが謎に満ちた存在。

圧倒的美貌を持ち、男女関わらず簡単に魅了してしまう恐ろしい人物。

人が苦しむ姿を見て快楽を覚える凶悪な性格。

灯恵のボーイフレンドの気流斗を射殺。

蒼に対して、謎の予言を残す。

青の革命団の敵であることは間違いない。


※第十二幕から登場

・新藤 久喜(しんどう くき)

ヒドゥラ教団仙台支部の支部長。

教団の幹部で神格を授かりし8人の1人。

教団の敵に対して容赦ない制裁を加えたり、子供狩りを積極的に進めるなど残忍な男。

金友に心酔していて、彼の命令であればどんなことでも実行する。

リンのことを恐れている。


※第十二幕から登場

・酒又 小太郎(さかまた こたろう)

ヒドゥラ教団忍者部隊の棟梁。

教団新潟支部の支部長である官取井の用心棒的存在。

忍術を使い、周囲から恐れられる存在。

勘が鋭く頭がキレる。

ヘビースモーカーであることを隠しきれるくらいの体力と腕力を持っている。


※第七幕〜第八幕で登場

・桧町 亜唯菜(ひのきまち あいな)

秋田公国の植民地である山形北部の新庄地域の領主。

先生曰く、元ミス山形。

プライドが高く自尊心が強い。

その性格故に、公国内で華々しい出世を遂げて領主まで上り詰めた。

リンとは旧知の仲。

彼女のことを非常に恐れていて、リンに対しては腰巾着のようにへりくだっている。


※第十二幕〜第十四幕で登場

・大崎 蔦馬(おおさき たつま)

奥羽列藩連合暴走天使の七雄の1人。

古川ブラッドの総長。

元ギャル男モデルで、様々な人脈を駆使して暴走天使の幹部まで上り詰めた実力者。

残忍で冷酷な性格。

龍二の身内を人質に取り、彼やイズミルに悪事を行わせていた。


※第二十二幕で登場

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