第十九幕!奥羽山脈を超えて

文字数 7,908文字

 奥羽山脈の険しい山道を、カネスケの運転でひたすら東へ走り続ける。進めば進むほど自然色が濃くなり、良い意味で言うならば緑豊か、悪い意味で表現するなら薄気味悪い旧街道だ。
 主要道が仙台官軍により封鎖され、和尚の弟子曰く、抜け道でも教団信者の姿が散見されるとのことだった。だから彼の案内で、昔使われていた裏ルートを進む事になったのだ。このルートこそ、結夏が以前お客さんから聞いていた道にちがいない。
 バンがギリギリ通れるくらいの道幅で、所々で片側欠落していたり木が倒れていて、それをどかしながらでないと進めなかったりと、現代人にとってはかなり過酷すぎた。何もない一本道なら、今頃仙台に着いていたはずだが、困難を乗り越えながら慎重に進んだ結果、一日たってもまだ奥羽山脈の中腹あたりである。
 1日目の夜は、比較的開けた道の路肩で車中泊をすることとなる。こんな山道でも、かつては開発ムードが高まっていたこともあるのだろう。整備された広い場所が部分的に存在している。流石にこんな道は、俺たちと猟師くらいしか使わないとは思うが、念の為に後続車へ気を配ったのだ。
 まだ23時も回っていないのに、先生と俺以外が眠りに落ちている。先生は、スマホとにらめっこしながら仕事を続けていた。


「樺太の統治責任者交代の日まで約半年。俺たちは間に合うと思うか?」


「それはこれからの動き次第でしょう。」


「そうか...。」


 俺がまだ何か言いたいことがあることを、彼は察しているようだ。それについて尋ねられたので、気まずさに目をつむりながら答える。


「あの時、本気で紗宙を巻き添いにしてでも、金友を殺すつもりだったのか?」


「ええ、彼女を犠牲にしてでも金友を殺すつもりでした。」


 率直で冷淡な答えだ。俺は、殺意を込めて彼と目を合わせる。


「他に策は無かったのか?」


「あったのかも知れません。しかし、あの作戦が一番の良策だと私は考えました。」


「なぜだ?」


「あの男は、人を殺すことになんの抵抗感も覚えない残忍な人間です。仮に私たち全員が降伏したところで、その場でなぶり殺されて無駄死していたことでしょう。それに、仲間の死に同情するなどの弱みを見せれば、そこにつけ込まれて何をされるのかわからない。だからあの場では、彼女の犠牲が最良の策であったのです。」


 それを聞いた俺は、意地悪く問う。


「そうか。では聞くが、先生は仙台へ向かわずに、紗宙を見殺しにして北海道へ急いだ方が良いと考えているか?」


「私を試しているのですか?」


 彼への怒りの感情が、俺の心に黒い影を落としている。無言で彼を見つめ、精神的な逃げ場を奪って追い込もうと画策した。しかし、先生は笑みを浮かべるだけだ。


「さすがの私もそこまで鬼ではないです。そして、何でもかんでも先走って犠牲を出せば良いということではございません。紗宙は大切な仲間です。必ず助けだしましょう。」


 まだ彼の真意を信じた訳ではない。しかし、一旦はホッと胸をなでおろせた。


「それが聞けて安心したよ。」


「わかって頂ければなによりです。」


「とりあえず、明日も早いし寝るとするか。」


 俺は、腕を組みながら目を瞑る。言いたいことを吐き出し、そして彼の本音も聞けた。そのおかげで、多少はまともな睡眠がとれそうな気がする。彼は、仕事で使用していたスマホやタブレットを収納BOXへしまう。そして車内照明を消灯させ、返事をするとそのまま床に着いた。
 思えばいつの間にか、東京を飛び出してから4ヶ月が経過しようとしている。この車内生活も、当たり前のものとなり、車中泊に苦痛を覚えることもなくなった。
先生の車は、銃弾も弾き返す鋼鉄のような表面をしている。その為、たまに聞こえてくる熊のような猛獣の鳴き声も、心地良いBGMに聞こえた。


 ◇


 翌朝。俺たちの旅路は、また険しい登り坂から始まった。深い森を抜け標高が高くなるに連れ、気温も下がっていく。まだ10月とはいえ、東北の山間部はそこそこ寒い。ほとんど車内で過ごしているので、そこまで苦では無かったが、落下物や道を塞いでいる木を退ける際、車外で作業をするのが割としんどかった。これから季節に逆らって北へ向かい、雪上の戦いが増えるのではと考えると震えが止まらない。
 がむしゃらに旧山道を進むこと数時間。ようやく反対側へ抜けるトンネルが現れた。昭和の時代に作られたトンネルは、薄気味悪い雰囲気しか出ていない。お化けが嫌いなので本音を言えば入りたくは無かった。
 しかし、紗宙の為、そして国家の為である。それに仲間たちも一緒だ。だから突き進むことを決断できた。
 俺はリーダーとして、仲間に弱いところを見せたくない。それ故に必死に目を見開き、運転している先生の隣で冷静なそぶりを続けた。
 後ろでは、灯恵と結夏とカネスケが、怪談話をしながらキャーキャーと盛り上がっていた。その会話のせいで恐怖心が余計に駆り立てられ、それが心を支配しそうになると、俺は紗宙のことを思い出す。すると、自然と落ち着いた気持ちになれた。
 そんな時、カネスケが周囲をチラチラ見ながら、青ざめた顔で小声を漏らす。


「おい、なんか男の叫び声が聞こえなかったか?」


 結夏が不安そうに周りを確認している。彼女も肝試しが得意とかいいつつ、本当は苦手なのかもしれない。灯恵は、やめろよとか言いながら俺のシートを揺すった。


「このトンネルは、有名な心霊スポットで屍肉の穴と言われているそうじゃ。」


 場を盛り上げる為だろうか。和尚は、トンネルで起きたと言われている噂を話題に上げた。それを聞いたカネスケが震え上がる。


「な、なんなんですか?その屍肉の穴って?」


「私も聞いたことある。」


 結夏が思い出したかのように、窓の外を確認しつつぼやく。灯恵も耳を塞いでいる。車内が戦慄に包まれる中で、ここぞとばかりに和尚が語った。


「昔から死体置き場として有名だから、その名で呼ばれるようになったそうじゃ。肝試しに来た若者が、死体を見て頭がおかしくなったという話。そして、殺人鬼と出くわして殺された話も聞いたことがある。それに、この道が使われなくなったのは、ここに捨てられた人達の怨霊のせいだとか。」


 カネスケと結夏が震えている。そんな時、灯恵が俺の首をツンツンした。あまりの不意打ちに、俺のプライドも俺の本性を守りきれなかったみたいだ。つい反射的に大声を上げてしまい、それに驚いたカネスケと結夏も発狂。ついでに、俺を驚かそうとイタズラした灯恵も声を上げてびっくりしていた。
 和尚は、怖い話をしてみんなが驚いたのを見て、満足そうに笑っていた。みんなが怖い怖い言っていると、車内に轟音が鳴り響く。さっきの恐怖の余韻が続いていたからか、俺と3人がまた悲鳴をあげる。すると、典一が申し訳なさそうに言う。


「ごめんな。屁こいちまった。」


 みんな唖然とした顔で彼を見た。そして、結夏が渾身のゲンコツを彼に浴びせる。それをもろに食らった典一は、なぜか嬉しそうな顔をしている。俺と灯恵は、能天気にとぼける彼を見て、なんだか心が温まってしまった。
 場の空気がほのぼのし始めた頃、いつの間にか光が差し込み、トンネルを抜け宮城県に入っていた。


「何事もなくて良かったなー。」


 休憩所を探しながら山を降りている最中、典一が呑気なことを言いながら、座席に寄っかかってくつろいでいる。それに対して、散々怖い目に遭わされたカネスケと結夏は、冗談じゃないとばかりに文句を言う。


「何事もあったわ!!」


 それが上手くハモっていたのが可笑しくて、灯恵が腹を抱えて笑っていた。俺は、そんなたわいもない話を聞いて、ようやく怪談話の恐怖から抜け出すことができたのだった。そしてまた、紗宙のことを考え出すのである。


 ◇


 そのころ紗宙は、仙台のヒドゥラ教の施設にて囚われの身となっていた。仙台の施設は、大理石で作られた神殿のような、巨大かつ豪華な造りとなっており、佐渡の研究施設とはまた違う雰囲気である。話によるとこの施設は、ヒドゥラ教5大聖地の一つとされている。その為、全国から多くの信者が訪れる神聖なスポットだという。
 彼女は、その施設の中にある司の間というところに囚われていた。司の間は、謁見室を兼ねた執務室のような場所だ。金友や、その不在時は久喜が執務を取るための部屋である。
 彼女は、天井から鎖で吊るされ、足には鉄球がくくりつけられている。ロープで首を縛られており、そのロープの両端を見張りの信者が掴んで離さない。いざ抵抗すれば、いつでも絞め殺せるという状況である。彼女は、恐怖と疲れから相当やつれていた。
 金友は、彼女に水や食料を一滴も与えず、ただただ衰弱していく姿を見て楽しんでいた。そんな金友に久喜が尋ねる。


「法王、奴らは本当にここへ来るのでしょうか。」


「奴らは必ず現れる。」


「しかし、奴らには策略家の諸葛真がおります。法王に戦いを挑もうなど、リスクの高い策を講じて来るのでしょうか。」


「お前は、諸葛真がどのような男か知らんのか?どんな難しい戦いにも、攻略法を生み出し勝利を掴みとるような奴だ。そして、奴らのリーダーは、その女を気にかけておる。必ず来るであろう。」


 久喜は依然として疑う。なぜなら彼は、北生蒼も諸葛真も、どちらかといえば損得感情で動く合理主義者だと思っていたからだ。それに、教団が国の決定権を握るほどの力を持っていることを、組織の幹部としてわかっている。だこらこそ、彼らがリスクを冒してまで1人の女を助けに来る訳がない。そう考えていたのだ。
すると金友は、彼に詰め寄る。


「お前は神の力を侮っているのか?」


 久喜は、萎縮して怖気付き、跪いて謝罪をする。


「い、いえ、滅相もございません。」


 金友は、そんな彼を見下ろす。


「神のお言葉を頂いた我らが負けるはずはない。安心するが良い。」


「さようでございましたな。」


 久喜が無理くり笑顔を作る。金友は、どうでも良さそうに話題を変えた。


「それよりも、布教とお布施の状況はどうだ?」


「順調でございます。」


「この戦乱の東北こそ、信者数を拡大できるポイントだと考えておるが。」


「仰るとうりでございます。暴走天使やマッドクラウンなんかに家を追われた民衆どもが、心の拠り所と住まいを求め、沢山入信してきております。それに、財産を族に奪われるくらいなら、神に献上したいと思うものも多くいるため、お布施も潤っております。」


「それは良きことだ。これであの虫どもを消せば、東日本での教団の立ち位置も盤石といったところだな。」


「そうですね。そして、法王がこの国の君主になる日もそう遠くないですな。」


 金友が拳を天井にかざす。その天井には、宇宙を創生した神々と、神格化された金友自身の絵が刻まれていた。


「早くその日を迎えるためにも、東北を頼んだぞ。久喜。 」


 彼は、金友から信頼されていることが嬉しくて、威勢の良い返事をする。そして、怖気付いていることを隠すように、礼儀正しく挨拶をしてからそそくさと部屋を出て行った。
 金友は、久喜が部屋を後にしてから、ゴミを見るような目つきで紗宙に近づく。


「どうだ吊るされる気分は?」


 彼女が無視を貫く。すると金友は、彼女の頰をさすりながらその表情を事細かに観察した。


「良いやつれっぷりよ。奴らを皆殺しにしたら、神の教えを否定した魔女として、我の手で責任を持って死刑にしてやる。」


 執拗に触って来る金友に対して、紗宙が唾を吹き付ける。すると彼は、彼女の首に巻きつけてあるロープを力強く引いた。ロープが勢いよく首を絞め上げる
 紗宙が苦しそうに声を上げると、金友はニンマリと笑う。


「なんだ喋れるではないか。」


 それから満面の笑みで、彼女の首を窒息寸前まで絞めては離してをくり返す虐待を続けた。
紗宙は、その苦痛と戦いながら、革命団の勝利を願い続けるのである。


 ◇


 太陽が真上に差し掛かった頃。奥羽山脈を越えた俺たちは、ようやく仙台市太白区まで到達する。ここらの街は、盛岡に本拠地を置く日本最大の勢力範囲を持つ独立集団『奥羽列藩暴走神使』の支配地域である。その為、小さい街や奴らの居心地の悪いと感じた街は、ことごとく破壊され廃墟と化している。
 それに人が異様に少なく、時代劇で出てくる田舎の村並みに人がいないのだ。その理由は、大地が荒廃して町も廃墟ばかりだからでもある。だが、官軍が納めていて治安が安泰な仙台市に人が殺到しているという事実も存在した。現に、仙台市中心街やその周辺の官軍が治める地域に比べ、暴走神使が支配するそれ以外の地域の宮城県では、人口が半分以下まで減少しているという統計が出ている程だ。
 俺たちは、太白区の秋保町湯元というところで、休憩を取ることになる。町は崩壊しているが、地域の人々が簡易的な小屋を建て、そこに集まり生活を送っていた。
 初めは怪しい者だと疑われ、石を投げつけようとしてくる者も居たほどである。しかし、暴走族ではないことがわかると、彼らは優しく出迎えてくれる。結果的に公民館跡地の駐車場を借りられたので、今夜はそこで泊まることになった。本当はもう少し先へ進むことができたが、ここら辺で休憩と情報収拾をしておいたほうが良いという先生の提案で止まることに決める。
 情報なんてネットを見れば良いではないかと思われるかもしれない。だが、昨日あったものが今日は無くなっているかも知れない戦乱の社会。新鮮で正確な情報は、ネットよりも現地の人間に聞いた方が良いのだという。
 俺は、市民が密かに管理しているという温泉に入りに行くついでに、町の配給所に足を運んでここらの地域についての情報を集めた。そこで明らかになったことは、暴走神使の支配体制や動きについてである。
 教団、それに官軍のことなど、俺の知りたい情報ではなかったものの、暴走族の領内を通って太平洋に抜けなくてはならない俺たちにとって重要な情報だ。
 そして、集めた情報からまずわかったことは、奴らは各村々にスパイを放っており、異変があると地域をまとめている小隊総長に密告を行う。そしてその指揮下の族隊が、村に押し寄せてくるというのだ。
 その情報が確かなのであれば、ここに長居することはできない。そう判断した俺達は、手遅れかも知れないが、すぐにでもこの地を出ることを考える。
それから気になる情報がもう一つある。それは、暴走族が幅を利かせることができる本当の理由は、裏で官軍と繋がっているからという情報だ。
 暴走神使と仙台官軍は、頻繁に戦いを繰り広げているからそれはないとは思われる。でも、もし繋がっているのならば、俺たちはすでに暴走族からも狙われているということになる。何はともあれ油断ができない。
 俺は、この話をメンバーへ早急に共有。先生の運転で急ぎ秋保町を抜けると、坪沼地域まで移動。暴走族が入ってこれないような林道の奥で、改めて車中泊をすることが決まる。
 俺が配給所で手に入れた弁当をたいらげると、カネスケが声をかけてくる。


「仙台って城塞都市になってるんだろ。検問やばそうだよな。」


「勿論だ。検問を通らずに市街地へ入る方法はないだろ。」


 和尚は冗談を言う。


「城壁をよじ登るか、穴を掘って下から入るか。」


 結夏はそこそこ現実的だ。


「トラックの荷台に忍び込むなんてのはどう?」


 カネスケは、単純でリアルである。


「検問ぶち抜いて、堂々と攻め込むのもアリじゃないか?」


各々の意見を聞いていると、ふと先生が仙台出身だったことを思い出す。彼なら裏ルートなり何かを知っている筈だ。


「先生は確か、昔仙台に住んでたよな?」


「ええ、私の地元ですよ。」


「秘密の抜け道とか知らないのか?」


 先生は、静かに首を横に振る。


「わかりません。私のいた当時は、城壁なんてありませんでしたから。」


 割と期待していた為、少しばかり落胆した。そんな俺を横目に先生が話す。


「まず状況を整理しましょう。紗宙が囚われている場所は、恐らくヒドゥラ教仙台本部です。そしてその本部は、仙台官軍の本拠地である青葉山城の敷地に隣接した場所にあるのです。つまり我々は、敵の一番ガードの硬い部分に潜り込まなくてはならないわけです。」


 そういうと彼は、城塞都市仙台のことを簡単に説明した。
 まず仙台の北は七北田川。西は東北自動車道。南は広瀬川沿いに広大な長城が築かれ、それにより暴走族の侵入を防ぐ仕組みとなっている。しかし、東に関しては城壁は存在せず、駐留軍が常に巡回して街を防衛しているのだそうだ。なぜなら、海が天然の城壁となっており、暴走族のクソみたいなバイクでは、海を渡って侵入するなど到底不可能だろう。その上、船で侵入しようとしても、官軍の水兵隊によって迎撃することができるということだ。
 南の城壁の数キロ外側にある名取川にも、検問兼広大な外堀が存在して、二重の厳重防備が施されている。この情報からわかることは、南側からの侵入は難易度が高い。
 そして、東からの侵入も船がない上に、小型船を借りて侵入しようにも、見つかれば即お縄にかかってしまう。最悪の場合、殺される可能性も高いので、選択肢としては選びたくはない。そうなると残りは北か西ということになる。
 俺は、住人に聞いた情報も交えながら聞いた。


「住人に聞いた話によれば、西と北は暴走族との抗争が多い地域。それ故に、城壁が高く警備も厳重だそうだが?」


 するとカネスケが意見を出す。


「仮にだが、官軍と教団がタッグを組んでいたと考えたとする。すると、青の革命団は恐らく西か南から侵入するだろうと考えると思う。故にその裏をかいて、教団本部から距離のある北側から侵入するのが得策なんじゃないかな。」


 結夏もその意見に賛成のようだ。


「確かにその通りだと思う。それに、教団本部は広瀬川の内側にあるんでしょ。東から入ったら、間に青葉山城を挟む形になってしまう。でも、北から入れば市街地をかいくぐるだけだから、難易度も下がるじゃない?」


 先生も云々と相槌を打つ。どうやら彼も2人の意見に賛同しているらしい。


「私も北側からの案は大賛成です。北は確かに目的地から距離がありますが、敷地が広大なので敵を巻きやすく、思いの外安全に事を進められるでしょう。また、私たちの真の目的地は北方にございます。北へ退く際の抜け道を考える為にも、そちらの状況を知っておく必要があります。」


 3人の考案には説得力があった。俺は、きっぱりと西側案を捨て、北側案を採用する事に決めた。しかし坪沼から北側へ抜けるには、暴走族の砦がある錦ケ丘を通る以外道がない。無駄な争いは避けたいが、通らざるを得ないのだろうか。


「さらに遠回りするか?」


「いえ、錦ケ丘を通りましょう。暴走神使は、いくら遠回りをしたところで、必ず暴走族の砦を通らなくてはならないように、上手く計算して砦を築いております。それに、このバンが最高時速何キロ出せるかお忘れですか?」



「あ、そうだったな。全速力で駆け抜ければ奴らも追ってはこれない。立ちふさがったところで、鋼鉄のボディでふっとばせるってわけか。」


 典一が改造したこのバンの性能を散々思い知らされていたというのに、あまりにも異次元級の性能が故にうっかり抜け落ちていた。
 納得している俺を見て、先生は満足そうにニッコリと笑った。


 ◇


 こうして俺は、錦ケ丘経由で城塞都市仙台の北側へ回り込む事を決める。だがしかし、これから目にする光景がどんなに残酷なものなのか、この時はまだ知る余地もなかった。







 (第十九幕.完)
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登場人物紹介

・北生 蒼(きたき そう)

劣悪な家庭環境と冴えない人生から、社会に恨みを抱いている。

革命家に憧れており、この国を変えようと立ち上がる。

登場時は、大手商社の窓際族で、野心家の陰キャラサラリーマン。

深い闇を抱えており、猜疑心が強い。

非常に癖のある性格の持ち主ではあるが、仲間に支えられながら成長していく。

紗宙に対して、淡い恋心を抱いている。


※青の革命団のリーダー

・袖ノ海 紗宙(そでのうみ さら)

蒼の地元の先輩であり、幼馴染でもある。

婚約者と別れたことがきっかけで、有名大学病院の医療事務を退社。

地元に戻ってコンビニでバイトをしていた。

頭も良くて普段はクールだが、弟や仲間思いの優しい性格。

絶世の美人で、とにかくモテる。

ある事件がきっかけで、蒼と共に旅をすることになる。


※青の革命団の初期メンバー

・直江 鐘ノ助(なおえ かねのすけ)

蒼の大学時代の親友。

愛称はカネスケ。

登場時は、大手商社の営業マン。

学生時代は、陰キャラグループに所属する陽キャラという謎の立ち位置。

テンションが高くノリが良い。

仕事が好きで、かつては出世コースにいたこともある。

プライベートではお調子者ではあるが、仕事になると本領を発揮するタイプ。

蒼の誘いに乗って、共に旅をすることになる。


※青の革命団の初期メンバー

・諸葛 真(しょかつ しん)

自己啓発セミナーの講師。

かつては国連軍の軍事顧問を務めていた天才。

蒼とカネスケに新しい国を作るべきだと提唱した人。

冷静でポジティブな性格。

どんな状況に陥っても、革命団に勝機をもたらす策を打ち出す。

蒼の説得により、共に旅をすることになる。


※青の革命団の初期メンバー

・河北 典一(かほく てんいち)

沼田の町で、格闘技の道場を開いていた格闘家。

ヒドゥラ教団の信者に殺されかけたところを蒼に助けられる。

それがきっかけで、青の革命団に入団。

自動車整備士の資格を持っている。

抜けているところもあるが、革命団1の腕っ節の持ち主。

忠誠心も強く、仲間思いで頼りになる存在でもある。


※第三幕から登場

・市ヶ谷 結夏(いちがや ゆな)

山形の美容院で働いているギャル美容師。

勝気でハツラツとしているが、娘思いで感情的になることもある。

手先が器用で運動神経が良い。

灯恵の義理の母だが、どちらかといえば姉のような存在。

元は東京に住んでいたが、教団から命を狙われたことがきっかけで山形まで逃れる。

流姫乃と灯恵の救出作戦がきっかけで、革命団と行動を共にするようになる。


※第十幕から登場

・市ヶ谷 灯恵(いちがや ともえ)

結夏の義理の娘。

家出をして生き倒れになっていたところを結夏に助けられた。

15歳とは思えない度胸の持ち主。

コミュ力が高い。

少々やんちゃではあるが、芯の通った強い優しさも兼ね備えている。

秋田公国に拉致されたところ、革命団に助けれる。

それがきっかけで、共に行動することになる。


※第十幕から登場

・関戸 龍二(せきど りゅうじ)

『奥州の龍』という異名で恐れられた伝説の不良。

蔦馬に親族を人質に取られ、止むを得ず暴走神使に従っていた。

蒼と刃を交えた時、彼のことを認める。

革命団が蔦馬から両親を救出してくれたことに恩を感じ、青の革命団への加入を決める。

寡黙で一見怖そうだが意外と真面目。

そして、人の話を親身になって聞ける優しさを兼ね備えている。

蒼にとって、カネスケと同等に真面目な相談ができる存在となる。



※第二十一幕から登場。


・土龍 金友(どりゅう かねとも)

ヒドゥラ教団の教祖。

信者からは法王と呼ばれている。

多くの政治家を洗脳。

日本政府を裏から操っていると噂されている。

残虐非道な性格で、子供狩りや拉致、拷問や人体実験など、人道に反する行為を容赦なく行う。

青の革命団の宿敵。


※第十五幕から登場

・リン

全てが謎に満ちた存在。

圧倒的美貌を持ち、男女関わらず簡単に魅了してしまう恐ろしい人物。

人が苦しむ姿を見て快楽を覚える凶悪な性格。

灯恵のボーイフレンドの気流斗を射殺。

蒼に対して、謎の予言を残す。

青の革命団の敵であることは間違いない。


※第十二幕から登場

・新藤 久喜(しんどう くき)

ヒドゥラ教団仙台支部の支部長。

教団の幹部で神格を授かりし8人の1人。

教団の敵に対して容赦ない制裁を加えたり、子供狩りを積極的に進めるなど残忍な男。

金友に心酔していて、彼の命令であればどんなことでも実行する。

リンのことを恐れている。


※第十二幕から登場

・酒又 小太郎(さかまた こたろう)

ヒドゥラ教団忍者部隊の棟梁。

教団新潟支部の支部長である官取井の用心棒的存在。

忍術を使い、周囲から恐れられる存在。

勘が鋭く頭がキレる。

ヘビースモーカーであることを隠しきれるくらいの体力と腕力を持っている。


※第七幕〜第八幕で登場

・桧町 亜唯菜(ひのきまち あいな)

秋田公国の植民地である山形北部の新庄地域の領主。

先生曰く、元ミス山形。

プライドが高く自尊心が強い。

その性格故に、公国内で華々しい出世を遂げて領主まで上り詰めた。

リンとは旧知の仲。

彼女のことを非常に恐れていて、腰巾着のようにへりくだっている。


※第十二幕〜第十四幕で登場

・大崎 蔦馬(おおさき たつま)

奥羽列藩連合暴走神使の七雄の1人。

古川ブラッドの総長。

元ギャル男モデルで、様々な人脈を駆使して暴走神使の幹部まで上り詰めた実力者。

残忍で冷酷な性格。

龍二の身内を人質に取り、彼やズミールに悪事を行わせていた。


※第二十二幕で登場

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