第十五幕!山寺
文字数 8,207文字
当初は、新庄から古川へ向けて、奥羽山脈を抜ける予定であった。だが、公国に目をつけられたことにより、その案は白紙に戻ってしまう。
山形自動車道は、官軍に封鎖されていて通ることはできない。どこか裏道はないか。そう考えていると、結夏がある意見を出した。
「美容室のお客さんから聞いたことがあるんだけど、山寺近辺に仙台へ抜ける裏道があるらしい。」
「その道はどんな道なんだ?」
「詳しくは知らない。でも相当険しい道って言ってた。」
「車が通れるのであればなんとかなるな。」
「バンはわからない。でもそのお客さんも車でそこを通ったって言ってたから、きっと通行はできるはず。」
俺は、彼女の話を信じてその道を選ぶことに決めた。通れない可能性もあるが、通れる可能性もある。選択肢が見出せない現状から抜け出す為にも、少しでも希望があればそれに賭けてみるのが正解だ。
話が決まる。すると先生が言う。
「そのルートを通るのであれば丁度いい。立石寺に寄ってから仙台へ向かいましょう。」
「寺だと?何か用事でもあるのか?」
「昔、お世話になった人が住職をやっていまして、その人に挨拶がしたいのです。それに、気流斗君の葬儀もしなくてはいけないでしょう。」
先生は、俺以上に仲間思いなのかもしれない。俺が忘れていた大切なことのことまで、しっかりと考えていてくれた。彼は、策略や仕事だけに止まらず、コミュニケーションにおいても一流だ。
話を聞いた流姫乃は、申し訳なさそうに答える。
「そんな。それは私の方でやりますから、皆さんは先に進んでください。」
俺は、彼女に言葉をかけた。
「急いでる。でも気流斗も一緒に戦った同志だ。最後まで付き合うのが礼儀だろ。それに、結夏と灯恵にとっては大事なイベントだ。」
流姫乃が感謝の言葉を述べながら泣いた。先生は、彼女へハンカチを差し出す。
「過去にけじめをつけてから、前へ進みましょう。」
俺と先生の決定に、反対する者など勿論いない。別に強制をしたわけでもなく、各々が自らの良いと思って受け入れてくれたのである。
こうして俺たちは、まず山寺へ向かうこととなったのだ。
◇
翌日の早朝。何か嫌な予感がして4時前には目を覚ました。なんだかわからないが、早くこの場所を出なくてはいけないような気がしたのだ。顔を洗いに行くと、典一がすでに起床している。彼は小窓から外を見ていた。
「誰かに目をつけられてますな。」
心に緊張が走る。
「教団か?秋田公国か?」
「わかりません。ただ、場所を知られている以上、ここがいつ狙われてもおかしくありません。」
「嫌な予感がしたがこれのことだったか。敵に先手を打たれる前にここを出よう。」
「それが良いでしょう。皆を起こしてまいります。」
そう言うと、彼は全員を叩き起こした。無理やり起こされた面々は、若干イラつきを覚えていた。しかし、俺と典一の顔つきが緊迫していることを察すると、みんな疾風の如く準備を開始する。女性陣が化粧がしたいと文句を言ってきたが、車の中でしてもらうようになんとか話をつけた。
個人的には、化粧なんてしなくても、目の前にいる4人は美人であると思うのだけど。
みんながせかせかしている中で、先生は変わらずに冷静だ。一足早く準備を済ませると、椅子に座ってパソコンをいじっている。もちろん情報収集の為だが。そんな彼に菓子パンを差し出してから尋ねる。
「奴らの狙いはなんだと思う。」
「我々の抹殺でしょう。」
彼のストレートな一言に背筋が凍る。今まで敵の根城に潜入したり、道中で遭遇して戦うことはあっても、向こうから付け狙ってくるようなことはなかった。その為、常に敵に狙われ続ける怖さには慣れていない。それに付け狙ってきている敵がリンみたいな奴だったらと思うと、考えるだけで血の気が引く。
「今は逃げることで精一杯だ。だが、今後は刃を交えて向き合っていかなくてはならない。どうすればいいか?」
「修行あるのみです。その修行に関しては考えがございますので、車の中でお話しようかと思います。」
もったいぶるなと言いたかったが緊急事態である。荷物をまとめると俺たちは急いで車に乗った。
流姫乃は、気流斗を抱きかかえて後部座席に座る。季節が夏ということもあり、弟の死体は徐々に腐り始めていた。匂いを抑える為にトランクにいれようかと検討したが、それには彼女が反対した。なぜなら、最後の最後まで弟に触れていたかったからだ。
全員がバンに乗り込んでから、典一が家の周囲を念入りに確認する。しかし、敵が迫っている気配は無いとのことである。いったい奴らはどこへ姿を消したのか、それがわからないことが不安を大きくしていく。
遠くで登り始めた太陽が眩い光を放っている。俺は、運転席に座りエンジンをかけ、静かにアクセルを踏む。すると車がスムーズに住宅街を走り出した。
大通りの角を曲がったあと、後方から仙台官軍の車両が3台走ってくるのが見えた。徐々に接近する彼らを見て、止まった方が良いのではと思ったが、助手席に座っていた先生が俺の行動を制止する。
「速度を上げて距離を取ってください。」
彼らは味方だから逃げる必要なんてないだろ。そう思いながらもバックミラーを確認すると、一番前の車両の助手席に座っている男が散弾銃を構えている。始めは何かの手違いだと鷹を括ったけど、念の為に速度を上げる。すると、仙台官軍が拡声器で警告を促した。
「前の車両止まりなさい!貴方達がテロリストだということはすでに調査済みだ!逃走は諦めて直ちに降伏しなさい!」
どうやら国家からテロリストに任命されてしまったようだ。カネスケが呑気に後方の敵を眺めている。
「ついにテロリスト呼ばわりされる時がきちまったか。慣れねーな。」
紗宙は、若干苛ついていた。
「こじつけにも程がある。」
何がなんだかわからないが、仙台官軍はすでに敵に回った。誤解を解くべきか考えたけど、下手に捕まって時間の無駄をしたくはない。
「奴らの思惑はわからないけど、俺たちのイメージダウンを狙っていることは間違いないな。」
とはいえ俺は、国家からテロリスト認定されたことに動揺していた。多数派から嫌われたらこの世界では生きては行けない。そういう一般的な社会の常識が今だに心を締め付けていたのだ。
下を向いて手で顔を覆う俺に先生が語る。
「気にすることはありません。なぜ彼らが牙を向いたのかはわかりません。ですが、戦乱の日本国において、大事なことは国家に従うか従わないかではございません。国家の危機を解決できるかできないかが一番重要なのです。この国を再統一して、本当に誰もが平等な平和を作り上げたものが正義であり、堕落した国家を転覆させたテロリスト達が決して悪いとは言えません。」
彼の意見には説得力と希望がいつも含まれていて、それを聞くと何故か自己肯定感が上がるのである。
「先生の言う通りだな。弾圧されようが何が起ころうが。俺たちは、成し遂げたいことをただ純粋に成し遂げていくだけでいいんだ。」
そんなことを言っている間に市街地を抜けた。すると、さっきの散弾銃を所持した男は、窓から身体を出してバンのタイヤへ向けて発砲した。 間一髪のところでかわしたが、あまりにも危険すぎた。
この時に俺は、先生が猟銃を使いこなせることを思い出したのだ。そして彼に命を下す。
「あの散弾銃男を射殺できるか?」
「かしこまりました。」
彼は即答すると、カネスケが埼玉で入手した猟銃を受け取る。そして、窓ガラスを開けて身体を乗り出し、ズバンという音と共に一瞬で敵を撃ち殺した。
高速走行中で、しかも敵の攻撃を交わしながら進むバン。不安定な状況下にして、一瞬で的確に動く的を狙い撃ちした彼は、天才としか言いようにないだろう。
彼は、窓を素早く閉めて一息ついた。
「任務完了いたしました。」
あまりの早さに感心して、つい拍手を送ってしまう。他のメンバー達もその天才的な腕前に歓喜の声をあげた。
「これで俺たちは、名実ともに非国民となった訳か。」
余裕をぶっこいて言い放ったが、手の震えが妙に目立つ。俺は、どこか後悔している自分に苛立ちを覚え、思い切り爆弾投下スイッチに腕を叩きつけた。投下された爆弾は、ピンポイントで奴らの車両に的中。見事に敵を全滅させた。
俺は気持ちを振り切ったが、まだ少し息が荒かった。そんな俺の肩に紗宙が手をおいた。
「大丈夫。みんなついているから。」
誰にでも言えそうな何気ない言葉だ。でも、その時の俺に取っては非常に心強い言葉であった。それに乗っかるように灯恵も慰めの言葉をかけてくる。
「私たちが日本人。あいつらは偽物の日本人。こういう考え方もあるんじゃないか?」
「確かにな。偽物の日本人を滅ぼして、こっちが本物だと証明してやらないとな。」
その時だ。カネスケが疑問をぶつけてくる。
「ま、俺たちにとっては、誰がかかってこようがどうでも良いんだけど、流姫乃や結夏が残してきた美容院はどうすんの?」
確かに彼の言う通りだ。俺たち非国民に加担したとあれば、官軍や政府がどんな制裁を加えてくるかわからない。
「店長に経緯を説明してある。だから大丈夫。」
結夏はそう言っているが、流姫乃は悩んでいた。自分が原因で、お店に迷惑をかけてしまったからだ。
「気にしないで。流姫乃のせいじゃないから。」
「でも、お店に万が一のことがあったら...。」
「店長には、私を悪者にしても構わないって言ってある。」
流姫乃は、手で額を抑えながら、深刻そうに俯いていた。
「ごめんね。勝手に話を進めて。」
「ううん。そうじゃなくて、しばらくお店に行けないのさみしいから。」
結夏は、苦し紛れに言う。
「とりあえず、ほとぼりが冷めるまでは休職ってことにしてある。」
仕事を休むとはいえ、山形市に残れば流姫乃は狙われるかもしれない。紗宙が疑問に思い結夏へ尋ねる。
「流姫乃さんは、ほとぼりが冷めるまでどうするの?」
「実は、今から行くお寺、孤児やお尋ね人の保護もしているらしいの。だからお願いしてみようかなって。」
流姫乃は、なれない環境へ移ることに不安げな顔をする。それを見た先生は、スマホで寺の情報を検索。その画面を彼女へ見せた。
「結夏さんの言う通り。山寺では、人の保護も請け負っています。ほとぼりが冷めるまで匿ってもらいましょう。」
流姫乃は、相変わらず申し訳なさそうにしていたが、最終的にはその方向で動くことが確定した。
典一が改めて後方を確認したが、新手が追ってくる気配もない。しかし、グズグズしているとまた追ってくるだろう。俺は、時速150kmを超える猛スピードで山寺方面へバンを走らせた。
◇
山間の道を線路に沿ってひたすら走ると、小さな寺社町が姿を現した。この山寺という地区は、山形市と仙台官軍の本拠地である仙台市、秋田公国の領地、この3つの勢力の真ん中に位置している。それ故に、暴走族や山賊の被害も少なく、平穏が存在していた。
俺たちは、駐車場に車を止めると正門から寺へ入った。そこで見た光景は、この戦乱社会に突入しても観光客がちらほら訪れていて、かつてほどではないが反映しているお寺の姿であった。
腹ごしらいのために立ち寄った茶屋にて、近くにいた観光客へどこから来たのか尋ねてみた。すると、北海道や関西、福岡や山梨など、様々なところから危険を冒してまでここに来たのだという。そして観光客の中には、疎開の場を探すために比較的平穏と噂されている地域を求めている者も少なくない。もうこの国は、東北のみならず、全国的に殺し合いや奪い合いが当たり前の世紀末となってしまったのだ。
世の中は確実に動き出している。その波に乗りきるためにも、なんとか力を得なくてはならない。茶屋を出てから、ずっとそんなことをばかり考えたいた。
茶屋から100メートルほど歩いた先に山門がある。観光用のチケット売り場と券のもぎり場が設けられていて、本来であれば中へ入るにはお金が必要だそうだ。
門の前に着くと、前方から1人の坊さんがやってきた。坊主頭で和服を着ている、いかにも寺の坊主といった風貌である。歳は恐らく50前後だろうか、額の皺と目尻、そして貫禄ある雰囲気がそう思わせた。
「真、真じゃないか!久しぶりだな!」
「羽前和尚、お久しぶりでございます!」
彼は羽前和尚と言って、このお寺の住職をしている。かつて、先生に勉学を教えていたことがあったのだとか。
「ここへ来たのには、何か理由があるのであろう。ただ遊びに来ただけではないよな?」
「ただ遊びに来ました。っと言いたいのは山々なのですが、今回はそんな生易しいお話ではございません。」
先生がここに来た経緯を全て話した。それを聞いた和尚は、テロリストのような行為を咎めることもなく、その逆に俺たちの思いを受け入れてくれた。
「国家に目をつけられるとはさすがじゃな。」
「いつかはその国家の目を潰して見せます。」
彼は、先生の攻撃的なジョークで大笑いをしている。意外と優しい人なのかもしれない。それが俺から見た印象だ。
笑いがひと段落つくと、彼が寺の入り口を見ながら、官軍への対策を教えてくれた。
「一先ず、車を寺の裏駐車場に移動して隠せ。いつ追っ手が来てもおかしくない。それから一同は、しばらく奥の院付近に新設した、ワシの修行部屋で過ごすと良い。そこなら、いくらしつこい追っ手でも見つかることはないだろう。」
先生の知り合いとはいえ、国から敵視されている俺たちへここまで気を遣ってくれるとは思いもしなかった。俺は、彼へただならぬ恩を感じて頭が上がらない。
「和尚、お計らい本当に感謝致す。」
「困った時は助け合わないとな。」
彼は、キリッとした笑顔でそう言うと、弟子に指示を出した。その弟子の案内のもとに、車を移動させる係の先生と典一以外は山へ登る。
彼の弟子たちは、あからさまではないが、目つきが凡人とは違う強さを秘めている。きっと、キツい修行に耐えてきたことなのだろう。奥の院に着くまでに歩いたこの1000段はありそうな階段が、その過酷な修行を物語っているような気がした。
◇
奥の院から少し山の中に入ったところに、和尚の作った秘密の修行部屋が建っていた。建物自体はこじんまりしているが、俺たち全員プラス10人くらい入れる部屋があった。また、庭はそこそこの規模で、武道の演習でもやったりするのであろうと想像できる。
部屋に全員が集まったところで、先生が俺にある提案を述べた。
「今日から約3ヶ月の間、この山に籠って修行をしてみては如何でしょうか?」
「良い案だな。しかし、俺たちには時間が無い。それに和尚の許可も必要だろ。」
「和尚の許可はとってあります。時間に関しては、先を急いで苦戦するよりも、力を蓄えてから進んだ方が効率は良いでしょう。」
「なるほど。先生がそういうのであればそれに決めよう。」
「では明日より、和尚やその弟子たちにも教えを請いながら修行していきましょう。」
とはいえ、寺の修行とはいったいどんなことをするのだろう。そもそも先生は以前、基礎的な戦闘から射撃まで教えると話していた。それと今回の修行は関係しているのであろうか。
そして1番気になったのは、和尚はお坊さんであるので、彼からどのような武術が学べるのかということだ。
「和尚は、何か格闘技をやっていたのか?」
「もちろんでございます。和尚は剣道8段、柔道10段、プロボクサーライセンス所持、その他空手、テコンドー、システマ、フェンシング、合気道、レスリング、様々な武の付きそうな競技に精通し、技という技を研究し尽くした技博士でもあります。」
俺は、冷静に語る彼へ疑いの目を向ける。
「そんな奴がこの世にいるわけないだろ?」
「いますよ。それが和尚です。」
「ふっ。胡散臭いがやってみなければわからないか。」
「ええ、やってみれば私の言ったことが本当だと、身をもって突きつけられるはずです。」
「それは楽しみだな。」
「彼の修行は、死ぬ覚悟でやらないと耐えきれない部分もございます。しかし、リーダーならきっと成し遂げることができるでしょう。」
先生の発言に俺はちょっとひよったが、最後には力強く返事をかました。隣で聞いていたカネスケは、先生に恐る恐る質問する。きっと彼のことだから、修行の具体的な内容が気になるのであろう。
「先生。具体的に俺たちは和尚から何を学び取るんですか?」
「戦いにおいての基礎体力と基本的な身体の使い方です。」
「え、それだけですか?」
「それ以上のことは自分で掴み取りなさい。思わぬところにヒントは隠されているものです。」
カネスケは、聞きたい情報が得られなかったことで、煮え切らない顔をしていた。そんな時、和尚が部屋に入ってくる。
「寺の正門に仙台官軍の方々がいらっしゃったそうじゃが、我が弟子たちの機転によって、寺の捜査を諦めて帰っていったそうじゃ。」
その場にいた全員が安堵の溜息をつく。修行の話に熱中して、つい奴らの存在を忘れてしまっていたが、これで心置きなくこの寺で過ごすことができる。俺が深々と頭を下げると和尚は言う。
「気にすることはない。それよりも、明日からの修行の覚悟しとくがよい。ここで死ぬようなやわな奴じゃこの先で必ず戦死する。しっかりとついてくるのだぞ。」
「こんなところで倒れる気はございません。必ず強くなってこの寺を出ます。」
「ふははははは。そうかそうか、ではワシも本気で稽古をつけるとする。楽しみにしとるぞ。」
「おう!」
俺は、ビシッと返事をすると、カネスケも負けじと大きな声で返事をする。
俺もカネスケも紗宙も、ただの一般人である。先生のような全知全能でもなく、リンのように相手を支配できるほどの美貌や魅力もない。結夏みたいに国家資格を持っているわけでもなければ、典一や和尚みたいに武を極めたわけでもない。
何もない人間は前だけをみて、何もない自分に何かを与えていかなくてはいけないのだ。俺たち凡人が生まれ変わるための第一歩が始まろうとしていた。
◇
時は過ぎ、夏が終わり世間が秋に足を踏み入れた頃。東京では、秋雨の影響で長い長い雨模様が空を覆っていた。全国で騒乱の渦がうごめき始める中で、この大都会も徐々に真っ黒に染まり始めている。
赤坂のとある料亭の駐車場には、ヒドゥラ教のエンブレムをつけた高級車が並んでいた。車から降りたスキンヘッドの大男は、高級の袈裟を着ている。
彼は、隣にいる頭が切れそうな長身の執事のような男をあごで使う。
「戸村。ここのところ、我々教団に仇なすゴミ虫が湧いてきているようだな。」
「さようでございます。奴らは自分たちのことを『青の革命団』と名乗っているとのことです。」
「青の革命団か...。古臭い名前だ。」
「沼田の施設を襲撃、佐渡で官取井を捕縛、新庄の抗争にて我が教団の信者を殺害。奴らは少し出しゃばり過ぎましたな。」
「ヒドゥラ教の神々、そしてこの土龍金友に楯突こうとは愚かな者どもよ。」
「法王。早急に久喜に命じて、ゴミ虫どもを抹殺させましょう。」
金友は、雨空を見上げながら、露悪的な笑みを浮かべた。
「それも良い。だが、青の革命団を名乗る奴らがどの程度の者どもなのか、我が自ら出向いて見定めてやる。」
「恐れ多くも、法王自ら出向くほどの奴らではありますまい。ゴミ虫の抹殺は久喜に任せましょう。」
金友が鋭い眼光で彼を睨む。同時に雷がどこかへ落ちた。その光に照らされた法王金友は、神々しく、計り知れない威厳を放っていた。
「戸村、我に意見するか?」
戸村は跪いた。
「申し訳ございません。」
「虫ケラを潰すちょっとした娯楽よ。」
「そう致しましたら、東北へ行く準備を始めます。また久喜には、奴らの居場所を早急に見つけ出すように指令を出します。」
「青の革命団、北生蒼。どんな奴らなのか楽しみだ。」
そう言うと金友と教団の幹部たちは、料亭の中に姿を消した。雨空は次第に雷雨へと変わり、日本国の中心を闇で覆っていくのである。
(第十五幕.完)