第四幕!決行の日
文字数 7,661文字
そうボヤくと、遠くにたたずむ敵の施設を見つめた。さっき先生から届いたメールによれば、3人が敵を引きつけつつ脱出した後に合図のメールが届く。そしたら施設の裏手にある調理場めがけ、打ち上げ花火を打ち込んで欲しいとの事だ。こんな作戦で上手くいくのか検討が付かないが、先生を信じるしかない。
しかし、先生達は脱出できるのだろうか。どちらかといえばそっちの方が心配だ。合図予定時刻は15時。後30分何をしていようか迷う。
隣ではまだ傷の癒えない典一が、先生のバンの周りを歩きながら車体を観察している。
「手入れが行き届いている。さすが先生、細かい部分まで抜かりがない。」
典一は、まだ出会って1週間足らずなのに、先生のことを大層慕うようになっていた。それだけ先生は人を惹きつける天才的な魅力があるのだ。
俺もそのうちの1人で、彼と出会ってから人生の軌道が上向いたような気がしている。そんな彼を部下として引っ張る立場に立ったのだから、カッコ悪い真似だけはできない。
「人にはとやかく言わないが、自分にはストイックな方です。本当に尊敬してます。」
「先生と蒼殿はどのような繋がりなのか?」
「元々は、講師と生徒の関係です。今はリーダーとチームメイト。なぜか先生は、自分をリーダーとせずに私をリーダーに指名しました。」
「それは蒼殿に見込みがあると判断したからではないかな。」
俺は首を横に振る。
「いえ、先生曰く、言い出しっぺだからとの事です。」
「いやいや。リーダーとは、チームメイトの運命を預かる立場。そのような理由だけで、自分の命を捧げるような真似をする人ではなかろう。」
確かにその通りだけど、先生がそんな理由で能力も対してない俺みたいな陰キャラに命を預けるのだろうか。疑問が拭いきれない。
「果たしてどうでしょうね。ただ、今は自分ができることへ全力を注ぎ、皆を導いていくことが役目。先生の判断を信じるしかないです。」
「そうだな。俺も自分の役目に全力でぶつかる以外に今できることはない。そしてこれからも。」
彼がそろそろ行くかと言って車に乗り込むと、俺もそれに続いた。
助手席に座った辺りで、心から溢れ出ていた緊張が一気和らいでいく。もうやるしかない、そう身体でも感じるようになったからなのだろう。
◇
施設の近くまで来た。奴らの巣が異様な雰囲気が漂っている。俺たちは、花火を持ち出し構える。
打ち上げ花火を何かに向けるなど、やられた事しかない。あれは俺が中学生の時。今でも思い出したくない記憶だ。脳裏に浮かぶと破れるような頭痛が走る。
塞ぎ込んでいると、施設の方から騒音と罵声が聞こえてきた。そして先生から一通のメールが届く。
『今です!』
ただそう書かれたメールから、力強い指示が感じ取れた。
俺は、コンビニで売っている大きめの打ち上げ花火に火を付け、建物に向けて撃ち込んだ。火の玉がヒュルルルという間抜けな音と共に施設めがけて飛んでゆく。
その音を聞きながら急ぎ車の裏に隠れ、しゃがんでうずくまった。すると間も無く施設から轟音が発せられ、爆風と家屋の破片がこちらまで飛んできて車に次々と衝突。
ゴツい衝突音も聞こえたことから、重たい残骸がこちらへ飛んでくるほどの爆発だったのだろう。
爆風も収まり、恐る恐るその方角を見渡すと、施設は跡形もなく吹き飛び、周囲の田畑は瓦礫が散乱している。
俺は、思わず雄叫びを上げかけたが、遠くを見ると奴らがこちらに気付いたようだ。そして、数名が引き返してくるのが確認できる。
慌てて車へ乗り込むと、典一が俺に尋ねる。
「花火まだあるか?」
キーボックスに予備で潜ませていた花火を手渡すと、彼が車を奴らめがけて走らせた。まさかこのバンで奴らを吹っ飛ばすのかと思いきや、そうでもないようだ。
猛スピードで迫り来るバンに轢き殺されかけ、恐れおののく教団の下っ端めがけて、典一が花火を撃ち込んだ。人間の悲痛を堪える声が花火の音以上に響く。
典一は、またすぐさまバンを切り返し、そのまま合流地点めがけて走らせる。彼は、とてもスッキリした顔をしていて、燃え上がっていた執念が少しばかり落ち着いたことだろう。
◇
合流地点に俺達が到達すると、3人が息を切らせながらこちらへ走ってくる。その後ろには、10数人の信者達が必死の追跡をしてきていた。その光景は、まさしくゾンビの群れだ。
その信者の1人が拳銃を抜いて発砲。弾は車のサイドミラーに直撃してミラーが大破。3人は、まさか奴らが拳銃を所持していたとは思っていなかったのであろう。更に必死でこちらへ駆けてくる。特にカネスケと紗宙は、冷静という物を失っていた。その時、信者の拳銃の銃口の矛先が、紗宙へ向けられた。
奴が引き金を引こうとしている。俺は、最後の花火を手に取って車から降り、そいつの顔面めがけて火の弾を放った。一か八かであった。火の玉は、先生と紗宙の間を駆け抜け、奴の首元で破裂。
信者は血だらけになり倒れた。だが、奴も意地っ張りのようである。命中する直前に引き金を引き、発砲された銃弾が俺の右肩を貫く。
俺は、車に寄りかかるように倒れこみ、駆けつけた先生と紗宙に担がれて後部座席へ乗せられた。
カネスケは、助手席に乗り込み窓を開け、そして奴らに中指を立てる。
「青の革命団だ!!お前らの野望は、俺達がいる限り果たされることはない!!!!!」
リーダー格の信者が、隠していたボウガンを手に取り、車めがけて矢を放つ。そして狭い道に入りかわす余裕もないバンを矢が貫いた。
幸いケガ人は出なかったが、車の一部に穴が空いた。先生と典一意外の3人は、その破壊力を目の当たりにしてから、いつ死んでもおかしくない恐怖に包まれてしばらく何もできないでいた。
典一は、アクセル全開で道を駆け抜ける。対向車線には、爆発の通報を受けて現場に急行するパトカーと消防車が群をなしている。運転席の典一は、何もなかったかのように平然とした顔で運転。他4人は、念の為に顔を伏せて隠した。
その頃の俺の顔は、右肩の激痛でむちゃくちゃになっていた。出血も止まらない。先生と紗宙が応急措置をしてくれたものの、血が固まる気配を見せてくれない。
典一が知り合いの病院を紹介してくれるということで、至急その病院へ急ぐ。その最中、苦痛に悶える俺に紗宙は寄り添ってくれた。
彼女は、流れ出る血を見ながら、涙ながらに謝罪を繰り返す。
「本当に...、ごめん...。」
俺は、紗宙は悪くないと一言いうと、また無言に戻る。今まで味わったことのない激痛は、言葉を1つ発しただけでも全身を刺激して体力と精神力を削ぎ落としていく。
話す気力すらなかった。まさか、身体を銃弾で貫かれるという経験を生きている間にするとは夢にも思わなかった。死ぬほど苦痛な人生経験が故に嫌な頭痛が襲う。そしていつのまにか、俺の意識は飛んでしまっていたのだ。
◇
目の前には、手の項にタバコを押し付けられ呻き声をあげる旧友。そして、今でも殺したいくらい嫌いな奴らがいる。呻き声がやむと奴らは旧友を鉄パイプで殴打。這いつくばっているところを、お前は劣等者だと罵声を浴びせながら蹴り続けていた。
そして今度は俺の番だ。金を持ってこれなかったという理不尽な理由だ。柱にくくりつけられ、手持ち打ち上げ花火を向けられる。そして、親の銀行の口座を教えるまで火の玉を浴びせられ続けた。
学年主任の先生がたまたま通り掛ったが、見て見ぬふりだ。その日、足と腹に火傷を負った。
痛い痛い痛い。そう叫び目の前を見たら白い壁が現れた。
◇
痛い身体を起こすとそこは病院だ。隣を見ると、紗宙が突っ伏して寝ていた。
そういえばあの当時、こうやってまた一緒に行動しているなんて思いもしなかった。なぜなら彼女は、俺の嫌いなカースト上位のグループに所属していたからだ。学年は違えど、彼女が彼女の学年で一番可愛かったのは確かである。
だからこそ、彼女と一緒に居れる何気無い一瞬も、もしかすれば奇跡と呼んでも良いのかもしれない。もう一眠りしたいがここもいつ見つかるか分からない。痛みを堪えながら先生に電話をかけると、彼はすぐに応答してくれた。
「身体の具合はどうですか?」
「ああ、すこぶる悪いよ。」
「無理をなさらないでください。」
「先生、2つ話があるのだが大丈夫かな?」
先生がハイと答えると、俺は無理をしながら早めの口調で話す。
「1つは、やはり先生は俺に敬語を使わないで欲しい。確かに俺は、立場的には先生よりも上にさせて頂いたのかも知れない。でも、まだ先生に支えて貰わなくては何もできない半人前だ。仰ることもわからなくないが、どうか敬語など使わないで頂きたい。」
すると先生が即答する。
「それはなりません。まだ私に教えを請いたいのであれば、尚更でございます。」
「なぜだ??」
「立場が逆転してしまいます。あくまでもあなたがリーダーで私は部下。その関係をはっきりさせておかねば、後の災いにも繋がりかねません。」
そう言われて改めて考えたが、やっぱり納得ができない。その為、彼を説得しようともう一度同じ内容を伝えてみたが、先生の意思は固いようである。彼の性格からして、一度決めたことは余程のことがない限り曲げないだろう。
「なるほど。そこまで言うのであれば仕方がない。」
「敬語でも物事は教えられます。これからもお願いします。」
俺は、それを受け入れることに決め、右往左往する間も無く話題を変えた。
「2つ目は、居場所が知れ渡るのも時間の問題だ。怪我のことは大丈夫だから、すぐにここを出よう。」
「ですがその傷では...。」
「こんなものこれから何度も負うだろ。いちいち気にしている暇なんてないんじゃないのか?」
「承知しました。しかし新潟へ着き次第、数日間療養してください。リーダーが死んでは、このチームは成り立たないのですから。」
「わかったよ。とりあえず切るぞ。」
俺は、先生の心配を踏み躙ってしまったことを少し悔いつつも、出立の時刻を確認して電話を切った。
このような傷はこれから何度でも負う。自分で言っておいてあれだが、考えるだけで震えが止まらない。
その時、微かな視線を感じて横に目を向けると、紗宙がこちらを見つめている。どうしたと尋ねると、彼女は目を逸らす。
「何でもない。あんまり無茶しないでよね。」
「気にさせてごめん。でも、俺はまだまだやれる。」
「そっか...。なら協力する。」
彼女も心の底では納得していないように思える。それもそのはずで、自分のせいでついた傷が原因で俺が死んだらどうしようと言う気持ちでいっぱいなのだから。
だとしたら俺は意地でも死ねない。それに、無理をしてでも強い姿を見せれば、彼女も少しは安心してくれるかも。
そう思い俺は立ち上がる。しかし、肩に激痛が走り、どう強がっても身体がよろけてしまう。まずい、これじゃあ彼女に余計心配をかけさせてしまう。
その不安を払拭しようと、ゆっくりとドアの方へと歩いた。すると紗宙が肩を差し出してくれる。
「責任くらい取らせてよ。」
彼女がさりげなくそう言ってくれた。俺は、その優しさに感謝をしながら、肩を支えられて部屋を出る。
部屋の外には、かけつけた先生と典一が立っていた。2人とも心配そうにこちらを見てくる。
俺は、そんな目で見るなと言わんばかりの鋭い視線で典一に尋ねた。
「今後はどうするんですか?」
「蒼殿と皆さんには恩がある。だから俺も付いていきたい。」
彼は冗談とかではなく本気のようだ。仲間が増えることは、この上なく嬉しい。その反面、4人だけの独特の空気感が変わってしまうのは寂しい。
俺が何も言わないのを見るや、先生は補足を加えた。
「実は、私がお願いしたのです。典一は、今回の騒動もあって道場を閉めることとなりました。それ故に、行く宛がにいのであればとお誘いした次第でございます。彼は、格闘技もやっていて戦力にもなりますし、自動車整備士の資格を保持しているので、先程バンの修理を依頼しましたがそうとうな実力の持ち主です。仲間に加えるメリットは大いに存在します。」
「いやー、そんな褒められると嬉しいな。」
典一が先生に褒められ、照れくさそうに頭をかいている。
だが、彼にはこの町に知人や大切な存在が沢山いるはずだ。それを捨ててまで本当についてきてくれるのだろうか。
「本当に良いのですか?」
「おう、死ぬ気でお役に立たせて頂きます。それとリーダー、俺に対しても敬語はやめてくだせい。」
彼は、いつの間にか俺のことをリーダーと呼んでいた。その見た目とはそぐわぬ絡みやすい性格に心を動かされ、彼を味方に付けることを決めた。
「承知した。典一、宜しく頼む。」
彼が喜んで頷いた。典一が加入したことで、この組織がどのように変わってゆくのか、第三者目線ではあるが見物である。
◇
4人が裏口から病院を出ると、カネスケがバンの外でタバコを吸っていた。時計の針は、もう深夜2時を回っている。闇に覆われた空には、無数の星が煌めいていた。
しかし、呑気に見とれている時間はなく、5人は車に乗り込んだ。運転はカネスケ、助手席に典一、後ろには残りの3人が乗車。
いつ教団の信者が襲ってくるかわからない暗い空気が漂う中で、カネスケが緊迫した口調で話しかけてきた。
「さっきこの周辺を偵察してきたんだ。するとどうやら、奴らはここを嗅ぎつけたらしい。正門側は、既に信者らしき奴らが彷徨いていた。一刻も早くここを出よう。」
典一がカネスケに尋ねる。
「裏口はまだ大丈夫なのか?」
「わからん。俺が戻ってきた時は、まだ誰も居なかったが奴らは血眼だ。裏門に来るのも時間の問題だろう。」
カネスケが車を急発進させようとする。だが、先生がそれを止める。
「あの門の先はT字路だな。それに狭い。奴らが車で道を塞いでいたら、逃げ道がなくなる。」
「確かに、確認して参ります。」
「いや、その必要もない。ある筈もない不自然なタイヤが顔を出しているのが見えぬか。奴らは、ここから我らが逃走するであろう事を既に把握している。そして恐らく、今この車に乗り込んだことも見られた。」
彼の考察が本当なら、俺たちは逃げ道を塞がれてしまったことになる。そうなると、このバンを放棄してどこか人気の無い場所から抜け出す以外に方法はないのではないか。
そう思い先生に尋ねると、彼がとんでもないことを言いだすのであった。
「正門を正面突破しましょう。」
カネスケがつい大きな声で驚いている。
「いや、それは無茶じゃないですか。バレますよ。それに、ここから正門へ抜ける道なんてないです。」
俺も同じく唖然としながら、その不可能な提案の意図を問いただす。
「中庭を突破するとでも言うのか?」
それを聞いた典一もまさかといった顔で先生を見た。
流石に先生は、そんな荒い真似をするはずがない。俺はそう思いながらも、それくらいしか道はないと、荒い方法を使う心の準備はできていた。あくまで心の準備であり、それ以外の穏便な良案が出てくることを期待した。
しかし、先生は笑って答えるのだ。
「ははは。その通りでございます。カネスケ、早く車を出しなさい。」
典一が若干焦り、先生に疑問を呈した。
「病院の庭を荒らす気か?」
「結果としてはそうなる。だが、荒らしてしまった庭は謝罪してから直せば良い。しかし、命は戻ってこない。」
カネスケは、典一が唸ってる間にも車を走らせ、花壇やらベンチを吹っ飛ばしながら突き進んだ。しかし、不思議なことにいくら硬いものにぶつかってもバンが凹みもしない。
疑問に感じて先生に尋ねると彼が答える。
「これが典一の実力です。車の表面に、薄い鉄壁の鋼を貼り付けてもらいました。なのでこのバンは、そこら辺の柔な物体と衝突しても凹むことは無いのです。」
典一がまたさっきと同じように照れくさそうにしていた。俺は、彼をこのチームに加えて間違いはなかったと確信したのである。
◇
花壇やオブジェをバキバキと破壊しながら中庭を突き抜けると、ついに正門が現れる。外側には、奴らの見張りらしき車が2台停車していた。
先生が指示を出し、カネスケが全速力で門を突破。そのまま道を駆け抜け、大通りへ飛び出した。
しかし、奴らが追ってくる気配がない。俺が疑心暗鬼の目で背後を見ていると先生が言う。
「あの病院は、本来車で正門から裏門まで通り抜けすることは不可能です。故に、車が裏口に停車していることがわかれば、もはや正門の見張りを強化する必要はない。そこで私は、変装して奴らに近付き、『革命団一行は裏口から逃亡する予定だ。』、という情報をあえて流しました。」
俺は、彼が言いたいことに気づいた。
「そうか。それで奴らは裏口へ確認をしに行き、そこでバンとタバコを吸っているカネスケを見てして確信した。革命団は裏口から逃亡すると。」
先生は、云々と頷いている。
「その通りです。そこまで情報に信憑性があれば、正門には最低限の見張りと、威圧目的の車を残して、裏口に専念することができます。」
カネスケは、なるほどと手を叩く。
「こんな状況下でタバコ吸ってていいぞ、って言ってくださったのは、そう言う事だったんですね。」
先生が相槌を打つ。
「しかし、奴らも気づいた頃でしょう。そろそろ追ってきます。検問の厳しい高速ではなく、下道の山道を使用して新潟まで逃れましょう。典一、案内は任せましたよ。」
典一は頷き、カーナビ以上に正確な道案内をして、一種の地元愛を見せつけるのだった。
その時、後方から複数の排気音が響く。追っ手である。カネスケは、アクセルを踏み込んでスピードを上げ、ぐんぐんと奥深い山道へ入り込んでいく。クネクネした道を猛スピードで駆け抜けるのは、学生の頃にゲーセンで遊んだレースゲームの以来だ。
しかし、狭い道に入っても、なお追っ手は付いてくる。すると先生が動いた。
「リーダー、猟銃を貸してください。」
言われるがままに猟銃を渡したすと、彼が猟銃を受け取り、窓を開けて後方を睨む。そして素早く銃を構え、奴らの車の前輪を撃ち抜いた。車はスリップして、追っ手は玉突きになる。そして、1台が崖から落ちていく所を確認できた。
それを見た紗宙は、目を見開いて感心している。
「銃も扱えるんですね!」
しかし先生は、何事もなかったかのような顔をして銃を俺に渡す。その自然すぎる振る舞いは、車の中を安堵感と高揚感で包み込んだ。
そして追っ手を巻いたと思うと、カネスケの運転が大人しくなる。とはいえ、いつまた新手が現れるとも限らないので、気を緩めるわけにもいかない。
それからしばらく、急カーブにうなされながらも北上。俺たちは、恐怖の渦中にいた今日という日を抜け出すかの如く、日付が変わるとともに三国峠を超えたのであった。
(第四幕.完)