第三幕!沼田の格闘家
文字数 8,339文字
床に着くといっても、狭い車のシートを浅く倒したベットにならぬ椅子の上である。疲れがまともに取れるはずもない。慣れない体勢に不満を抱きながらも、明日からのことを考えながら目を閉じる。爆睡しているカネスケを横目に見つつ、夢の世界に行こうとした時である。紗宙が俺の耳元で囁いた。
「なんかさ、現実と夢の境界線がわからなくなってきた。」
後ろを振り向くと、彼女がため息混じりの声で続ける。
「子供の頃は、普通に学校行って遊んで恋愛して、就職して結婚して幸せになって、そのまま年を取る。それが現実なんだって勝手に思い描いてた。でも、そうじゃないみたい。」
「ホントそうです、だな。」
何故か緊張してしまい、つい昼間の決め事に反して敬語が出て来る。彼女は、そんな俺を見て頬ましく見つめて来る。
「違和感ありすぎるよ、そのタメ語。真面目な話してるんだから笑わせないで。」
俺がごめんと謝ると、彼女はそれをスルーして話し続ける。その表情がどこかもの悲しげで、まだ心の奥底では当たり前だった日常へ戻りたいと思っているのだろう。
「いつかまた、普通に生活できる日が来るのかな。」
「できるよ。いつか必ず、これが普通だと言い切れる毎日を送ろう。」
「いつかきっと...。」
普通とは誰が基準を決めているのだろうか。今の世界の常識や在り方が普通なのだとしたら、それを変えていかなければならない。
俺がだんまりし始めると、彼女は場の空気がシラけたのに勘付き話題を変える。
「ねえ、せっかく旅に出たわけだし、何処か行ってみたいところとかないの?」
「そうだな、鹿児島かな。」
「え、逆方向じゃん。」
「全国統一したら行ってみたい。」
彼女は、でっかく答えた俺を馬鹿にしたように笑っている。どうやら、冗談のように聞こえているらしい。だが違う、俺は本気だ。本気なのだ。
「紗宙は、何処か行きたいところあるの?」
彼女は、ちょっと悩んでから答える。
「旭川に行きたいな。」
「北海道なら道中で寄り道できそうだな。」
「北海道着いたら寄り道しよ。」
こんな楽しい話をしていたら、いつの間にか2人は眠りに呑まれていた。俺たちはまだ、これから起こる様々な苦難を知るよしもなかった。
◇
東京を出立して2日目の朝が訪れた。この日はカネスケの運転で、関越道を北上して新潟まで向かう予定だ。 高速道路は、料金所で検問が行われ、規模も縮小。最高速度も80kmと衰退している。これは、各地で動乱が起きていることが原因だ。一都三県を出れば危険地帯。これが首都圏民の常識となりつつあるご時世で高速道路が通常営業していたら、それを伝っていつ敵が攻め込んでくるのかもわからない。物騒な時代になったものだ。
小休憩でサービスエリアに立ち寄った。このような社会でも、仕事やら遊びやらで地方に行く人間は多い。混雑する駐車場の端っこにバンを停車させ、車内で仕事をしている先生を除く3人で建物の中に入る。カネスケと紗宙は、いまだに旅行気分を引きずっているのか、ご当地ソフトクリームを買ってそそくさと車へと戻っていった。
俺はトイレを済ませ、皆より遅れて1人で車へ戻ろうとした。すると、駐車場の隅っこで、そこそこガタイの大きな男性が、白ずくめの3人組に暴行を受けていた。
3人組は、ゴルフのアイアンで男性を殴りつける。だが、全身血だらけの男性は、這いつくばりながらも抵抗している。しかし、多勢に無勢である。男性は急所を突かれ蹲った。それを取り囲んだ3人組の1人がアイアンを振り上げた。
彼はもう死ぬ。そう思った時、俺の足は無意識に走り込んでいた。格闘技すらろくにやったことがない。だが男には、戦わなければならない時がある。なぜかそう思っていた。
俺は、3人組のリーダー的な奴の脇腹に蹴りを決め込む。不意を突かれたそいつは吹っ飛び、コンクリートに顔面を強打した。2人が動揺している隙に、さっき蹴っ飛ばした奴の落としたアイアンを拾い上げ、残り2人の内1人の顔面を殴打した。その白ずくめは、折れた歯と血を吹き出しながら仰反る。
この時、俺は理性というものが見えてはいない。やらなくては報復で殺されると、なぜかそう盲信していた。白ずくめの残り1人がアイアンを構えて襲いかかろうとしてくる。
そんな中、通りかかった観光客の女性が悲鳴を上げたことでギャラリーが続々集まってきた。
白ずくめの3人組は逃走。俺も警察が来るとまずいと感じ、ガタイの大きな男性を背負い、目一杯の力で車まで逃走する。車内で待っていた3人は、血だらけの男と返り血を浴びた俺を見て、ひどく驚いていた。
慌てたカネスケが動揺で気持ちをハイにしながら尋ねて来る。
「おい、何があったんだよ!」
「早く発車させろ!!!」
俺は、カネスケを怒鳴りつけると座席に倒れ込んだ。怒鳴られた彼が車を急発進させ、アクセル全開でパーキングを飛び出す。
先生が焦るカネスケへ冷静に指示を出す。カネスケは焦って運転しているが、それでも彼の運転の技術はピカイチだ。猛スピードで的確に先行車両を抜いていく。紗宙は、慌てながらも救急箱から包帯や消毒液を取り出して、その男の治療をしてくれた。
俺は、とんでもない事に足を突っ込んでしまったという不安を隠しながら、車が停車するまで放心状態であり続けた。
◇
高速道路を降りた俺達は、人通りの少ないコインパーキングに車を止める。みんな突然のできごとに一時は騒然としていたが、ここへ着く頃には冷静に物事を判断できるまでには落ち着いた。
一呼吸置いた後、皆に謝罪してから事の経緯を話した。一通り聞き終わると先生が言う。
「状況はわかりました。殺されてないだけまだ良かった。」
皆がガタイの大きい男を見る。彼は相当鍛え上げられているようで、武人のような筋肉だ。
俺は、自分が助けたその男に尋ねる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、気にしないでくれ。」
「これも何かのご縁です。良ければあなたのお話聞かせてください。」
その男は、痛む全身を抑えながら話す。
「俺の名前は、河北典一。沼田在住の格闘家だ。さっきは本当に助かった。ありがとう。」
「当たり前のことをしただけです。」
俺は、自惚れることもなく淡々と答えた。そんな姿を彼が不思議そうな目で見てくる。
「しかし、君達は何者なんだ?」
皆が困惑した。何故なら俺達4人はただの一般人だ。さっきの件は、俺が衝動で首を突っ込んでしまっただけである。
紗宙が通りかかりの者ですと説明しようすると、先生はこう答えた。
「革命家。いや、レジスタンスとでも言っておきましょう。」
典一がよくわからない答えへの返答に困っている。俺達3人もついつい顔を見合わせた。
先生は、特に気にすることもなく話を続ける。
「さっきあなたを助けたその男が蒼。この団体のリーダーです。そして車を運転しているのがカネスケ。あなたの治療をしたのが紗宙。私は諸葛真と申しまして、皆からは先生と呼ばれております。」
「なるほど。革命家というのはイマイチわからんが、先程の事は本当に感謝をしている。あんたらは命の恩人だ。」
俺は、謙遜してから話を戻す。
「典一さん、さっきはどうしてあんなことになっていたのですか?」
彼は、長くなることへ断りを入れると、深刻な顔つきで語り出す。
「俺は、格闘技の道場で子供達に武術を教えている。その傍ら、例の宗教から脱退したい方や、子供狩りにより宗教団体に売り飛ばされた少年少女を助け出すという活動をしていた。
だが、そのことが目障りだったのであろう。奴らは、末端信者を利用して俺を殺害しようと計画。
そしてあのサービスエリアにて、複数で背後から襲いかかってきたのだ。」
「あの宗教とはもしかして。」
「そのもしかしてだ。土龍金友を教祖とする新興宗教ヒドゥラ教。奴らは、自分達にとって目障りな人間をこの世を腐らせている害人(がいと)だと教え込まれている。害人はヒドゥラ教の信者の手で駆除することで、宇宙神の裁きを受け、真っ当な人間として生まれ変わるなどと信じ込んでいる。故に奴らは、金友が害人とみなした人間を殺すことに躊躇いすら感じないのだ。」
「やはり。実は、私の弟がヒドゥラ教の信者でそんな事を話していたのですが、事実だったとは...。典一さんは今後どうしていくおつもりですか?」
「勿論、奴らと戦う。」
当たり前のようにカルト教団へ立ち向かおうとする典一。その姿を紗宙は心配そうに見つめていた。
「でも、次は殺されるかもしれない。」
「たとえ殺されてでも、やらなくてはならぬ事があるのだ。」
典一は、バッサリと宣言してから、一呼吸置くとまた語り出す。
「5年前、俺の道場の教え子が奴らによって洗脳された。元々は純粋で礼儀正しい期待の門下生であった。しかし、夢や希望、世界を救うだの奴らの綺麗事に騙され、まんまと引き込まれてしまう。そしてヒドゥラ教に入信してから、どんどん内向的かつ反社会的に堕ちた。
ある日、その子の両親から連絡が入る。ウチの子が出家するから、家族を捨てると言い出したので説得してくれないかと。それからというもの何度も説得を試み、何とか出家を止めると言ってくれるまでに良心を取り戻させることに成功した。
でもそれは、奴らの手によって打ち砕かれた。
出家を止めると決めたその子は、教団の施設に監禁されて拷問のような洗脳を受ける。加えて実家対しても攻撃が行われた。その攻撃とは、家族がその子に対して監禁や洗脳を行い、暴力道場にボディーガードを依頼して自由を縛っている、と言った虚偽内容の書かれたチラシを町内にバラ撒く嫌がらせだ。
恐怖のあまり、家族も引き止める事を諦めた。そして、ついには出家したその子は、私たちの前から姿を消してしまった。」
彼は悔しそうに拳を握り締め、歯をキリキリと鳴らしている。その瞳は、あまりの怒りから真っ赤に充血していた。
「この事例は、沢山有る内の1つに過ぎない。奴らを成敗して、俺の住んでる町からは追い出したい。そして、皆が安心して暮らせる時代を取り戻したい。」
そこまで話すと、彼が傷だらけの身体を手でさする。表情には苦痛が滲み出ており、とても痛そうである。
俺は、人の痛みを分かち合うことが苦手な為、彼の語りをなんとなく聞いていた。しかし彼は、傷の痛みに耐えながら、これからの予定を告げる。
「奴らは今、沼田近郊に新しい教団施設を建設中だ。だから俺はそれを何とか阻止したい。」
「なるほど。それでこれから、そこへ向かおうとしているのですか?」
「ああ。早く行って施設をぶっ壊さねば。」
カネスケは、生々しい典一の傷跡を見ながら彼を引き止めようとした。
「いやいや。この傷じゃ流石に厳しいですよ。」
しかし、典一はふらふらしながら立ち上がり、車を出ようとする。その姿は、執念そのものであった。
正直な話、彼がどうなろうと彼の自由だ。俺達の計画には関係の無い事である。だが、苦難に直面している人間が目の前にいるのに、それを見て見ぬ振りしてよいものだろうか。やはり関わった以上、彼を助けるべきではないか。
昔の俺なら迷わず知らぬ顔をしていただろう。だけど、もう逃げないと決めたのだ。答えは1つである。
「俺も一緒に行きます。関わった以上最後まで責任取らせて下さい。」
「いや、命を助けて頂いた上に協力をして頂くなど申し訳ない。見ず知らずの私にそこまでして頂かなくとも大丈夫だ。奴らくらい俺1人で成敗する。」
もちろんヒドゥラ教など、カルト集団とは関わりを持ちたく無いと思っている。しかし、首を突っ込んだ以上、いつ奴らから報復を受けるかわからない。それ故に解決する以外、枕を高くして寝れる日は来ないであろうと俺は考えた。
「いえ一緒に向かいます。私もヒドゥラ教の悪行は、いつか何とかしなくてはと考えていた身であります。それに、人々が安心して暮らせる新しい国を作るなど言っている私が、人助けの1つできないのでは、ただのホラ吹き男になってしまう。」
典一が悩んでいる。その姿を見たカネスケは溜息をついた。
「正直、あんなカルト教団と対峙することは避けたい。でも、困っている人や同じ志を持った人間を見捨てるような行為は、最も避けたい。だから俺は、蒼に同意する。」
典一が申し訳なさそうな顔で俺とカネスケを見てくる。すると、カネスケに続くように紗宙も彼と向き合う。
「私も2人に同意。こんな傷だらけの人を放っておけない。それに、ヒドゥラ教と子供狩りの繋がりについても知りたい事があるから。」
残るは後1人。俺は、タブレットでメールを確認している先生をジッと見つめる。
「先生。少し遠回りにはなるが、必ず事を成し遂げる。どうか協力してくれないか。」
彼は、わかっていたかのように首を縦に振る。
「わかりました。ヒドゥラ教は、いずれぶつからなければならぬ相手。敵を知っておく事も悪くないでしょう。」
全員から同意を得ると、俺は再び典一と向き合う。彼は、申し訳なさそうにしながらも、宜しくお願いしますと頭を下げた。
◇
皆の緊張が多少はほぐれてきた頃。先生の提案で場所を温泉の駐車場へと移した。
まだ傷が癒えず、寝たきりの典一は車から動けない上に、奴らがいつ襲ってきてもおかしくない。それ故に見張りが必要な為、交代で温泉に入ることになった。だけれども、どこで教団信者と遭遇するかもわからない状況は、温泉ですら癒しきれない恐怖を心に植え付けていた。
それから数時間後。全員が戻った所で典一を起こして作戦会議が始まる。
まず先生が典一に尋ねた。
「1つ確認しておきたい。今回の作戦の目的は奴らを街に寄せ付けない事か?
それとも、私的な復讐の為に教団施設を破壊する事か?」
「勿論前者だ。その目的を成す為に、見せしめとして施設をぶち壊す。」
先生は、少し考えてからこう答えた。
「なるほど。目的が前者なのであれば、ただ施設を破壊するだけでは、奴らは報復として街や住民に何か危害を加えて来る。更には、根強く布教しようとしてくるだろう。」
「では、どうするのが良いのかな?」
「あえて派手に奴らと戦うことだ。」
典一が疑惑の目で先生を見た。
「なぜ派手に戦うか?」
「住民の多くは、ヒドゥラ教を疑っていても決定的な実害が少ない為、日和見を決め込んでいる。それに、信者が増えることに危機感を感じていない者が多い。また、危機的状況に気づいていても、恐ろしくて傍観している者も少なからずいる。」
カネスケは、先生の策の意味を理解できたようだ。
「派手にやることで、住民に奴らの危険性をアピールできて警戒心を強めることができる。それに、抵抗することへの勇気を与えられる。ということですよね?」
「その通りだ。警戒心と勇気を住民に植え付けることで、彼らが自ら街を守る為に動いてくれる。そうすると、奴らも新たに布教しにくくなるのだ。」
俺は、1つの疑問を投げかける。
「しかし、そんな事をすれば最初の話にもあったように、奴らの敵意は住民に向くかもしれない。そこはどうする?」
「そうならない為にも、派手にやり合うのです。」
カネスケがまさかといった顔で尋ねた。
「もしや、派手に暴れて印象付け、奴らの敵意を全て俺達が引き受ける。って考えじゃあないですよね?」
先生は、それを聞いて笑った。
「いやーカネスケ、全く君は感が良いな。奴らの目をこちらに向けさせる。そうすれば、ヒドゥラ教信者が沼田住民へ抱くヘイトは、多少なりとも軽減されるはずだよ。そして我々は、奴らから逃げつつ、新潟へと北上するのだ。」
カネスケは黙り込み、足をガタガタ震わしている。それを横目に俺は答える。
「それで構わん。ヒドゥラ教の末端信者ごとき、いつでも相手になってやるよ。」
「本当にそれで良いのか?」
典一が心配そうに尋ねてくれたが、多少躊躇いながらも気にすることはないですと答えた。そして言い切る。
「そうと決まれば、どう派手に暴れるかを考えよう。典一さん、奴らの施設はどのようなものか聞かせてください。」
あまりにも威勢が良いものだから、典一もそれならばと決意してくれたのだろう。
彼は、知っている情報を具体的に説明する。
「奴らの新しい施設は、住宅地から少し離れた田園のど真ん中にある。見晴らしが良く、近付くにもすぐに見つかってしまう。また、完成目前という事もあり、昼夜問わず白装束の見張りがうろついている。隙がないのが現状だ。」
さっきまでビビっていたカネスケも、腹を括って会議に積極的に向き合う。
「できることなら、灯油でも巻いて全焼させたいよな。」
すると、カネスケの案をそのままスライドさせるように典一が提案した。
「夜の方が手薄だから、やっぱり夜襲だろ。闇に紛れて灯油を巻いて、爆竹使って派手に吹っ飛ばそう。」
「けど、夜やっても誰が燃やしたんだか分かりにくい。敵の目を私達に向けさせるっていう目的を達成しにくいんじゃない?」
紗宙は、思いのほか冷静に意見を述べた。それを聞いた典一が言葉を詰まらせる。
すると先生は、答え合わせのごとく作戦を打ち出す。
「決行時刻は日中だ。そして私、紗宙、カネスケの3人で入信者になりすまして中に潜入する。そこでこいつを撒くのだ」
先生の手には、いつの間にかガス缶が入ったビニール袋があった。
「撒き終わったあたりで大暴れして、そのまま施設を出る。逃走しながら奴ら引きつけ、教団施設から遠ざける。」
彼は、ガス缶の入った袋から打ち上げ花火を取り出して俺に渡した。
「頃合いを見計らい、リーダーがこいつを打ち込み、施設を吹き飛ばします。それから、典一が車でリーダーを拾い、そのまま3人を救出。奴らのど真ん中を突っ切り、新潟方面へ向かうのです。」
俺は、ふとあることに気づき、全身に力が入る。
「もしかすると、人を殺すことになるのだな。」
「ええ、そうなります。」
先生が表情ひとつ変えずに答える。俺は怖くなって、手の震えが止まらなくなった。
そんな俺を見ていた先生は、落ち着けと言わんばかりに付け加える。
「ですが、なるべくそうならないように、私たちが奴らを引きつけるのです。」
少し安心した。だが、それも束の間である。俺は、この作戦に待ったをかけた。
「先生やカネスケはともかく、紗宙は女性だ。敵のど真ん中に放り込むなんて危なすぎる。やっぱり俺が...。」
すると紗宙は、涼しい顔で口を挟んだ。
「心配してるくれるのは嬉しいけど大丈夫だから。それに、蒼も典一さんも顔バレしてるじゃん。」
反論しようとした。しかし、彼女は強気な眼差しでこちらを見ていた。だから、わかったとしか言えなかった。
カネスケが先生に尋ねる。
「中々凝った案ではありますが、派手に爆発させただけじゃ住民の心に何も響かないのではないですか?」
「ふふふ、その為の策はもう既に打ってある。」
皆が先生に注目する。
「私の知人に、群馬の新聞社で働いている男がいてな。そいつに依頼して、奴らの施設に化学兵器が隠されているという噂を流させた。その記事は、新聞の表紙になるどころか、ネットニュースにも取り上げてくれるらしい。」
俺は、彼の仕事の早さに驚かされる。
「なるほど。それで奴らに注目を集めておいて、施設で爆発が起これば。」
先生はニッコリ笑う。
「そう。奴らは住民にとって、完全に危険団体と認識されるのです。それに、今までの強引な勧誘や信者監禁の件による先入観が合わされば、ここの人々は街から奴らを追放しようとするでしょう。またこれだけ大騒ぎすれば、官軍や警察も動くかもしれません。そうなれば奴らは、この街から出て行かざるを得ないのです。」
「内容は分かった。だが実行するとなると、噂の広まり具合にもよるけど、今日明日じゃできないな。せめて数日は必要だ。」
「そうですね。期間を設けた方が、下準備も十分できるので宜しいかと思います。」
「じゃあその案で事を進めよう。それから昼の件もあり、奴らは俺達を探している可能性は高い。場所を出来るだけ転々と変えて、見つからないようにしよう。」
こうして、会議は終わりを迎えた。俺も含め他の3人も、こんなにも早く危険な闘争に身を投じることになるとは、誰も考えてはいなかった。
革命の前哨戦は、もう始まろうとしているのかもしれない。
(第三幕.完)